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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第17話 まずは情報収集だ

村人たちは知らず、巨人の影はじわじわと忍び寄る。

宴の裏で、彼らは次なる脅威に備えて動き出す。

 その後は何の問題もなく、翌日の夕方には無事に村へ到着した。

 ゴブリンの殲滅で予定より一日遅れになったが、圃矮人(ハーフリング)たちは街道の安全が確保されたことに心から安堵していた。


「護衛、ありがとうございました!」


 満面の笑みでピュートが頭を下げる。


「まだ気が早いぞ、ピュート。本命は巨人(トロル)だろ?」

「その件なのですが、詳しい話を村の者たちが話したいと申していまして……」

「こちらとしても、情報が欲しかったところだ」

「では今晩、村長(むらおさ)の家にお出でください。情報提供を兼ねて、宴の用意をしているとのことです」

「宴、ねぇ……」

「ほっほ〜、そいつはええのう!」


 グローの顔がすっかり緩む。

 もちろん、晩飯を振る舞ってくれるのはありがたい。だが――


「ピュート。宴はありがたいが、明日から任務に就くつもりなんだ。酒は控えてくれ」

「なにィ!?」


 案の定、グローが椅子を軋ませて立ち上がった。


「折角の好意を無碍にする気か! ワシが飲まんと、逆に失礼じゃろ!」

「その“逆”がすでに失礼なんだよ。爆睡した前例を忘れたか?」

「知らん知らん!まるで記憶にござらんわい!」


 勝ち目のない応酬にため息が漏れる。

 ピュートも困った顔で手を上げるが、肝心のグローよりも頭一つ小さいため、ほとんど視認されていない。


「酒樽を用意させとけ!ワシが責任持って空にしてやる!」


 それだけ言い捨てて、ピュートの案内で宿へ向かっていった。


「……酒が絡むとめんどくさいんだよな、鉱矮人は。マジで」



 村長の家の広間は思っていたより広かった。

 どうやら村議会の開催場所でもあり、普段から圃矮人たちの集会所として使われているらしい。

 だが、表の見た目とは裏腹に、この村は意外と裕福そうだった。

 特産の水薬(ポーション)や乾燥薬草、香辛料などを王都の商団が買い付けに来るらしく、それなりの現金収入があるのだという。


「よくぞ来てくださいました。心より歓迎いたしますぞ」


 出迎えたのは丸顔に白髭を生やした老圃矮人、村長その人だった。

 物腰柔らかくもどこか目が鋭い。


「依頼をこなしに来ただけなので、過分な歓迎には及びません」

「ガハハ!この村の酒は絶品だぞ〜!」


 その挨拶も聞こえないふりで、グローはすでに火酒ひざけを片手に、陽気な圃矮人たちと乾杯していた。


「……もう溜め息も出ねぇ」

「ほっほ、陽気なお連れ様でなにより」

「それより、件の巨人について詳しくお願いします」

「承知いたしました。目撃者を呼びましょう」


 村長の合図で呼ばれたのは三人の圃矮人。いずれも若く、農作業の合間に薬草採りへ行っていた者たちらしい。


「ガーランと申します。最初に見たのは僕です。その後、友人のポーとエドと一緒に確認しに戻りました」


 話によると、それは三週間前のことだったという。

 森の奥で薬草を採っていたところ、木陰から巨大な影が現れ、咄嗟に逃げ帰った。

 後日、3人で戻って確認し、それが巨人《巨人》だったと確信したとのことだった。


「大きさは?」

「えっと……すごく大きくて……2メートルくらい……」


 俺は眉をひそめた。

 巨人の平均身長は3メートル強。2メートルなら、筋骨隆々の耳長人エルフの方がよほど近い。


「でかくて武装してたんだよな?」

「はい……剣のようなものと、鎧……?」


 曖昧な証言。

 怯えていたのは分かるが、それにしても不自然に曖昧だ。


「とりあえず、明日その場所に案内してもらえるか?」

「えっ……」


 途端に顔色を変える三人。


「安心しろ。あくまで様子を見るだけだ」

「そ、それなら……」

「戦う時はワシらも行くぞ!」


 場の空気を変えたのは、広間の端で既に酒で紅潮した顔の老人たちだった。

 村議会の面々らしいが、やたらと血気盛んである。


「我らが薬草園を荒らした仇、ワシらで成敗してくれるわ!」

「楽に死ねると思うなよ、でかぶつ!」

「ワシに任せとけぇ!」


 それに見事な勢いで乗っかるグローの声。

 もう完全に酔っているか、あるいは酔ったふりか――どちらにしてもめんどくさい。


「……酒、水で割れって言ったよな?」


 横でお茶を啜るピュートに俺が呟くと、ピュートは眉をひそめて耳打ちしてきた。


「この村の火酒、割ろうとしたら議員たちに取り囲まれて……」

「まさか……原液のまま飲んでんのか?」

「はい……」


 マジでか。

 そうこうしているうちに、村長が俺たちに料理の皿を勧めてきた。


「どうぞ、山の幸を存分に召し上がってくだされ」


 テーブルには、山菜の天ぷら、ヤギのチーズを使ったグラタン、炭火で焼かれた川魚に、特産のキノコと薬草をふんだんに使ったシシ鍋などが所狭しと並んでいた。

 素朴だが、調味に迷いがなく、素材の力が引き出されている。


「うん、旨い。……これは本当に旨いぞ」


 噛みしめるほどに滋味が滲み出る。

 酒は飲めなくても、この村の味覚だけで十分、価値がある。

 今はまず、胃袋を満たし、そして情報を集める。それが俺の仕事だ。

村に到着し、いったん落ち着いたようで、油断できない空気を残す展開です。

グローの“酒断ち問題”も含めて、ほんの少しだけコミカルに緩めてみました。

次話では、いよいよ巨人との接触が……?

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