09美味しそう?
魔力診断の日から5日後、GW最終日、私はメイリー孤児院の食堂にいた。
明日から、ここを出て香奈お姉ちゃんの所に住み、学校に通うのだ。
今日は簡素ながら、送別会である。
院長先生がコップに入ったジュースを掲げる。
「それでは、伊織と、そして円華の学校入学を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
そう、私と円華ちゃんのお祝いなのだ。
あのあと、円華ちゃんは先生と話し合い、独自に香奈さんと連絡をとり、学校に行きテストを受け、見事特待生として途中編入を決めたのだった。
…行動力やばい。
もともと、スキルも希少魔法も使えて潜在魔力も高い。
にもかかわらず学校なんて興味ないと言ってたのにどういう心変わりなのか。
まぁ私としては一緒にいれるから良いんだけどね。
「これからもよろしくね、円華ちゃん」
「おうっ!伊織に悪い虫がつかないよーに見守ってやるぜ!」
そういってニカッと笑う。
「そうだよ!伊織おねーちゃん抜けてるところあるから!」
「ボクたちの分までよろしくね」
「円華おねーちゃんまで居なくなるの寂しいけどね」
みんな思い思いの事を口に出す。
てゆーか私って信用ないなー。
自分ではしっかりしてるつもりなのに。
「だけどなー」
そういって円華ちゃんが眉を寄せる。
「伊織と違って正式な手続きでやってるから、編入が一週間遅れなんだよなー」
「な、なんか私が不正な手続きで編入するみたいな言い方やめてよねっ」
別に裏◯入学とかではない…はずだ。
「まぁ、とにかく、私が行くまで変なことするなよな。特に男とは距離をとれ!連絡先を交換しちゃダメだ」
「…なんでよ。友達出来ないじゃない、それじゃあ」
どうしてもなのっ!
そう言い張る円華ちゃんにこれ以上何を言っても無駄だった。
今までお世話になった先生に一通り挨拶し、子供達とも話し込んでいたらすっかり夜中。
引越しのためにベットだけになった自室に戻り、眠りにつく。
初めての学校。
新しい環境に不安もあるが期待もある。
香奈お姉ちゃんと一緒に住むのも緊張するし。
そんな事をいつまでも考えながら眠りについた。
ーーーーー
「じゃーーん!どうだー!」
翌朝、学校指定の制服に着替えてみんなの前でお披露目。
ちょっと上品ぽいけど、ふつーのブレザーである。
「…可愛い」
「…可愛すぎ。写メ撮っていい?」
「この子はもう、ほんとに」
子供達に先生に、口々にため息をもらしている。
そうかな?みんなこの制服気に入った?
「もうっ!ホント伊織は!それ、学校で誰にも見せんなよなっ!」
「円華ちゃん?学校に通うってどういう事か知ってる?」
結局誰も似合ってるとは言ってくれず若干しょげつつ孤児院を出発する。
近くのバス停でバスに乗り込み2つ先で降りる。
そして少し歩くと…見えてきた。
国立ラウル魔術養成学校。
とにかく広い敷地に大きな建物、全てに圧倒される。
さすがは国一番の教育機関。
改めて自分の場違い感に呆然とする。
気後れし、立ち止まりそうになるが、いけない!
しっかり魔力のコントロールを覚えてみんなに心配かけないようにならないと!
そう決意を改めて歩き出そうとすると、
ドンッ
「わぁ…」
「きゃあっ」
目を一瞬閉じてたせいで誰かとぶつかった。
幸先悪し!!
「ご、ごめんね!よそ見しててっ。怪我はない?」
そういって倒れている女の子を覗き込む。
黒髪のその女の子は髪はボサボサで、肌も真っ白。
なによりスレンダーを通り越してガリガリである。
とても大丈夫に見えない。
…のだが。
「…大丈夫ー、平気平気ー」
そう言って歩き出そうととする。
「ホントに大丈夫?保健室…っていうのかな?そういうとこ行く?…場所知らないけど」
「ホント大丈夫。身体丈夫だからー」
…とてもそうはみえないっ。
「それよりもあんた…」
そういって顔を覗き込んできた。
瞬間、ハッと息を飲む。
綺麗な金色の瞳。
不健康な見た目とは裏腹に鋭い眼光に心を掴まれたような感覚を覚える。
そしておもむろに私の顔に顔を寄せてきて!
「…いい匂い。お腹空いてきた」
「へぇ!?」
突然意味不明な事を言われて変な声がでた。
いい匂い?
お腹空いた?
昨日食べた唐揚げの匂いしたかな?
いや寝る前と朝起きての歯磨き忘れてないしなー。
思わず自分の手とか匂う。
くんくん、うん、石鹸の匂い。
「あ、ごめんごめん、忘れてーじゃあねー」
「あ、ちょっと!?唐揚げの匂い、したかな!?ねぇっってば!」
気怠げに手を振りながら行っちゃった。
…なんだったんだろう?
エリートが通う学校だと、色んな人がいるんだなー。
とりあえずまだ時間あるし、一旦コンビニ行ってブレスケア買いに行こう。