バグパイプ
AとBが細く入り組んだ街並みを歩いている。
A「行列の最後尾でバグパイプを吹いているヤツについて行くなんてどうかしてるよ。本当に」
B「うーん、そうかな」
A「そうだよ。ハーメルンの笛吹き男じゃあるまいし」
B「音楽隊じゃなかったっけ」
A「それはブレーメン」
B「ああ、それそれ。歩いてたらピンと来てさ。ハーモニカで伴奏してたら後ろにイヌとネコが3匹ずつついて来て。楽しかったなあ、あれは」
A「ちょっと、話が混ざってないか」
B「そんなことないよ。確かこんな感じだったはず。おや、よく見ると君ロバに似ているね。王様の耳はロバの耳ってね」
A「なんだ君は。いきなり失礼なヤツだな」
B「心外だな。どう考えてもロバに失礼だろ。ロバに謝れ」
A「何あほなこと言ってんだ。どう考えても、君の方が、だろ」
B「ならそうかもしれないな。失礼、君を貶すつもりじゃなかったんだ。無償に乗りたくなる時ってあるだろ。四つん這いになった誰かの背中の上に」
A「ないよ」
B「照れ隠しじゃなくて?」
A「ない。絶対ない」
B「そうか。残念だな。実は君はニワトリだったのか。なら背中に乗らせてあげよう」
A「私はニワトリじゃないし、丁重にお断りさせていただきます。そもそも君は喫茶店を探しに行ったんだろ?なんで君が徘徊しているのを私が探す羽目になるんだ」
B「徘徊?」
A「自覚なかったのか」
B「あれは徘徊じゃないよ。笛吹き男の『正義』の行軍だ」
A「あれが?」
B「あれが」
A「あれのどこが『正義』何だ?」
B「拾い集めているんだ。ぽっかりと穴の空いた袋で。どこかへ行くあてもなく、寄るべない身、ただあちらこちらを徘徊するばかり…」
A「徘徊してんじゃん」
B「あ、まあそうかもしれない。しかし、『正義』を拝命することに正義はあるのだろうか」
A「何?もごもご言ってないでもっと大きい声で喋ってよ」
B「いや、何でもない」
A「そう。で、喫茶店は?」
B「前でバグパイプ吹いてた人、喫茶店の店長だったからついでに案内してもらった」
A「…えっ?もう一回言って」
B「歩きながらバスを待ってる人の行列の最後尾でバグパイプ吹いてた人、喫茶店の店長」
A「情報量が多すぎて全く頭に入って来ないわ」
B「しかも凄いのがね、行列の彼ら彼女ら途中で分離するんだ。まるで生きているアメーバみたいに」
A「待って、分かったから。道中の話は後で聞くから。喫茶店の場所は?」
B「さっきからずっと入り口に立っているよ?」
A「嘘つけ。ちょうど今たどり着いただけだろ」
B「そうとも言う。さあこの細い路地を右に曲がって左手に見えるのがそうだ」
A「おお、これがそうか」
B「これじゃないよ。これの裏手だ」
A「…」
B「着いた!これがかの有名な泣く子も黙る」
A「子供も虜にする、な」
B「喫茶店『ハーメルンの音楽隊』だよ」