プロローグ2・出会い
準主役の方が名前が先に出てきました。
主役の名前がまだ無いとかそんな………。
青年は頭を抱えていた。それもそうだろう。訳の分からないままに異世界に連れてこられたかと思ったら、訳の分からない頭の可笑しい男に絡まれたのだ。頭の一つや二つ、抱えたくもなる。
そもそもこんなことになったのも遡ること3時間ほど前。
青年───佐藤颯斗は、彼もまた平凡な人生を送るサラリーマンだった。平日は家と会社の往復で、休みの日には1日パジャマでゲームをしたり、溜まった録画を消化したりとダラっと過ごす典型的なインドアタイプだった。
しかし、そんな颯斗の人生にも転機が訪れる。それは望まぬ転機だった。
ある日のこと、その日は休日で、颯斗は珍しく朝から着替えて外へ出ていた。それもこれも本日発売の予約していたゲームを店頭受け取りするためだ。楽しみのためならば、いつもは面倒に思う外出も苦にならないのだから現金なものだ。苦に思うどころか、浮き足立って店へと続く道へ曲がろうとその時、
ドンッ
────と、ぶつかることはお互いに歩いていた為なかったが、進行方向から来る男……制服を着ている為、おそらく男子高校生と出会い頭にぶつかりそうになって思わず数歩たたらを踏む。謎の巨大魔方陣が二人の足元に浮かび上がるのは、それとほぼ同時だった。
人は本当に驚くと声が出なくなるらしい。目を白黒させているうちに魔方陣から眩い光が放たれ次の瞬間には颯斗も男子高校生も忽然と街角から姿を消した。異世界に強制転移させられたのだ。送料ケチらずに配送にしてもらえば良かった、とのちの颯斗は語る。
それからは、実に散々な目にあった。異世界の王城の大広間に転移させられたかと思えば、呼び出したのは男子高校生の方だけで颯斗は完全なる不慮の事態で。そのことについて詫びられるのかと思えば、むしろ不法侵入だなんだと騒ぎ立てられ、王城どころか国すらを追い出される始末。
解せぬ。全くもって解せぬ。
突然の出来事に呆然としているうちに全て終わっており、我に帰った時には生い茂る森の中にいた。そう遠くないところに先程までいた国を囲う壁が見えるが、戻る気にはなれなかった。わざわざ追い出した奴を入れてくれるとは思てないし、万が一入れてくれたとしてロクな扱いは受けないことは少し考えれば分かることだろう。
しかし、ゲームを受け取る為だけに外に出ていた颯斗は持ち物といえば家の鍵くらいで他に何も持っていなかった。追い出した奴らが、何か持たさせてくれるはずは勿論ない。颯斗は食料も武器も持たない上に、服装もTシャツにジーパン、サンダルという初期装備でももう少し手厚いといえるほどの装備だった。
最初は怒りで気にならなかったものの、段々落ち着いてくるとまず思ったのが、この状況は不味いんじゃないかということだった。よくあるRPGなんかだと森には魔物がいるはずだ。こんな薄っぺらな装備では正直スライムにすら勝てる気はしない。
なんて、考えていたのがフラグになってしまったのだろうか。目の前の茂みからガサッと草を掻き分ける音が聞こえて大袈裟な程に肩を揺らす。今のは絶対風で草木が揺れた音じゃない。犬だとか猫だとか兎だとか、そんな小動物でもない。もっと大きなものが動いた音だ。
あぁ、ここで俺は死ぬのか。だとしたら絶対あの国の奴ら呪ってやる。怨霊として化けて出てやるからな。と走馬灯のように恨み言が颯斗の脳裏を駆け巡る。その間わずか0.3秒。その物音の正体が姿を現すまでの間のことである。
しかし、そんな颯斗の想いとは裏腹にガサガサと音を立てながら現れたのは獣や魔物などではなく、人だった。いや、それはそれで警戒すべきなのだろうが、颯斗と同じくらいの軽装備でいかにも人畜無害な相貌をしてるとなれば幾分か気も緩むというもの。正直、こういうときってラノベとかだと大体美少女が現れるものじゃ無いだろうかと思ったが、現実はそこまで甘くないらしい。まぁ、確かに整った顔はしているが出てきたのは颯斗と同性、つまり男であった。
「お、いたいた」
「え」
「あー、そんな警戒しなくても取って食ったりしないさ」
「はぁ……」
突然現れてそんなこと言われても気の抜けた返事しか返せない。命の危機は感じなくなったものの、こんなところにいる人間が普通なはずがない。いくら平和ボケした日本人(現に命の危機を感じてない)だからといって、ある程度警戒するのは本能的に当たり前のことだろう。しかし、そんな颯斗の様子にはお構い無しに男は続ける。
「むしろ、あんたに頼みがある」
「は?いや、」
「俺の話を聞いてくれないか?」
お前は誰なんだとか、なんで此処にいるんだとか、まるでわざわざ会いに来たような口振りだが何者だとか言いたいことは山程あったが、そんな颯斗の質問を挟む余地もなく男の一人語りが始まった。疑問系だったはものの、話を聞くというのは男にとって決定事項であったのは言うまでも無いだろう。
それから2時間ほど男の武勇伝(?)を聞かされた颯斗。いくら相手のペースに呑まれたからといって、黙って見知らぬ男の話に2時間も耳を傾ける辺り、お人好し……というよりは、物好きが過ぎるだろう。うんざりとした顔で漸く本題に入った男に痛む米神を指で揉みながら問い掛けた。
「えーっと、つまり?自称最強の貴方は最弱になるために俺に弟子入りしたい、と?」
「あぁ、そうだな」
「え、何これ、俺喧嘩売られてる?」
颯斗がそう思うのも無理はない。何せ遠回しに最弱といわれているようなものなのだから。颯斗は何も自分が最強だなんて思わない。平和ボケした日本に生きていた一般人なのだから弱い部類に入るのは間違いないだろう。ただ、"最弱"という不名誉な称号に憤るだけの矜持が彼にはあった。
「まさか、俺だってただ弱い奴に最弱になりたいから弟子入りさせてくれなんて失礼なこといわない」
「いや、言ってるんだよなぁ」
「あんたのステータス確認してみろ」
「ステータス?」
言葉のキャッチボールが出来ているか怪しいところだが、颯斗は男の言葉に首を傾げた。ステータスの意味が分からないわけじゃない。ただ確認してみろと言われても、颯斗は着の身着のままこの世界に来て、あれよあれよという内に国を追い出されたので男のいうステータスを確認できるようなものは持ち合わせていない。念のためポケットを探ってみたが、入っている物はなかった。というか、ステータスってなんだゲームかよと思いながらも首を捻っていると、そんな颯斗の様子を見兼ねたのか男が口を開いた。
「あんた異世界転生、もしくは転移系見たことないのか?ゲームで出てくるようなステータス画面イメージしながら"ステータス"って唱えると出てくるから」
「え、唱えるの?それはちょっと、いい歳大人が恥ずかしいのでは……というか、出てくるって?」
「そりゃ、ステータス画面にきまってるだろ。それ以外に何があるんだ……あ、もしかしてゲームしたことないとか?」
何を当然のことをといわんばかりの男の物言いに腹立たしさを若干感じながらも、それ以上に颯斗は混乱していた。それもそうだろう、ずっと展開が怒涛すぎて読者共々おいてけぼりだ。
「いや、それはあるけど……」
「なんだ、なら話は早いな。ほら、やってみろ」
「えっと…………ス、"ステータス"!」
颯斗が恥を忍んでそう叫べば、不思議なことに名前やレベル、HPやMPなどが書かれた画面が浮かび上がる。本当に出た!と感動してた颯斗だったが、その感動もステータスのとある項目によってすぐに霧散する。
「な、なんじゃこりゃぁぁあ!?!?!?」
サトウ ハヤト Lv1
HP 5/5 MP 3/3
攻撃力 3 守備力 2 素早さ 2
魔法攻撃力 1 魔法守備力 2
称号─────"最弱王"