第12話 ドワーフは採掘がお好き?
戦いは終わり、残るは片付けと報酬の話。
そしてやっぱり、グローは掘り出し物が好きらしい。
「なんじゃい、全部終わっとるじゃないか」
グローが礼拝堂へ入ってきた。
「これくらいはサクっと終わる」
「リーダーは此奴か」
グローは、死体と化したバズグルの頭をコツコツと蹴った。
「魔王軍の百人長だとよ。黒醜人の癖に矮鬼の隊長なんて、間抜けにも程があるぜ」
「しかし、腐っても魔王軍残党の士官だ。王国から報奨金が出るぞ」
「金額はあんまり期待できないけどな」
「貴重な追加報酬だ」
グローは死体を一つ一つ確認するようにして、礼拝堂を歩き回る。
「こいつらの装備、売っぱらってもいいのか?」
「王国軍の管理下になるはずだ。下手に売ったら捕まるぞい」
「こんだけあるから結構な金額になるのにな……、クソ」
「そう言うな。それも含めた上で、報奨金が出る筈だ」
「だといいんだがな。早馬で走らせたピュートはどれくらいで戻る予定だ?」
矮鬼の巣を叩くと決めてからすぐに、ピュートに来た道を戻らせ、ギルドを通して王国軍へ連絡するよう言いつけたのだった。
「まぁ、明日の昼には王国軍関係者と一緒に戻って来るだろう。村への荷運びはそれが終わってからの出発だ」
「気長に待つか。金目の物がないか探してくるわ」
俺はそう言って、バズグル達が使っていたと思われる部屋へ向かう。
「信仰は絶えたとはいえ、ここは神殿だぞ。罰当たりな奴め……」
「グローは礼拝堂を散策してみてくれや。何もないだろうが、隠し通路があったりしてなー」
後ろ手に手を振りながら俺は礼拝堂を後にする。
松明を左手に持ち、通路を歩く。
松明の光で初めて分かったが、敷き詰められた石は御影石の様で、綺麗に磨かれた表面が微かに光を返している。
これはかなり金の掛かった神殿だ。それなりに力を持った都市国家だったのだろう。
開け放たれたドアから、部屋を覗き込む。一言で言って、汚い。
礼拝堂もかなり汚かったが、ここも負けず劣らずだ。
食べかすや骨などが床に散らばり、よく分からない汚れた布切れなども落ちている。
「臭ぇーし、汚ねー……」
溜息を吐きながらズカズカと中へ入る。
部屋の左手奥に、もう一つドアがあった。
そのドアを開けると、中から饐えた様な臭いが漂ってきた。
「なるほど……」
俺は低く呟いた。
この臭いは嗅いだ事がある。日光も新鮮な空気も届かない密室で女を抱き続けた臭いだ。
足元や礼拝堂に散らばっている骨の主は、元々はここでバズグルに犯され続けていたのだろう。
食べ物が底をついた時に解体され、食糧にされたのだと容易に想像できる。
俺は苦々しく舌打ちをした。
「おーい、ガル!」
そんな時、グローの馬鹿デカい声が通路から響き渡ってきた。
俺は胸糞悪い部屋を出た。
まだ喉の奥が少し苦い。
気配を振り払うように、礼拝堂へ向かった。
「なんだよ、なんか金目のもんでもあったか?」
グローは礼拝堂の右奥の壁を触っていた。
「ここだ」
「何が?」
「この壁の向こうに空洞がある」
「はぁ?」
俺はグローの言う壁をコンコンとノックする。
ついでに他の壁もノックするが、全く同じ音で、空洞があるようには思えない。
「普通の壁だろ?」
「人が一人通れるくらいの空洞が、この壁の8メートル先から始まっている」
「……8メートル先?」
馬鹿を言うな。8メートル先の空洞など、壁を叩いただけでは分からない。
「それだけじゃない。その空洞、恐らくは通路だが、混凝土を混ぜて塞いだ様だ。ここの化粧石の向こうだけ、地質が違う」
「よく分からんが、隠し通路?」
「みたいだの」
本当に隠し通路があるとは……。
グローはどことなくウキウキしているように見える。鉱矮人の性か……。いや、ちょっと待ってくれ。
「まさか、8メートルも混凝土を掘るのか……?」
グローの表情から答えを察知した俺は頭を抱えた。
「なに、ワシに掛かれば一瞬だ」
「俺は手伝わねーからな」
「非力な人間の手など借りんわい」
グローはそう言って、壁に手を押し当てる。
そうして、ごにょごにょと呪文を唱え始めた。
「危ないから少し離れておけ、ガル」
言われた通り、壁から少し距離を取った。再びグローが詠唱する。
グローが魔法を使う瞬間など滅多に見れない。少し期待しながら待つ。
そして、グローの詠唱が終わった――
……何も起きなかった。
「おい、グロー?」
「……」
「どうしたんだよ?」
「……。さて、今日は寝るかの。作業は明日からで良いだろ」
そう言ってスタスタと入り口の方へ歩くグロー。
「おい!さては魔力切れだな!」
「……」
「偉そうに『危ないから少し離れておけ』とか言って!何も起きなかったじゃねーか!」
「……」
「黙ってねーで何とか言え!」
「『何とか』」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
作業は仮眠を摂ってからという事になった。
戦闘の余韻と、小休止のやりとり。
グローのお茶目?な一面と、現実的な“後処理”の空気感を出しました。
次話以降、次の依頼に向けた準備が始まります。