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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 二節 狗鬼討伐依頼編

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第34話 これがホントの骨休めってやつだ

あの戦いから、五日。

静けさが戻った街の片隅で、ガルはひとり、苦いコッフェを啜る。

“何もしてねぇ”という自己評価と向き合いながら、ようやく立ち止まる時間が訪れる。

 昼下がりの酒場には、開店前の静けさが漂っていた。

 俺はいつもの席に腰を下ろし、湯気の立つ黒い液体――コッフェを啜っていた。

 あの戦闘から、もう五日が経つ。

 戦後処理もほぼ片付き、街はいつもの喧騒を取り戻しつつある。

 だが俺は、まだその輪に戻れていない。

 ゼペットの野郎に「治るまで禁酒だ」と言われた。

 渋々、この苦くて熱い飲み物で我慢している。


「こんな飲み物があるとはなぁ」


 隣に座った大将が、感心したようにコッフェのカップを持ち上げる。

 今はまだ営業時間前。客の姿もなく、厨房からは下ごしらえの香りがうっすらと漂っている。


「まぁ、飲み物ってより、最初は毒かと思ったがな」

「この苦味と香ばしさ……悪くない。ウチの店にも置くか」

「今度ピュートを紹介してやるよ。元はあいつの趣味みたいなもんだ」

「ほう、ありがたい」


 こんなふうに、ただ話すだけの時間が久々すぎて、逆に落ち着かない。

 左手は包帯でぐるぐる巻き。依頼にも出られず、日がな暇を持て余している。


「そういや、今日からギルドがこの間の報酬を払うって言ってたぞ?」

「ああ、そうだったな」

「行かないのか?」

「俺は何もしてねぇ。貰える資格があるとは思えん」

「でも、偵察したんだろ。初動の切っ掛けはお前だって聞いたぞ?」

「現場じゃ何も出来なかった。ただ見てるだけ。それで報酬を貰ったら、他の奴に示しがつかねぇ」


 俺がそう言うと、大将は少しだけ目を細めた。


「……そういうとこ、真面目だよな、お前」

「うるせぇよ」

「照れてるのか?」

「照れてねぇって」


 くだらないやりとりの最中に、扉が開いた。


「おはようございまーす!」


 セリファが店に入ってきた。


「なんでガルがいるの?」


 開口一番がそれか。


「そこで会ってな、話の流れでここに。それよりセリファ、ガルの相手してやってくれ。俺は仕込みに戻る」


 大将はヒラヒラと手を振りながら厨房へ消えていった。


「何で私が……、掃除とかあるんですけど」

「いいじゃねーか、綺麗だから」


 相変わらず適当な大将だ。

 セリファは大将のいた席におずおずと腰を下ろした。


「何それ?」

「コッフェ。飲むか?」

「……真っ黒。これ炭じゃないの?」

「見た目はな。飲んでみなって」


 セリファはおっかなびっくりカップを手に取り、一口――


「にっが!!」


 顔をしかめて身震いする。


「アハハハ!わりぃ、砂糖とミルク入れるの忘れてた」

「絶対わざとでしょ!」


 俺は笑いながらミルクと砂糖を入れてやる。セリファはしぶしぶ再挑戦。


「……さっきより苦くないけど……、やっぱり苦い」

「目が覚めるだろ?」

「私は甘いのが好きなの」

「だろうな。果実酒ばっか飲んでるし」

「言い方!」


 プンプンしながらも、セリファはコッフェをちびちびと啜る。

 表情は複雑だが、香りにはどこか癒されているようだった。


「香りは……好き。落ち着く」

「だろ?」


 しばし、静寂。

 厨房の包丁の音が微かに聞こえる。昼前の、ゆるやかな時間。


「……怪我、したんでしょ?」


 セリファの声に、俺は左手をちらと見せた。


「ああ。無茶したツケってやつだ」

「心配させないでよね」


 ふいに目を逸らしながら、彼女は小さく溜息をついた。


「なに、心配してくれてんの?」

「バカッ」


 赤くなった耳が全部を物語っている。


「まぁ、頑張って死なないようにはしてんだけどな」

「信用ならないの」

「はいはい」

「お主ら、いっそ付き合えばよかろうが」


 厨房から聞こえてきたのはグローの声だった。


「なっ!?」

「お主がおらぬから、家まで行ったぞ。まさかここにおるとはの」


 当然のように俺の隣に座り、目の前に金貨の袋をドンと置く。


「何だそれ」

「お主の分、報酬じゃ」

「……いらねぇよ」

「何を言うか。偵察と冒険者を募って兵力にした機転、立派な功績だわい」


 グローは袋を再び俺の前に戻し、俺のコッフェを勝手に飲む。


「拗ねておるのか知らんが、少しはシャキッとせんか」

「手が治るまで、俺は休業だ」


 本当は、自分でもよく分からない。

 虚しさか、焦りか、空白が心の奥で揺れている。


「採取依頼でもこなせばよかろう」

「金にならねぇよ」

「お主は短命種じゃろうが。少しは自分を労われ」


 その言葉が妙に胸に引っかかった。

 そういえば、ちゃんと“休んだ”ことなんてなかったかもしれない。

 スラムで生き延びるため、拾われてからは恩返しのため。

 今まで、走りっぱなしだった。


「……確かに、長期休暇なんて経験ねぇな」

「完治するまでは何もするなよ?セリファ、ガルの監視を頼む」

「はぁ!?なんで私が!?」

「仲がいいからじゃ」

「俺を何だと思ってるんだ……」

「油断すると、勝手に鍛錬場で剣を振るってそうじゃからな」


 2人のやりとりをぼんやりと眺めながら、

 俺は少しぬるくなったコッフェを、静かに啜った。

“休む”という行為そのものに、ガルは不器用です。

普段は不真面目な言動をしていても、やはり根は真面目。

「役に立てなかった」と自責する彼が、仲間との何気ないやりとりや静かな日常の中で、少しでも心をほぐしていればと思います。

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