第2話
「さて、どうするかな」
材料は決まったが、どうやって作るか非常に悩んでいます。
「たしか以前読んだ異世界ものの物語では、薬草を乾燥させて細かく切って、魔力を流して煮詰めながらかき混ぜていたっけ」
美里は異世界ものが大好きなのです。
「とりあえずその方法でいろいろ試してみるか、でも…魔力はどうしよう」
いきなり大きな壁にぶつかってしまいました。
「魔力は異世界にはあるが、この世界にはないもの…」
そもそも異世界が本当にあるかどうかもわからないが、美里はそういう事は考えません。
「じゃあ逆にこの世界にはあって異世界にはないもの」
美里は日本でも一番の薬学部を主席で卒業しているくらいの秀才である、大企業や海外からの勧誘もすごかったのです。その優秀さは特にその発想力にありました。
ではなぜ当時中堅でしかなかったこの会社に入ったかと言うと…
「家から近かったから」
なんとも安直な理由である。
そしてついに閃きました。
「そうだ!電気を使おう」
美里は結構異世界ものの物語を読んでいたが、少なくともその中では電気はありませんでした。
こうして方向性が決まった、おそらくは世界で初めてであろうポーション作りという美里の無謀な挑戦が始まったのでした。
ここは製薬会社なので材料には困りませんでした。
まずは材料を乾燥させて、細く切って、ガスコンロで弱火でコトコト煮詰ます
「あんまり温度が高いと、熱に弱い成分もあるからね」
ホームセンターで買ってきた12ボルトの車用のバッテリーを変圧器に接続し、テスターで計りながら、最初は少ない電圧から始めました。
「コトコトぉ〜まぜまぜぇ〜ららるらーららりーろー」
謎の歌を歌いながら、ゆっくりゆっくりとかき混ぜる美里。
もともとやり始めると時間も忘れてしまう美里です、さらに一人でやっているので、誰も止める人がいません。
「おい、例の話知っているか?」
「何の話だ」
「第四研究室で、上原主任が呪文みたいなのを唱えながら鍋をかき混ぜてるって話」
「知ってるも何もこの間、夜見たぞ、ぞっとした」
「いったい何をやってるんだろうな」
「誰も知らないって話だぞ」
「研究室のやつも知らないって言ってた」
「呪いの薬でも作ってるんじゃないか」
「まるで魔女だな」
「いや既に研究室の他のやつらは「魔女」って呼んでるらしい」
「マジか」
こうして本人の知らないうちに美里は「魔女」と呼ばれるようになりました。
そうこうしているうちに一ヶ月経過しました。
「う〜ん、材料を変えたり、電圧を調整したり、結構なパターンを試してみたけどだめだなぁ」
美里が記録したデータを見ながらつぶやきました。
一応ポーションらしきものはできたのですが、ただの栄養ドリンクと変わらないものや、見た目が悪いもの、とても飲めないもの、様々なものが作られたのでしたが、とてもポーションと呼べる効果があるものはできませんでした。
「根本的な事が間違ってるのかな」
異世界もののラノベを読みながら、一人呟く美里でした。
「やっぱり魔法じゃないとダメかな」
とんでもないこと言っているがこの研究室には誰もいないので大丈夫です。
「う〜ん異世界転移出来ないかなぁ、でも異世界で魔法を使えても、こっちでは使えないかも知れないし、戻って来れないかも知れないし、う〜ん」
さらに時間が経過し、そろそろ二ヶ月になろうとしたある日。
膨大な失敗作を前にして美里はまたとんでもないことを言ったのです。
「そうだ、私が魔法を使えるようになればいいんじゃない」
どうしたらそんな発想になるのか、しかし美里は大真面目なのです。
「本屋〜本屋〜魔法の本屋ぁ〜ららるん」
またまた謎の歌を歌いながら、町中の本屋を徘徊する美里でした
「やっぱり魔法の本は無いなぁ」
そんなものあるわけないのに必死で探す美里であった。
「あれ、こんなところに古本屋なんてあったっけ?」
おそらく本屋を必死で探していたからだからろう、よーく見ないとわからないような、古い本屋がありました。
「ごめんください」
別に本屋に入るのに挨拶する必要は無いのですが、まるで普通の家みたいなのでつい挨拶をしてしまいました。
そこにはこっくり、こっくりと眠っているおじいさんが一人座ってました。
「寝てるのかな」
そして本を探し出す美里。
「みつけた」
その本は「魔法について」と書かれた本で、長く売れなかったのが埃まみれになっていました。
「50円?」
それもたったの50円
「すみませんこの本ください」
「ん、あ、いらっしゃい すみません寝とりました」
「あぁかまいませんよ、この本ください」
「そんな本あったのじゃな、ワシも忘れとったわい」
美里は100円をそっとテーブルの上に置き
「おつりはいりません」
「ありがとうお嬢さん」
いつか言ってみたかったセリフを言って店を出たのでした。
「ふふん ふふん」
やっと見つけた本も買えて、言ってみたかったセリフも言えてご機嫌で会社に戻るのでした。
100円で満足している美里ではあるが、彼女は決して貧乏というわけではない。
両親が相手の責任で事故死し、多額の賠償金を払ってもらった。
そして両親の生命保険。
家のローンを完済しても、別荘の1つや2つ簡単に買える位のお金持ちなのです。
それに美里はおしゃれには興味なく、食事にこだわりもない、ほとんどお金を使うことがない。
ジャージでコンビニに行くくらいの無頓着な人間なのです。
「これこれ、これを探してたのよ」
美里が探していたのは「ルーン文字」。
ルーン文字は魔法の基礎とも言われている文字です、現代日本で使えるかはどうか分かりませんがね…
「さ〜てやるかぁ」
すごい気合が入っている美里ですが、何を始めるのやら?