アクシデント?
お姉さん達とギュウギュウ抱き合った後、お姉さん達から離れた場所に立ち、私は三つのブレスレットを自分の左手首に通した。そして、持っていたポーチの中を確認してみると─“秘密のポーチ”になっていた。
ーチート万歳であるー
そして、軽食等を詰め込んでいたリュックを、無言でその“魔法のポーチ”の中に入れると
「わー…それ、懐かしいね…。」
「あー…やっぱり琴音はチートだわ。」
「琴ちゃんのドヤ顔を思い出したわ。」
ー本当に、お姉さん達とのやり取りは…楽しかったなぁー
「─あ…雪だ…」
ふと見上げると、雪がチラチラと舞っていた。
「ここ数日冷えると思ったら…。」
「そう言えば、向こうでは雪なんて降らなかったよね。」
ー雪…真っ白な…雪ー
まるで…レフコースみたいに真っ白だ─。
「琴音、名残惜しいけど…体が冷えてしまう前に…戻った方が良い─。」
「─はい…。」
目を瞑り、足下に魔法陣を展開させる。その魔法陣に魔力を注ぎ込む前に、もう一度お姉さん達を見る。
「咲さん、美樹さん、千尋さん。お姉さん達と一緒に召喚されて…良かったです。お姉さん達の事…大好きです!ありがとうございました─いってきます!」
笑顔でお姉さん達に挨拶をして、一気に魔力を魔法陣に注ぎ込んだ。
ドンッ
「─えっ!?」
魔法陣から光が溢れて、私を囲む様に光の壁ができ─その光の壁の向こうから、咲さんの声と共に、咲さんとリュックサック一つが…飛び込んで来た。
「─え!?」
ーえ?何で?何で咲さんが!?ー
魔法陣は既に発動している為、止める事はできない。
「えっ!?ちょっ…何で!?」
ー咲さんがパニクっている─のは珍しい─じゃなくて!ー
「咲、聞こえてる?」
「千尋!美樹!これは…どう言う事!?」
「咲、女はね─」
ー女は?ー
「「愛されて、追われてなんぼよ!!」」
「はぁ──────っ!?」
ーえ─…マジですか!?それだけの為ですか!?ー
咲さんは遠い目になって、そのまま固まった。
「咲さん…ごめんなさい。この魔法陣は…止められません。」
と、私が言い切った時、光が一気に膨らんで弾けた─。
*****
「…色んな意味で…有り得ない─!!!」
ーはい。チートを発揮した…ハルですー
ちょっとしたアクシデント(?)がありましたが…2週間ぶりにパルヴァンの森に戻って来ました。無事に戻って来れたのか?と訊かれると─
「こと…ハルは大丈夫?私は…まだ体中が…痛い…。」
そうなんです。こっちに戻って来て、足下で展開していた魔法陣が消えると─体中が痛み出して、暫くの間、動けなくなったんです。
ー気を失うかと思ったー
私も咲さん─ミヤさんも異世界の転移が3回目。おそらく、一度異世界を跨ぐ度に、体への負担が大きくなっているんだろう。私のチートな魔力があるから、ミヤさんをまた日本に還そう─と思ってたんだけど─。
「駄目だ─。これ、私が日本に還れるってなっても、還らない方が良いって事だよね?3回目でこの痛みなら…きっと4回目は…生きるか死ぬか状態よね? 」
と言う結論に達した。
「ねぇ…美樹と千尋は…馬鹿だったのね?」
「…さ─ミヤさん…」
「ねぇ…ハル…。ここから移動する前に、ちょっと2人だけで…話をしよっか?」
「はい─勿論。」
私は、そっと周りに結界と認識阻害の魔法を張った。
先ず、2人のステータスを確認しました。
*ミヤー宮原 咲ー*
聖女
レベル MAX
*ハルー春ノ宮 琴音*
魔法使い
魔力 MAX
レベル MAX
ーはい。ミヤさんもチートです!前から分かってたけどー
「ふふっ…ねぇ、ハル?私達って…“最強コンビ”なんじゃない?」
「ミヤさんは前から最強でしたよ?」
「「……」」
「ミヤさん…ごめんなさい。私が日本に還ってなかったら、ミヤさんがここに来る事もなかったのに…。」
“愛されてなんぼ”と言われても─。あの時の私みたいに、勝手に異世界に放り込まれたのだ。心残りだってあるだろう─。
「ハル…私ね…日本に全く心残りが無くて…ビックリしてるのよ…」
「え????」
「寧ろ…また、このパルヴァン─だっけ?この森に来て…ワクワクしてる─。」
そう言うミヤさんの顔は…本当に、ここに来る前よりも輝いて見えた。
「前の召喚の時にね、私達、絶対に彼氏の元に還るんだーって、頑張って…それで、還ったでしょ?そうしたらさ…大好きで可愛がってたハルは居ないし…彼氏は…二股してたし?ホント、何の為に頑張って還って来たんだろう?って─何て言うか…心にポッカリ穴が空いた感じだったんだよね。」
「─ミヤさん…。」
「2年ぶりにハルに会えて、本当に嬉しかった。だから、ハルがまた戻りたいって言い出した時にね…良いなぁって…思っちゃったのよね。聖女として生活してた3年間、本当に楽しかったのよ。目に見えて、誰かの為になってるって事が分かって…皆を幸せにできてるんだ─って、実感できたから。そんな世界に…また、私も戻って来れた。しかも、大好きなハルと一緒にね!まぁ、今は“聖女”は必要ないかもしれないけど…浄化だけが聖女の務めじゃないからね。」
それは、本当の事なんだろう。ミヤさんは、本当に嬉しそうな顔をしている。
「ミヤさん。正直に言うと…私もミヤさんが一緒にここに来てくれた事、本当に嬉しいと思ってます。私…今回、自分勝手に飛び出しちゃったんで、これからどうなるか分からないんですけど…私と一緒に居てくれますか?」
「ふふっ。当たり前じゃない!逆に、私とハルを引き離そうとするなら─迎え撃つだけよ?」
と言って、それはそれはとても綺麗な微笑みを浮かべるミヤさん。
ーあ、ここにもボスが居ましたー
ミヤさん…ゼンさんと気が合いそうだなぁ─と思ったのは、ここだけの話。
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