表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 二節 狗鬼討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/67

第30話 これが総力ってやつだ

作戦決行を前に、再び作戦現場へ戻るガル。

集まったのは、ギルド、軍、そして老軍医。

命を落とさないために、彼らが用意したのは「総力戦」。

耳長人(エルフ)のじいさんまで連れてきたのか」


 俺が村に戻ったのは、作戦開始の前日だった。

 俺の背後にいた老耳長人を見て、グローが呆れたように眉を上げる。


「何じゃこの無礼なずんぐりむっくりは。礼儀も知らんのか」

「……なんだと?」


 怒気を込めて睨み返すグローに、老耳長人――ゼペットはあくまで平然としている。


「それより、王国軍の責任者はどこじゃ?話が通じる奴を呼べ」

「私です!」


 声を張り、前に出たのはサリィンだった。


「ほう、良い面構えじゃな。名は?」

「王国軍東方司令部所属、サリィン・ローノー伍長です!」

「伍長……。なるほど、戦後配属組か」

「ええ。戦場経験はなく……至らぬ点が多いかと……」

「いや、そういう意味ではない。お主には将の器がある。ワシが保証する」

「は……?」


 面食らうサリィンに、ゼペットは柔らかく笑い、手を差し出した。


「ワシはゼペット。元王国軍の軍医、今は街で細々と医者をやっておる。今回は大規模な作戦になると見て、野戦病院の設営と医療班を連れてきた。後から看護師や衛生兵も合流する手はずじゃ」

「本当に、ありがとうございます……!」


 ゼペットの申し出に、サリィンは深く頭を下げた。


「それから、フィロー商会に頼んで補給の手配も済ませてある。医薬品や保存食の類もすべて」

「なんと……!補給は軍でも苦労していたのです。助かります、ガル殿!」

「ふん。急造にしては、軍隊らしくなってきたのう」


 グローが顎髭を撫で、にやりと笑う。周囲では、冒険者たちが続々と村へ集結しつつあった。ブリジットが一人ひとりに声をかけ、参加を取り付けている。

 新人から歴戦の古参まで、様々な者たちが集まってきた。

 だが、問題はこの数だ。


「冒険者たちは、職と練度に応じて小隊を編成しているところだ。小隊長には王国軍の兵士を立てる予定です」

「それが正解だな。個の力があっても、集団戦は別物だ。隊として動くなら、連携が何より要る」

「だから、短期ではありますが、連携訓練も施しています」

「どこまでついてこれるか……」


 俺は少しだけ視線を落とした。

 冒険者というのは、良くも悪くも――ならず者だ。

 実力があるなら、安定した王国軍に入る道もある。それでも彼らが冒険者に留まるのは、自由を選んでいるからだ。言い換えれば、協調性に欠ける者が多い。

 集団行動が苦手な連中の寄せ集め。

 命令系統が乱れれば、瓦解するのは早い。


「長引けば、不利になるぞい」


 グローが低く呟いた。


「わかってる。だが、一日で終わる相手でもねぇ……サリィン、ちょっといいか」


 俺はグローを伴い、サリィンとともに作戦本部にしていた空き家へ入った。


「東方司令部から何か指示はあったか?」

「いえ……お二人の報告は既に送っていますが、未だ指示は来ておりません」

「この作戦についても?」

「ギルド経由での通達も含めて、報告はしております」

「つまり、黙認……いや、丸投げってやつか」

「成功すれば軍の手柄、失敗すればギルドの責任……そんなとこじゃな」


 グローの言葉に、俺は苦笑すらできなかった。

 確かに軍に人手はない。けれど、この街の命運がかかった戦いだ。

 失敗すれば、村どころか街もただでは済まない。


「……絶対に負けられねぇな」


 俺は窓の外、薄く霞む鉱山の方向を見据えた。


「ガル、一つ気になる事があるんだが」


 グローの声に、俺は顔を向けた。


単眼鬼(サイクロプス)が坑道にいたのだろう?」

「ああ、体長は三メートル前後。重装甲で、しかもそこそこ頭も回る。戦場慣れしてるようだった」

「……問題は、そやつがどこから来たのか、じゃ」


 その一言で、血の気が引いた。

 あの坑道で見つけた穴は、せいぜい一・五メートル。

 三メートルの化け物が通れるサイズじゃない。


「……つまり、他にも()があると?」

「奴らが補給を確保できているとなれば、荷車が通れる規模かもしれん」

「木こり町だけじゃなく、この鉱山そのものを要塞化している可能性もある」

「仮にそれが事実なら……今まで出てきたコボルドの数は、明らかに少なすぎます」


 サリィンの顔が険しくなる。


「数百の兵を潜ませているなら、食料や水の問題が出る。つまり、奴らには“後方”がある」

「そいつの指揮官、かなりやり手だ。ここまで完璧に隠しおおせたんだからな」

「報告は引き続き上げます。援軍の見通しは薄いですが……」

「来たとしても、もう遅いかもしれんの。ガルの発見で動き始めているやもしれん」

「……チッ」


 俺は奥歯を噛み締めた。

 斥候としての失態。気づかれるなんて、致命的すぎる。


「ガル、お主のせいではない。ワシも強敵の存在は察していたが、まさか単眼鬼とは」

「いや、グローが『強敵』と言ってたんだ。俺が見に行った意味なんて――」

「あります!」


 ピシャリと、サリィンが強い声を上げた。


「ガル殿が命を賭けて掴んだ情報があったからこそ、敵の規模や性質が見えてきました。補給路の可能性にも気づけました。これが“功績”でなくて何でしょう!」

「そうだ。あの情報がなければ、今も我々は敵の正体も掴めておらんかった」


 グローの顔がいつになく真剣だった。

 そうか、これが軍人の顔なのか。


「ガル、一つだけ教えてやろう。戦で一番重要なことは何じゃと思う?」

「……勝つことじゃないのか?」

「いいや――負けないこと、生き残ることじゃ。そしてこれは、何があっても《《負けられん戦》》だ」

タイトル通り「総力」が動き出す回です。

ゼペットというキャラが、ただの医者ではないと伝わったでしょうか。

サリィンとのやりとりは、静かだけれど確かな信頼の始まりでもあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ