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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第15話 エルフの相手はエルフに任せた方がいい

言葉が通じずとも、通じ合おうとする意志は残る。

彼女と向き合うのは、同じ耳長人の血を引く者たち。

 俺とグローが昼飯の準備をしていると、遠くから馬の蹄の音が響いた。

 戻ってきたらしい。


「おっ、ピュートか」

「思ったより早かったな」

「さて……」


 エルウィンの方を振り返ると、案の定、戦闘態勢に入っていた。

 長弓を手に、静かに立ち上がる。


「敵じゃない。分かるか?仲間、味方だ」


 俺は穏やかに声をかけながら、腰の刀を指差し、地面に置く。

 それからエルウィンを指差し、弓に視線を向けた。


「俺はもう戦うつもりはない。……エルウィンも、弓を下ろしてくれ」


 エルウィンはしばし俺を見つめた。

 真っ直ぐで、鋭い眼差しだった。

 そのままの姿勢で数拍。まるで目で嘘を見抜こうとするかのように。

 やがて、静かに長弓を下ろし、弓矢と短剣を俺の剣の隣に置いた。

 ようやく、緊張の糸がほぐれた。


「戻りましたー!」


 馬に揺られながら、ピュートが手を振ってやってきた。

 馬は2頭。

 どちらも軽装ながら鎧を着た兵士が乗っている。


「貴殿がガル殿ですね」


 片方の兵士が翡翠色のマントを翻して馬を降りた。

 耳が長く、ブロンドの髪が兜から覗いている。


「ああ、俺がガルだ。こっちはバディのグロー」

「よろしゅう」

「私は王国軍東方司令部所属のサリィン。こちらは部下のコフィーヌです」

「お初にお目にかかります」


 握手を交わし、挨拶を済ませる。


「ピュート殿より事情は伺っております。矮鬼(ゴブリン)とはいえ魔王軍の残党。現在、王国では討伐部隊の編制が進められています。皆様は安全な場所へ退避を」


 その言葉に、俺は笑いを堪えながら頷いた。


「いや、その話なんだが……。全部、俺たちで倒しちまった」

「……は?」


 見事なキョトン顔。これだけ驚かれると清々しい。


「話では百人規模の部隊と……」

「ああ、全部だ。俺が3割、グローが7割ってとこだな。黒焦げの死体が、ここから街道沿いに少し行った休憩所にある。残りは、あの神殿の中に」

「部隊長はバズグルと名乗っておった。黒醜人(オーク)だ。そいつも神殿に転がしてある」

「……わ、分かりました。コフィ、休憩所を確認。私は神殿を」

「はっ」

「案内は私がします」


 ピュートがコフィーヌに手を引かれながら馬に乗る。


「本当に、お二人だけで……?」

「疑っておるのか?」

「い、いえ……ただ、その……信じ難くて……」

「だったら見てくればいいさ」

「……承知しました。ところで、そちらの方は?」


 サリィンがエルウィンを見やる。


「ああ、話すと長くなるが……」


 俺は古代耳長人(エルフ)と出会った経緯を、簡潔に説明した。


「古代……耳長人!?」


 サリィンの声が上ずった。


「あんた、耳長人の血が入ってるんだろ? その言葉、わかるか?」

「私は耳長人と人間(ヒューム)の混血です。古代語は……多少、書ける程度です。発話は……王都の研究者なら可能かと」

「じゃあ今すぐ会話は無理か……。でも、現状くらいは伝えられる?」

「ええ、試してみます」


 その場で、サリィンはエルウィンと視線を合わせ、ゆっくりと言葉を並べる。

 エルウィンは眉をひそめ、だが、懸命に聞こうとしている様子だった。


「悪くないな」

「うむ、通じとる」

「それに、王国軍に預けた方が良いかもしれん。王都の研究者ならちゃんと扱うだろうし、何より安全だ」

「その件、東方司令部に報告のうえ、保護方針を確認します。それまでは我々が預かる形で」

「助かる」


 話がまとまりかけた、その時。


 ――ぐぅうう。


 再び鳴った。エルウィンの腹から。


「ははっ、忘れてた。飯、準備してたんだったな」

「そうだったのぉ」


 俺とグローが火にかけていた鍋に手を伸ばすと、サリィンが突然、真剣な顔になる。


「待ってください!」

「ん?」

「エルウィン殿は……千年以上、眠っていたのですよね?」

「恐らくな」

「そういう場合、急に固形物を食べさせると……最悪、命に関わります!」

「マジか」


 グローも俺も、すでに腸詰を手にしていた。


「ワシら、今、殺人しかけたんか……?」

「…………たぶん、な」


 いや、俺には実際に見たことがある。

 飢餓明けの兵がパンを口にして、そのまま――いや、今はやめておこう。


「じゃあどうすんだ? 柔らかいもんなんてないぞ?」

「私に任せてください。耳長人の非常食で流動食を作れます。馬の荷に少しあります」

「助かる」

「じゃあ俺らは礼拝堂の死体を外に並べるか。見やすいように」

「お願いします。エルウィン殿とも会話の接点を探してみます」


 サリィンは礼儀正しく、誠実な雰囲気の耳長人だった。

 エルウィンのことは安心して任せられそうだ。


「……耳長人の相手は、耳長人に任せるのが一番だな」


 俺とグローは、日が傾きかけた神殿の中へ、再び戻っていった。

新キャラ「サリィン」と「コフィーヌ」の登場回です。

会話や態度から、彼らの“プロフェッショナルさ”を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

また、エルウィンの食事シーンからも、現実的な設定を加味してみました。

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