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第5話

 始めてから四ヶ月目の半ば。

 美里は試験装置を使って、薬の効果や安全性を確かめる試験をしました。

 まぁ材料も方法も問題がないので副作用もないのは分かっているのだけど、薬である以上絶対にそういうデータが必要である。

 そしていかにもいろいろ試したというデータをでっち上げ(最初の頃はいろいろ試したのは事実だったけど)

 ついに始めてから五ヶ月目、部長に提出する日がやってきました。

 コンコン

「入れ」

「失礼します、ご報告があって参りました」

「どうした予算が必要か?、進捗具合はどうだ」

「いえ、完成しました」

「へ」

 よほど驚いたのか部長が変な声を出しました。

「ほ、本当か?まだ四ヶ月ほどしか経ってないぞ」

「はい本当です、こちらが実物とデータです」

「こ、これは」

 部長は目玉が飛び出すほど驚いているみたいです。

「もちろん治験は必要ですが、軽い擦り傷や切り傷などは一瞬で完治すると思います、骨折や重症は完治は難しいですが治り方が早くなると思います、病気のほうも進行を遅らせることができると思います、すみませんあまり品質は良くないようです」

「いやいやこれだけできたら予想以上の成果だ、よくやった、しかし材料がほうれん草とごぼうだとはな、研究費が安すぎるから進歩してないのかと思ってたんだ」

 部長は今まで見たことない笑顔で褒めてくれました。

「実はな、これは社長の息子がアニメか何かで見たらしくて、どうしても欲しくて父親にせがんだらしい、社長も実の息子には甘くてな、ダメ元でもやってるフリだけでもしようとしたらしい」

「そ、そうだったんですね、あはは」

 ええええ国家機密かと思ったら、そんなくだらない理由だったんだ。がっくし

 ほんとにできなくてもよかったんだなぁ。

 何か頑張って損した気になって苦笑いする美里でした。

「早速社長に報告してくる、褒賞は期待していいぞ」

 そう言って部長はいそいそと部屋を出て行きました。

「はぁ」

 1人部屋に残された美里はなんだか疲れてため息が出てしまいました。



 その後、元の職場である第一研究室に戻って、復帰の挨拶をすると同僚や上司から、第四研究室で一体何をやってたんだとさんざん聞かれましたが「社長命令で機密事項なんです」と説明しなんとか解放してもらえました。

 そして、私が第四研究室にこもっていた時、皆んなが私の事を「魔女」「木彫りの魔女」と呼んでいたことを知らされ、非常に恥ずかしかったです。

 そりゃコポコポと夜遅くに鍋をかき回していたそう言われるよね(本当は妙な呪文のようなものも含まれるのですが美里は気づいていないのでした)

 そしてイタイノナクナールがジェネリックや他社も同じ性能の製品を開発して売り出してきたことから、売り上げが無視できないほど下がったらしいです。

 そしてイタイノナクナールのさらに高性能の新製品「イタイノナクナール マーク2」の開発責任者となりました。

 だからネーミングセンスないんですよ。ふん

「しかし高速処理と、並列思考は便利だなぁ」

 そうです、ルイーザさんが言った通り私も使えるようになったんです。

 そのおかげで物凄く仕事がはかどって、二ヶ月もかからないうちに「イタイノナクナール マーク2」を開発することができました。だからネーミ…もういいや

 これにも相当な報奨金と「社長賞」として、最新型の軽自動車を頂きました。

 私一人暮らしなのに車が3台もある(事故を起こした人から弁償してもらった車と、私の車があるのです)どーすんだ、これ。

 どうやら今回は昇進はしない(多分社内のパワーバランスが変わるのがマズイってことかな)その補填のための車だと思います。

 薬の開発で大変なのが、治験です。

 これにはかなりの開発費が必要になってきます。

 頭痛や生理痛の薬はそれほどでもないのですが、他の病気、例えば胃腸薬や精神薬などは、治験者を探すだけでもすごく大変なんです。

 なのでしばらくは開発もなく、結構暇な日を過ごしていました。

 そして部長にポーションを渡してから半年後。

 私の提出した資料通り、擦り傷や切り傷は一瞬で治り、骨折や重傷者も完治はしないものの関係者を驚かせるほど早く回復し、風邪や腹痛も劇的な回復の早さ、そしてなんと癌や肺炎にも効果が現れ、患者の容体によっては本人の治癒力も合わせれば完治する可能性も出てきて、関係者を驚愕させたと聞きました。

 それに加え、副作用の兆候もなく、常温でも劣化しないことがわかりました。

 そして社長室で密かにお礼の言葉とびっくりする位の報奨金をいただきました。

 なんと、少し安めの一軒家が土地付きで買える位の金額でした。

「これって会社のお金じゃないよね、社長って儲かるのかなあ、あ、そうか研究費をほとんど使ってないからその分も含んでるんだろう」

 なんか妙に納得して丁寧にお礼をして社長室を出ました。

 そして、ありえないと思ったことが起きてしまいました。

 情報と言うのはどこから漏れるか分かりません、社長が密かに開発させたポーションの情報が漏れて、役員会で社長の責任と、ポーションの商品化が決定されてしまったのです。

 社長もポーションの開発前はこれほど効果の高いものができると思っていなく、おそらくできない可能性の方が高いと思ってたので、このことを公にするつもりは初めからなかったらしいです。

 しかしこのポーションの開発には会社のお金は一切使っていなく、社長の個人財産で作られたものであるため、情報を隠したことの叱責と三ヶ月の減給で済んだそうです。

 もし会社のお金に手をつけてたら解任されるところでした。

 しかしこの決定は、私に重大な決意をさせるものでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、上原さんの会社がポーションの開発に乗り出したのは社長令息のおねだりが切っ掛けだったのですか。 上原さんは「くだらない理由」と言っていましたが、見方を変えれば社長一家の家庭内の交流…
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