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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第13話 隠し通路の先はお宝が相場では?

神殿の奥、封じられた通路の先にあるものは、財宝か、それとも……。

グローが動けば、何かが壊れる。だいたいそんな感じだ。

 俺とグローは神殿の外、入り口近くに簡易テントを張り、三時間ほどの仮眠を摂った。

 硬いパンを、ピュートから分けてもらったコッフェで流し込み、再び例の壁の前に立つ。


「今度こそ大丈夫だろうな?」

「任せておけ。八メートルくらい、一瞬だわい!」


 グローが得意げに壁へ手を当て、詠唱を始める。

 微かに地面が揺れ出したかと思うと、壁がガラガラと音を立てて崩れた。


「ほーれ」


 確かに凄い。……が、俺はある事に気づいた。


「……、石は人力でどかすのか……?」

「当たり前だ!邪魔で進めんだろうが」

「いや、そうじゃなくて……」


 俺は思わず溜息をついた。


「何じゃい、不満か?」

「石をどかす魔法はないのかよ……」

「……なくはない。使うか?」

「その方が手間が省けるだろ」


 グローは短い詠唱のあと、叫んだ。


石礫(ストーン・ブラスト)!」

「おいおいおいおい!」


 俺は思わず飛び退き、腕で頭をかばう。

 無数の()()()()()()が殺人的な速度で反対側の壁へ突き刺さる。


「天才だのぉ、ワシ!」


 高笑いしながらグローは一瞬で瓦礫を吹き飛ばした。

 ……おかげで反対側の壁は見るも無残な状態だが。


「さて、行くぞ!」


 意気揚々と隠し通路へ踏み込んでいくグローに、俺も続く。

 高さと幅が二メートルほどの、真っ暗な通路だった。


「暗すぎる……松明点けようぜ」

「何をしておる!行き止まりの可能性もあるんだぞ!松明なんぞ使ったら、すぐに空気がなくなるわい!」


 なるほど……どこに繋がっているかも分からん通路だ。空気がある時点で奇跡なのだろう。


「じゃあ、角灯(ランタン)にするか……」


 小さな角灯に火を灯す。

 薄明かりが広がるが、先はまるで見えない。


「なんじゃい、怖いのか?」

「鉱矮人のお前と違って、土の中は慣れてないんだよ……」

「安心せい。この通路は五メートル先で左に折れるが、作りはしっかりしておるから潰れることはないぞ」

「そういう問題じゃなくてな……」


 再び溜息を吐きつつ、俺も通路を進む。

 言った通り、五メートルほどで通路は左に折れていた。


「ん?」


 グローが足を止めた。


「どうした?」

「十五メートルほど先、光が見えんか?」

「あ?」


 目を凝らすが、はっきりとは見えない。


「……部屋があるな」


 グローが何かに呼ばれるように、迷いなく歩いていく。


「おい、待てってば!」


 慌てて小走りで追いつくと――

 そこに広がっていたのは、直径二十メートル近い完璧な円形の部屋だった。

 真円の構造、滑らかな石壁。天井の中央には、神の目のようにひとつだけぽっかりと穴が開いている。

 その穴から、太陽の光が静かに射し込んでいた。ちょうど部屋の中心を照らすように、計算されたかのような配置だ。

 壁面には古代耳長人(エルフ)の流麗な文字列と、蔓草や花を模した装飾彫刻が帯状に刻まれていた。

 風化の痕跡はあるが、造形は今も見惚れるほどに精緻だ。

 空間を満たす空気は澄みきっており、耳が痛くなるほど静かだった。

 まるで時間が止まってしまったかのような、そんな錯覚すら覚える。


「おい、ガル」


 グローが呼ぶ方へ視線を向ける。

 そこにあったのは――


「……石の寝台、か」

「丁寧に屋根付きだぞい」


 部屋の中央、太陽の光を真正面から浴びる位置に、屋根付きの石の寝台が鎮座していた。

 そして、その上に横たわっていたのは――


「嘘だろ……?」

「生きておるのか……?」


 銀髪シルバーブロンドが流れるように広がり、肌は雪のように白い。

 尖った耳が、彼女が耳長人エルフであることを告げていた。


「まさか……古代耳長人……?」

「見ろ、呼吸しとる。生きておるぞ」


 透き通るような白のローブに包まれ、ゆっくりと、しかし確かに胸が上下していた。

 生きているのだ。千年もの時を超えて――。


「グロー、さっきの壁、塞がれたのはいつ頃だ?」

「……千年は前じゃろな」

「上から落ちてきたって可能性は……」

「それはない」


 グローが天井を指差す。


「見てみろ。穴が開いとるように見えるが、あれは魔法で蓋をされておる。空気だけを通す結界だ。虫ひとつすら入れん」

「試しに矢でも撃ってみるか?」


 ちょうど寝台のそばに弓と短剣が置かれていた。

 その弓に矢を番え、俺は天井の穴へ向かって放つ。

 ビリビリと青い稲光が走り、矢ははじき返された。


「この空間全体が、千年守られとるという事じゃ」

「……起こしてみるか」

「なにを言うか貴様!」


 好奇心に駆られ、俺は女の顔をまじまじと覗き込む。

 まるで彫刻のように整った顔立ちだった。息を呑むほどの美しさ。


「こういうのはな、キスで起きるって相場が決まってんだよ」


 軽く、唇を重ねた。


「……」

「……」

「……何も起きんのか……」

「面白くねーなー」

「まぁ、この女の事は王国軍に任せて、俺たちは村に向かうかの」

「そうだな」


 そのまま通路の方へ向かおうとしたが、俺は振り返って言った。


「あ、弓と短剣だけは貰っていくか」

「やめんか!それじゃ墓荒らしだて!」

「死んでないから墓じゃないだろ?」


 笑いながら肩をすくめたその時だった。


「……マジかよ……」


 先ほどまで眠っていたはずの女が、弓を手に取り、矢を引き絞ってこちらを狙っていた。

この話では、グローのドワーフっぷりが冴えます。

そして、暗い通路に足を踏み入れるのは、冒険者にとってのお約束ですね。

次回は、いよいよ“眠れる美女”の正体が動き出します。

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