第2話 まずはエールでも飲んで
一杯のエールと一本の依頼書。それが、次の冒険の扉を開く鍵になる。
賞金稼ぎの朝は、ゆっくりと始まる。
俺とグローは依頼について話し始めた。酒場の中は静かで、ぽつりぽつりとしか人の声が響かない。カラン、カラン、と酒場の隅で賑やかな音が響く中、グローはポーチから取り出した依頼書をテーブルにドサッと置いた。
「次の依頼、これはどうだ?」
依頼内容は巨人の討伐だ。報酬も悪くないが、少し街から遠く、移動には往復で四日かかりそうだ。
「報酬はそこそこいいが、ちょっと遠くないか?移動費考えると、矮鬼の巣潰すのと大差ないだろ」
俺は依頼書を見ながら首を傾げた。報酬額自体は中々だが、その分移動のコストがかかるし、単独で行くにはかなりのリスクがある。
「相変わらず人間はせっかちだのー。これ単独で行く訳がないであろう」
グローはニヤニヤとした顔で続ける。そして、ポケットからもう1枚の依頼書を引き出し、さらにテーブルにスライドさせた。
「商団の護衛?」
俺が尋ねると、グローは頷いた。
「そうだ。行き先が巨人の目撃現場に近い。護衛中の出費は全部商団が持ってくれるしな」
俺はグローの顔を覗き込み、さらに食い下がった。
「飯代も?」
「飯も向こうが用意してくれるらしいぞ」
グローは俺の巻き煙草を無遠慮に取ると、ぐっと吸い込んだ。煙草の煙が肺の中を漂い、やや不快なまでに濃い煙が彼の周囲に漂う。
「何それ、おいしい。報酬もかなりいいな」
「これで、移動費は考えなくてよいであろ?」
グローは煙を大量に吐き出しながらニヤリと笑った。その顔を見て、俺は再び煙草を口にくわえて言った。
「最初から2枚見せろや!」
俺はグローから巻き煙草を奪い返し、吸い込む。奴が一枚目の依頼書で焦らしたからだ。少しむっとして言った。
「1枚目で判断する短慮なお主が悪い」
言い合っている最中、グローの顔には満足げな表情が浮かんでいる。少しムカつくが、やっぱりこうやってやり取りしていると気が楽になる。表向きには冷静でいようと心掛けているが、内心ではかなり楽しんでいる自分がいる。
「お前がいちいち勿体付けるからだろー」
「お主に言われとうないわ」
俺が言うと、グローはうるさそうに耳を塞ぐような仕草を見せた。その時、また厨房の扉が開き、金髪のウェイターが現れた。セリファだ。
「はいはい、喧嘩しない!」
セリファが間に入ってきて、俺達の目の前に樽ジョッキを置きながら、冷ややかな視線を送ってきた。彼女は酒場で唯一、ちょっと冷たい目をしている女性だ。少し耳が尖っているのは耳長人の血が入っているからだろう。
「アンタ達2人って、仲いいのか悪いのか分からないわ、ホント」
セリファが呆れた顔で腰に手を当てた。
「仲がいい!?」
「ワシとコヤツが!?」
俺達は同時にセリファを睨む。セリファは何も言わずに背を向けて、パタパタと面倒臭そうに手を振った。
「そういうとこ、息ぴったりよね」
言って、セリファは厨房へと消えていった。
「ったく……」
俺は再びエールに口をつける。苦味が少なくて飲みやすい。頭の中をスッキリさせるために、何度か口に運ぶ。やっぱり、このエールが最高だ。
「やっぱここのエールが一番旨い!」
思わず頬が緩んでしまう。このエールには、俺の疲れた体を癒してくれる何かがあるんだ。
「そうか?ワシは南部のエールの方が好きだわい。ここのはちと甘い」
グローが自分のジョッキを置いて、また不満げに言う。
「どんだけホップ入れてんだよ、南部の酒は」
俺が言うと、グローはニヤリと笑いながら2杯目のエールを受け取る。
「苦味の良さが分からんとは、まだまだお子ちゃまだの」
俺は再び巻き煙草を取り出し、グローを見ながら吸い込む。
「うるせぇ老い耄れが!」
「ワシはまだ若いわ!」
俺達の掛け合いを無視するかのように、セリファが再び登場して、軽く咳をしてから言う。
「他にもお客さんいるんだから喧嘩すんな!」
叱られた俺達は、小さくなりながらも、それでもまだやり取りを続けた。
まだまだ日常パートですが、依頼内容や登場人物たちの空気感を楽しんでもらえると嬉しいです。
「グロー」の存在が物語にどう関わっていくのかも、今後のポイントです。