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08側に居るために

時刻は19時30分。


晩ご飯も食べ終わり、皆雑談モードに入っている。



今食堂には子供17人に先生が4人。



私の隣には円華ちゃんが座っている。



毎週の席替えも気にもせずに私の隣を陣取る。


そしてもう片方の隣と向かいの席は毎回ジャンケンで他の子が座っている。



みんな円華ちゃんの真似をするので円華ちゃんに「みんな円華ちゃんの事が好きだね」って言ったら「鈍すぎるっ」と怒られた事がある。



円華ちゃんはよくわからない事でたまに怒るのだ。



「はい、皆さんご飯は残さず食べましたか?聖女ユイ様に感謝の気持ちを忘れないようにね、ご馳走様でした」



「「「ご馳走様でしたっ」」」



院長先生が手を合わせるのに合わせてみんなで合唱する。


「さて、今日はみんなに大事な報告があります、真矢先生」



「みんなこんばんは。今日は伊織と魔力測定に行ってきたのだけど、そのことでみんなに報告があります」



「伊織おねーちゃんが魔力測ってきたのー?」

「それでお昼居なかったんだー!」

「ずるいー!私も一緒に行きたかった」



「はいはい!遊んできた訳じゃないのよ!それに大事な話なんだから、ちゃんと聞いてね」



先生がぱんと手を叩き今日の端末を話し始める。



魔力が多すぎて測定不能だった、と先に知っていた円華ちゃんは眠いのか目を擦りながら聞いていた。



がしかし、総魔力量が多すぎてこれまでと同じ生活が出来ない、という話から目の色を変えてこちらを伺っている。



そして香奈お姉ちゃんの養子に入り、魔術学校に入ると聞いた時には顔を真っ赤にして立ち上がった。



「そんなの!いきなりだし!聞いてないよっ!伊織!本当なの!?」


「本当だよ。今のままコントロール出来ないままだと危ないんだって」



そういって目を伏せる。

そうなのだ。養子に入るという事は15年間いたメイリー孤児院を出ていくことになる。


当然、先生や子供達、円華ちゃんとも離れることに。



「ダメだよっ!そんなの!伊織はこれまで通りに私が守るし、ここなら何があっても大丈夫だよ、なぁ、先生!?」



言われた真矢先生は宥めるように円華ちゃんに話す。



「確かにそうかもしれないし、伊織の事は信用してる。でも、伊織が1人でも生きていける機会を奪っちゃダメよ。このまま私や貴方に守られて生きていくのは伊織だってつらいでしょ?」



確かにそうだ。

私は守られて生きていくだけなんて嫌。

前を向いて、大好きなみんなと隣を歩きたい。


そのためには自分の力くらい、自分でどうにかしなきゃ。



きっと円華ちゃんも頭ではわかってるのだけど、心の整理がついてないのだ。



「そんな、そんなのって!!」



するとノースリーブの、肩から先の円華ちゃんの腕に、


幾重にも走った幾何学模様のタトゥーが光を放つ。



ーいけないっ!



「円華ちゃん!ダメっ!」



また円華ちゃんを抱きしめる。

今度は強く、背中に手を回してギュッッ。



まだ両腕のタトゥーは光を放っているが幾分か治ってきた。



「…だって、伊織と離れるなんて、ムリだよ。私が守るからさ、ずっとここに、居てよ」



ーお願い。という言葉は私の胸の中で掠れて消えていった。



「もう。円華ちゃんは大袈裟なんだから。学校はここの近くでしょ?いつでも会えるし、用事が無かったら遊びにくるから。ね?」



「…うん」



そうしていると円華ちゃんの両腕から放つ光は完全に収まっていた。


子供達の前に守るようにたっていた先生もホッと胸を撫で下ろす。



すると今まで見守っていた子供達も我先にと抱きついてきた。



「うわーん!伊織ねーちゃん!」

「いっちゃやだよー!!」

「毎日だからね!?毎日遊びにきてよね!?」



あっという間に私と円華ちゃんを中心にもみくちゃになる。



「ま、毎日はわかんないけど、なるべくみんなに会いに、ってちょっと!こけるってば!」



そのままもつれて食堂で激しくこける。

痛いよー!なにするのよー!


そういって涙を転んだせいにして笑った。



「…おかしいわね、円華がこんなにあっさりと…」

「もしかして何か考えてるのかしら…?」



先生達がそんな事を呟いていたのを子供達から後で教えて貰った。



ーーーーー



伊織達と別れ食堂を後にし、自室に篭る。




とんでもないことになった!



私、桐谷円華は人生最大のピンチに陥った。



伊織と離れ離れになりそうなのだ。



確かにメイリー孤児院とラウル魔術養成学校は近い。

バス停2つ程の距離だ。



だが、毎日寝る時以外は一緒にいた私には耐えられない。

おそらく伊織欠乏症で死んでしまうだろう。



癇癪で喚き散らすだけの私ではない。


伊織の側にいる。


その目的の為には冷静に頭を使い、これからの事を考える。



そして答えはすぐに出た。



「私も、学校に通えばいいんだ」


そもそも、伊織と同い年の私が学校にも行かず、メイリー孤児院で見習い働きを開始したのは伊織と一緒にいるためである。



無意識に自分の腕を掴む。



生まれ持った特殊な魔力。



それを抑制するために深く腕に彫られた紋様。



自分でも、嫌悪していたこの身体を、伊織は受け入れてくれた。



それどころか、幼いながらに伊織は「円華ちゃんとお揃いにするのー」と言って先生にタトゥーを彫りたいとねだっているのを見た。



そのとき、この優しいバカを、生涯隣で見守ると決めた。


幸い、ラウル魔術養成学校の編入資格は、ある。…と思う。


お金は、…まぁ考えよう。



伊織の側に居るためなら、ありとあらゆる手段を尽くす。


メイリーの『天使と悪魔』を引き離せると思うなよっ!



固く拳を握った。



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