婚活姫は攫われたい! ~年頃になった姫は憧れの勇者と結婚する為、魔王に『わざと』攫われます~
「あぁ! もうっ!!」
とある国のとある城内の一室にて、成人の儀を終えて結婚適齢期となったこの国の王女様が暴れていた。
イライラとしながら地団駄を踏み鳴らし、クッションを何度もガスガスと殴って城中に聞こえる大声で金切り声をあげているのだった。
「誰も彼もっ! たいした男がいやしないっ!」
十五歳の成人を迎えたので初めて参加することとなった舞踏会、記念すべき王女様の社交界デビューの夜は散々だった。
出席した国中の貴族の子息たちが王女様からの愛を欲さんと、ダンスの申し込みをした。
そして最後には求婚し――――玉砕した。
「私はねぇ……もっと逞しくて、もっと賢くって、もっと情熱的で、もっとダンスも上手くって、もっと察しが良くて、もっと懐が深くって、もっと……もっと……と・に・か・くっ! あなたたちじゃダメなの! てんでダメなの!!」
また始まった……いつもの我儘――。
会場にいた使用人たちは皆そう思った。
「いいこと? 私はね~ぇ、伝説の勇者様みたいに逞しくって、賢くって、情熱的で――とにかく私を守ってくれるぐらい強くて素晴らしい男性と結婚したいのっ!!」
王女様はそう宣言するとバッと後ろに振り向き、父である国王の許へと擦り寄った。
「ねぇん、パパ~ぁ。私……私に相応しい男性を見つけるまでは結婚したくないわ~ぁ。こんな――こんな中途半端な人たちで妥協なんて……したくないのっ!!」
猫なで声を出して肩にしな垂れ掛かり、上目遣いで懇願してくる娘の姿にすっかりと国王はデレデレになってしまっていた。
「おぉ~! そうか、そうか……。母に負けず劣らず美しく育ったお前には、並の男は酷というものだものなぁ。」
「えぇ! パパを超える男性なんて――世界中探しても伝説の勇者様ぐらいしかいやしないわっ!」
いつも娘に甘い国王は王族としての役目も投げ、国中の貴族が見ている中でまたしても愛する娘のいいなりとなってしまうのだ。
その一年の出来事を見ていた王制懐疑派は、ザワザワと不安を口にしだす。
不安は伝播していき、微笑ましくみていた穏健派の貴族らも次第に不安を覚え……。
「こんな王に国を任していて……この先、この国は大丈夫なのか!?」
不安は影を呼び、闇を呼び――悪魔らを多数呼んで、遂には魔王を呼んだ。
「我は魔王! この世界の半分である闇を統べる者! 昼に生きる人間らよ――この世界のもう半分である光を我に差し出せ! さすれば我が全てを支配し、差別も柵も無い自由で平等な世界をこの世にもたらそうぞ!」
魔王はどんな女性をも魅了する姿で現れ、低音で滑らかなイケメンボイスで全ての人心を掌握した。
「フッハッハッハッハッハッハッハッ! ――ん?」
その魔王の傍らへとヌーっと音も無く近付き、ガバリと王女様は抱き着いた。
「私っ! 私を連れて行って! ――いや、攫って!!」
「いや――ちょ、ちょっと……!?」
予定になかった展開に、魔王は慌てふためいた。
自分を恐れるはずの人間――特に女性が、自ら自分の体にしがみ付いてくるのだから……。
「えっと……君?」
「はいっ! 魔王様♪」
返事だけは立派である。
「我は人間の女子になぞ興味はないのだが……?」
「いやっ! 私は勇者様と結婚するのっ! その為には魔王様に攫われなきゃいけないんだから、離れないわっ!!」
王女様のまさかの言動に、魔王様も呆れ顔である。
「えーっと…………。」
「攫って♪」
魔王様にとっては人間の女性なんて邪魔なだけ――。
「攫ってくれなきゃ話が進まないのっ!!」
魔王様が引き剥がそうとすればするほど、王女様はよりガッシリとしがみついてくる。
そんな攻防戦を十分以上繰り広げていると段々と疲れ、遂には魔王様も根負けして仕方なく居城である魔王城へと連れ帰った――。
「我――ここに来たのは失敗だったかもしれない……。外れだったな……。」
如何ともしがたいこの状況に、魔王様は帰ってからも深い溜め息を漏らすばかりであった……。
「いつでもかかってきなさい、勇者様♪ 愛するあなたを、この世界一美しい私がお待ち申し上げておりますわ♪」
――これである。