表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 二節 狗鬼討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/67

第27話 戦略的撤退

巨大な単眼鬼。

生き延びるために、ガルは武器ではなく“隙”を狙う。

 グルグルと喉を鳴らす単眼鬼(サイクロプス)

 足元に転がしていた巨大な棍棒を、まるで小枝でも拾うかのように持ち上げた。

 あれを喰らえば、肉も骨も粉々。跡形もなく地面に叩き潰されるだろう。


「クソ……、逃げるにも出口はあいつの背後か……」


 この先の坑道を突き進んでも、行き止まりの可能性が高い。

 袋小路で終わるのは目に見えている。

 逃げ切るには、単眼鬼の脇を突破するしかない。

 だが、単独の人間(ヒューム)で倒せる相手ではない。

 俺が逡巡していると、単眼鬼は咆哮を上げながら棍棒で地面を何度も叩き始めた。

 硬い石床に叩きつけられた棍棒が、振動と粉塵を巻き上げる。

 完全に興奮状態だ。

 単眼鬼は知性を持つが、人語を介すことはない。

 バズグルのように言語による駆け引きは通じない。

 純粋な力と反射神経の勝負になるのだが。

 圧倒的力を前にしては勝機など、ほぼゼロ。


「だが、皆無じゃない……」


 俺は呟きながら、足元に落ちていた壊れかけの鶴嘴(ピッケル)を拾い上げた。

 ヘッドとシャフトの接合部分は錆で朽ちていた。

 足でヘッドを踏みつけ、思いきりシャフトを引っこ抜く。

 手元に残ったのは、ただの棒切れ。


「行けるか分からんが……やるしかねぇ」


 この棒で棍棒の軌道を逸らし、突破口を開く。

 他に道はない。

 坑道の奥からは狗鬼(コボルド)の足音が近づいてくる。

 先ほどの音が奴らを刺激したのだ。

 時間をかければ状況はさらに悪化する。

 今しかない。

 俺は地面を蹴り、単眼鬼へと突っ込んだ。

 巨体が棍棒を横に振る。

 賢いな。

 横薙ぎは縦振りよりも避けづらい。


(頼む、折れないでくれ……!)


 右手で棒の端を握り、左手は拳を固めて棒を添える。

 棍棒が唸りを上げて迫ってきた。


 ――ドンッ!


 衝撃が全身に響く。

 軋む。

 俺の骨か、それとも木材か。

 判別不能だ。

 しかし、一瞬、棍棒の軌道が逸れた。

 頭上をかすめる音。


——いける!


 だが衝撃は全身を揺さぶり、両腕は痺れて動かない。

 このまま立ち止まれば、再び棍棒の餌食だ。

 俺は棒を捨て、体勢を崩しながらも走り出す。

 単眼鬼は棍棒を全力で振り抜いた勢いでバランスを崩していた。

 代わりに、狗鬼たちが雄叫びを上げながら迫ってくる。

 先頭の1匹が目の前に。

 俺は跳躍し、右膝を奴の鼻先に叩き込んだ。

 倒れた狗鬼を踏み台にして、再び加速する。


(時間稼ぎ……時間稼ぎが必要だ)


 狗鬼は四足で走る。

 人間では到底敵わない。

 このままでは追いつかれる。

 チラリと背後を見る。

 4匹、いや5匹か。

 すでに距離は詰まり始めている。


(何か……足止めになるもの……)


 所持品を思い返す。

 ()()がある。

 右手を痺れたまま無理やり動かし、雑嚢から閃光爆弾を引き出す。

 導火線を角灯(ランタン)の火に近づけるが、走りながらではなかなか火がつかない。


「クソ……っ!」


 よっとの思いで火がついた。

 タイミングを測り、手から閃光爆弾を放る。


 ――バンッ!


 ちょうど通路が右へ曲がる直前。

 閃光と衝撃音が響いた。

 続いて、背後で狗鬼たちが壁に激突する鈍い音。


(よし、少しは稼げた)


 しかし、まだ遠い。

 あの穴までは距離がある。

 単眼鬼は追ってこない。

 ただ、狗鬼の数が読めない。

 下手に戦闘すれば、湧くように増えてくるだろう。

 閃光爆弾はあとひとつ。


「俺にも魔法が使えたら……!」


 グローみたいに壁を壊せたら……。

 だが、選んだのは俺。

 引き受けたのも俺。

 やりきるしかない。

 視界の先に、あの穴が見えた。

 だが、同時に狗鬼の姿も。

 1匹だけ。


「1匹なら……斬り捨てる!」


 俺は閃光爆弾をしまい、左手で刀の鞘を掴もうとする。


「……ぐっ!?」


 激痛が走った。

 左拳――さっき単眼鬼の棍棒を受け流した時に、骨にヒビが入ったか。


「クソが……っ」


 だが止まれない。

 膝を突き出し、狗鬼の鼻先に叩き込む。

 倒れた狗鬼を踏みつけ、再び前へ。

 追ってきた狗鬼の足音が背後に迫る。

 閃光爆弾に火を点ける。


 ――3、2、1……!


 投下。

 爆発。

 左腕で目を覆う。

 視界を失った狗鬼たちが、通路で転倒していく。

 だが。

 ひときわ鋭い爪が、俺の背を引っ掻いた。


「ッ、ぐっ……!」


 閃光をかいくぐった狗鬼か。

 背後から飛び掛かってくる。

 俺は転がりながら向き直り、右手で投げ小剣(ナイフ)を引き抜く。

 そのまま狗鬼の頭部に突き刺す。

 短く呻き、倒れる狗鬼。

 死体を蹴飛ばし、もう一度――走る。

 そして、ようやく。

 坑道の先に、外の光が差し込んでいた。

ピンチを切り抜ける系の戦闘回です。

ガルの「力押しではない戦い方」、見ていただけたでしょうか?

ピッケルを拾ったときの静かな決意が好きな描写です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ