第三話 帰り道
一緒に帰ることになった俺達は学校を後にして、しばらく歩く。
このとき俺は困っていた。
一緒に帰ることにはなったもののお互いに初対面も同然の状態で会話など続くわけもなく、先程から無音の空間が広がっている始末である。
その静寂を切り開くために俺は小中さん自身のことを聞いてみることにした。
「あのさ、小中さんはどこに住んでるの?」
「ひぇっ、わ、私はですね、中区ですよ」
この反応を見るに小中さんも微妙な雰囲気が流れていて、緊張してしまっていたようだ。
(そんな反応も可愛いなぁ)
「そうなんだ。じゃあ、俺と同じだ。わりと家が近所だったりするかもね」
そう言いながら笑うと彼女も自然な感じで笑ってくれた。
俺達が住んでいる町「四神町」は、五つの区に分けられている。
中央に位置する「中区」、後は方角と一緒の名前がついていて「東区」「西区」「南区」「北区」となっている。
「そういえば、お母さんに買い物を頼まれてたんでした。この辺にスーパーってありますか?」
「うん、あるよ。じゃあ、最初に案内するのはスーパーで決まりかな」
「はい!よろしくお願いします!」
そうして俺達はスーパーを目的地として歩き出した。
スーパーからの帰り道。小中さんを家まで送ることになったので、その経路上にある商店街を通っている時だった。
スーパーの袋を一つずつ持っている俺達とすれ違ったお婆ちゃんが俺達の後方で何かにぶつかって倒れる音がした。
慌てて俺達は後ろを振り向くと、そこには倒れたお婆ちゃんと不良のような少年が立っていた。
「おい、ババア!急にぶつかってきてんじゃねぇぞ!」
不良のような少年は倒れているお婆ちゃんに向かって暴言を吐く。彼にお婆ちゃんを気遣う素振りは全くなかった。
俺の中にはお婆ちゃんを助けたいという気持ちも大いにあったが、今の俺には不良との接触を避けたい理由があるので「ここを離れよう」と小中さんに提案しようと思って隣を見ると、そこに小中さんの姿はなかった。
いつの間に駆け寄ったのか、彼女はお婆ちゃんに寄り添って、体を起こすのを手伝ってあげている。それと同時に彼女は目線を不良少年の方へと向ける。
「何を言ってるんですか!?明らかに悪いのはあなたの方でしょ!?何で謝りもせずに、おばあちゃんに暴言を吐いてるんですか!?」
そういって不良少年に真っ向から抗議している彼女の姿はとても凛々しかった。
しかし、彼女に見とれている場合ではなかった。そんなことを言われて不良少年が黙っているはずがない。
案の定、逆上した不良少年は拳を作り、それを小中さんに振るおうとしていた。
「うるせぇ!!!」
その拳を目の前にして、小中さんはお婆ちゃんを庇うような体勢を取っている。だが、その拳が二人に届くことはなかった。
「痛ててててててててててててて」
俺が不良少年の腕を掴んで止めたからだ。
なるべく関わりたくはなかったが、仕方がない。こいつには、俺がカッコつける生け贄になってもらうか。
「おい。お前、『黄龍会』のメンバーだろ。お前みたいな末端まで会長の目は届かないかもしれないが、バレたらかなり危ないんじゃないのか?」
腕を掴む手に力を入れながら、不良少年の耳元で囁く。
この言葉を聞くと、不良少年の顔から血の気が引いて、さっきまでの態度のでかさはなくなる
そして、俺が掴んでいた腕を放すと一目散に逃げていった。
それを確認して、小中さんの安否を確認する。
「大丈夫?怪我はない?」
「………は、はい。私は大丈夫です。それよりもこのおばあちゃんをーーー」
お婆ちゃんの方も怪我などをしていないか確認したが、目立ったものは見られなかったのでお婆ちゃんとはそこで別れた。
俺達は地面に置いていたレジ袋を持ち上げ、再び帰路に着く。
なぜか小中さんは落ち着かない様子でいるので、気になってチラチラ見ていると、彼女は口を開いた。
「先程はありがとうございました。おばあちゃんを庇った時、本当にどうなるのか分からなくて………怖かったんです」
そう語っている彼女の体はほんの僅かに震えている。それほどまでに本当は怖かったのだろう。
「だから、中崎君が助けてくれて本当に安心したんです」
そういって向けられた小中さんの顔はとても綺麗でドキッとしてしまう。
「あ、あれくらいはお安い御用だよ。小中さんが怪我しなくてホントに良かった」
照れている顔を隠すために俺は小中さんとは別の方向を向いて言葉を返した。
「それにさ、せっかくこの町に来てくれたのに嫌な思い出を作って欲しくなかったからね」
少し心の深いところから言葉が出た。
そんな感じで残りの帰り道も会話をしながら歩いているとすぐに小中さんとの別れが来た。
「では、私はこちらなので」
「うん。また明日、学校でね」
「はい。 また明日」
別れの挨拶を済ませ、俺達は別々の方向へと歩いていく。
寂しさを感じていたが、それと同時に彼女と一緒の時間を送れたことに満足感も感じていた。
俺は自分の家に帰り、晩飯を食べて、風呂に入って、寝た。
今日という一日を振り返り、明日を楽しみにしながら。
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