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香水の君 1

 ふうわりと。


 空気の中に混じるようにして、鼻腔を擽るのは、爽やかな柑橘系の香り。



 あぁ、今日は暑いから、爽やかな香りがとても心地よい。


 俺は舞踏会で、他の貴族達と談笑をしながら、ちらりと目線だけで、香りを漂わせてる方を見つめる。


 そこには、静かな仕草で、果実水を受け取っている1人の女性の姿があった。



 彼女の名前は、子爵令嬢のベルティーユ・グラッセ。



 纏っている香水の香りが上品なので、俺や知人達の間では、密かに「香水の君」という名で呼ばれていたりする。

 


 貴族としては珍しく、彼女は、自分で花やハーブを摘んで来ては、香水を作っており、それを身に纏わせていた。


 彼女の作る香水は、薄すぎず強すぎることも無く、花の香りのイメージを損なわせない、素晴らしい物を作ってると、俺は思っている。思っているんだが、どうも一部の女性からは好まれてはないらしい。



「グラッセ嬢、またご自分で作られた香水を使ってらっしゃるのね。貴族ともあろう者が、自分で作るだなんて……そんなにお金に苦労されてるのかしら」

「きちんと知識のある調香師が作られるからこそ、良い香りがしますのに……嫌よね、そういう事を分かってない方って」

「本当にね。私なんかは、香水を作らせたら、第一人者と呼ばれてる、タンカルムの香水しか使ってないわ」

「ふふ、私もよ」

「あの方の香水以外は、考えられないわよね」


 

 少し離れている此方にまで、彼女達のヒソヒソ話が耳に届く。その醜いまでの内容に俺はウンザリして、僅かに眉根を寄せた。


 女性の噂話は、社交界にいる以上、どうしたって耳に入らざるを得ない。


 偶にはまともな噂話も聞く事はあるが、大体は今みたいな、相手を貶めるような言葉ばかりが吐かれてきて、正直ウンザリする。 



「グラッセ嬢、確か身体が弱いそうね」

「そうそう。だからグラッセ子爵が、婚約者を探すのをまだ見送ってるんですって」

「デビュタントも、遅かったものね。どの道そんなに体が弱ければ、お相手を探すのも一苦労でしょうけれど」

「それに、聞いた話ですと次男の方も、お体が弱くていらっしゃるそうよ。幸いにもご長男は、子爵に似て健康体なので、家の後継として、しっかりやってらっしゃるそうですけれど、大変でしょうね。」

「それなのにグラッセ嬢は、香水作ったりしてるなんて、呑気な事ですわね」

「えぇ、本当に」



 グラッセ嬢が、体が弱いのは彼女のせいではないし、子爵が体を慮って婚約者をまだ見送ってるのは、仕方ない事だろうに。


 そもそも、何で香水を自作してるのか、それの意味を考える事もせずに、こうも悪しき様に話してるとは……聞いてて耳が腐りそうだと思い、俺は友人らの輪から抜けて、その場を少し離れる事にした。



 香水の君は、あまりこういう所にこないからか、体が弱いのもあるからか、他の女性の様にダンスを踊ることはせず、エスコートしてきていた次男と壁際で話をしている。


 俺の家と彼女の家は縁がないのだが、少し話をしたいなと思い、声を掛けようとした所で、大きな騒めきが耳に届いた。




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