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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第18話 余計な手間を取らせんでくれ

敵意なき巨人、刃を向ける意味はあるのか?

任務と良心、その狭間で、彼は独自の答えを探す。

「あそこにいるのが巨人(トロル)です……」


 茂みに隠れたまま、ガーランが声を潜めて言った。

 村から小一時間。山を少し登った先に、ぽっかりと開けた草原があった。

 濃い緑の草花が一面に生い茂り、その中心に、ぽつねんと巨影が座っている。


「……確かに、三メートルはないな」


 遠目にもそれは分かった。標準的な巨人にしては小柄だ。

 腰巻きと胸当てをつけた軽装の鎧。武器の類は確認できない。

 武装と言うにはあまりにも中途半端な格好だ。


「あれは武装って言えるのか……?」

「何を言ってるんですか! 鎧を着けてるじゃないですか!」


 圃矮人(ハーフリング)の感覚では、あれでも十分な脅威なのだろう。


「脚も腕も、頭すら丸出しだ。それに、あいつは武器を持ってない」

「岩を投げてくるかもしれないでしょう!?」


 まぁ、言われてみれば、可能性はある。

 だが、少なくともあの巨人に敵意は感じなかった。

 俺は場所を確認しただけで引き返し、宿へ戻った。


「グロー、起きてるかー?」


 案の定、昨夜の騒ぎの張本人は、布団の中で丸くなっていた。


「……まだ寝る」

「滅茶苦茶仕事に支障が出てるけどー?」

「うるさい……今日くらい、良いだろ……」


 毛布に包まった髭面の鉱矮人(ドワーフ)に殺意が湧く。


「で、巨人はおったのか?」

「ああ。だが、俺の見立てでは――戦わずに済ませられるかもしれん」


 そう前置きして、俺は巨人の様子と、現場の痕跡から立てた仮説を語った。


「なるほどの。穏便に済むなら、それに越したことはない」

「村長には、今日中に話をつけるつもりだ」

「ほぉ、頑張ってくれ」


 横になったまま手を振るグロー。


「……お前も来い」

「嫌じゃ、もうちょっと寝かせろ」


 この怠け者め……。

 どうせ説得しても無駄だ。俺は一人で山道を登った。



 再び草原の縁まで来て、まずは周囲を丁寧に調べる。

 痕跡や足跡の残り具合、草の踏みつけられ方、残飯の痕などから、俺の仮説は裏付けられた。


「……うん、これでいい」


 俺は剣を外して荷物の横に置き、草原の手前に残した。

 戦う意志がないことを示すためだ。


 そして、ゆっくりと巨人に近づこうとした、その時だった。


「ガル殿ぉ!」


 間の悪い大声が山に響く。

 振り返ると、村長を筆頭に、村議会の老人たちが農具を手に押し寄せてきた。


「な、なんだ……?」

「小さいとはいえ相手は巨人!ワシらも加勢するぞ!」


 老人たちの手には鎌、鋤、鍬、果ては木槌。

 それぞれにとっての“武器”を手に、興奮した顔で草原を見下ろしている。


「やめてくれ、これは交渉だ!戦うつもりはない!」

「今のうちに叩くべきじゃ!油断しとる今こそ好機!」

「夜には祝杯じゃ!」


 嫌な汗が首筋を伝う。

 この騒ぎ、絶対に気づかれる――


「皆さん、頼むから、静かに――!」

「命だって惜しゅうない! ワシらは覚悟を決めとる!」


 そう言いながら、鋤を突き出して俺の胸を軽く突いた。

 ――その瞬間、俺の中の何かがキレた。


「……辞めろと、言ってるのが、分からんのか」


 目を細めて、低く、殺気を籠めて告げると、全員が動きを止めた。

 ……いや、俺を見て止まったんじゃない。

 全員の視線は、俺の背後――

 最悪だ。


「ダレ……?」


 振り向くと、そこには先ほどの巨人が立っていた。

 大きな影。だがその顔には、殺気も怒気もない。

 ただ、つぶらな瞳をこちらに向け、首を傾げている。


「出たァ!」

「今のうちにやれーッ!」


 狂気じみた老人たちの叫びに、俺は声を張り上げた。


「やめろッ!!」

「なんじゃ、味方じゃないんか!?」

「裏切り者じゃ!」

「邪魔するな!」


 その言葉と同時に、四股鍬が俺の胸元に再び向けられる――

 俺は鍬の柄を掴み、低く睨みつけて言った。


「お前らが、矮鬼(ゴブリン)より厄介だとはな……」


 静かに放った一言に、老人たちはようやく農具を地面に落とした。


「イタイ? ダイジョブ?」


 頭上から響いた声に、顔を上げる。

 巨人が俺の胸元を覗き込んでいた。


「……お前、耳長人(エルフ)語が喋れるのか?」

「オデ、耳長人ノ言葉、スコシダケ。黒醜人(オーク)ノ言葉、ダメ」


 ゆっくりとした口調ながら、はっきりとした言葉だった。

 やはり、こいつは“知性ある個体”だ。


「イジメ、ヨクナイ。コノ人間、武器、モッテナイ。オデ、タスケル」


 それを聞いた瞬間、俺はようやく口元が緩んだ。

 ……やはり、戦わずに済む。

 問題は――こいつのような巨人が“異常”だということだ。

 何故、耳長人語を話すのか。何故、人を襲わないのか。

 それを知るには、もっと話をしなければならない。

巨人との対話がメインの回です。

一方的な討伐ではなく、“話すことで解決する可能性”を提示するのもガルのやり方。

こういう静かな場面も大事にしていきたいです。

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