46大人っぽさ
軽く挨拶だけ交わして香奈お姉ちゃんは一旦部屋に戻り、部屋着に着替えて再びリビングで集まる。
「今日は来てくれてありがとう。改めまして、沢村香奈です。知ってると思うけど、伊織の保護者になってるわ」
ガラスのテーブルを挟んで向かい合う形で自己紹介をする香奈お姉ちゃん。
「どうも、夜咲姫です。伊織とは友人として仲良くさせてもらってます」
「はじめましてにゃ。ミーア・ナーオ・ステラですにゃ。同じく伊織の友達ですにゃ」
お、なんかかしこまってるこの2人の話し方はレアかも?
「よろしくね。円華ちゃんは久しぶりね。えーと、確か最後に会ったのは『伊織に相応しい保護者か見極めに来たっ!』って言って魔法省の一室で面会した時以来かしら?」
「!?ちょちょ、ちょっと!あ、あれはホントにすみませんっ!なんか勢いに任せて失礼な事をっ!…伊織、そんな目で見ないでっ」
「ま、円華ちゃん、気持ちは嬉しいけどダメだよ?」
「大丈夫、香奈さんと少し話してすぐに反省したしその場で謝ったからっ」
円華ちゃんの行動力には毎回驚かされるけど、知らない場所でそんな熱烈なコンタクトを取っていたとは。
「ふふ、御免なさいね?本当は全く気にして無いわ。むしろ伊織ちゃんには素敵な友達が居ることに嬉しくなったくらいよ」
「…そう言ってくれると少し気が楽になります」
円華ちゃんが少し恥ずかしそうに俯く。
これも珍しい反応だね。
「さて、夜咲姫ちゃん、姫ちゃんで良いかしら?」
「あ、はい!もちろんです!」
「一度学校に行ったときに伊織ちゃんの隣にいた子ね。ふふ、可愛い子がいるわねって見たのを覚えているわ」
「あ、ありがとうございますっ!あの時の香奈さん、カッコ良かったですっ!」
ゴーレム騒ぎで私と姫ちゃんがなんか悪いって雰囲気になってたやつだね。
「…あれね。ちょっと大人気なかったわね。でも子供にとって、大人は少し嫌われるくらいがいいのよ」
「な、なんか深いっすねー」
姫ちゃんが感心したように頷いている。
「さて、それでステラちゃんね。確か勇者を目指してるんだったかしら?」
「そうなのにゃ。今は見習いだけど、いつか勇者になってみせるにゃ」
ステラちゃんが元気よく答える。
「獣人族初めての光の魔力適性者が心優しい猫人族のミーア族で、しかも勇者を目指しているだなんてとても嬉しいわ」
「み、ミーア族を知っているのかにゃ!?」
ステラちゃんが座ったまま少し身を乗り出す。
「獣人族の中でも珍しい文官の家系ね。争いを嫌い、話し合いや政策で平和を実現しようとする志の高い一族でしょ?」
「…その通りですにゃ。でも獣人族は戦いと力を重んじる傾向が強く、私の部族はよく臆病者だと言われるのにゃ」
ステラちゃんが少し目を伏せて拳を握る。
「なるほど、だから勇者になって周りを見返したいのね」
「…不純な動機ですかにゃ?」
「そんなことないわ。あなたが自分の部族が大好きで、誇りに思ってるのはとてもよくわかる。たとえそれが動機でも勇者を目指すというのはとても勇気のいる決断よ。私はステラちゃんを応援するわ」
香奈お姉ちゃんがそう言ってニコリと微笑む。
「…ありがとうございますにゃ。なんだか少し肩の力が抜けたみたいに楽になりましたにゃ」
ステラちゃんがそう言って緊張が解けたように、ふにゃっと顔を綻ばせる。
な、なんか自己紹介がてら人生相談みたいになってる。
さすがは香奈お姉ちゃん。
ーーー
5人で談笑してると時刻は18時過ぎくらいになっていた。
「そろそろ晩ご飯作るから。みんなは座って待っててねー」
「手伝うよー伊織ー」
「私も何かするにゃ」
「何か出来ることあるか?」
3人が手伝うと名乗り出てくれる。
「ありがとう。でも今日はみんなが初めて来てくれた日だし、下準備はほとんど昨日で終わってるから大丈夫だよ」
立ち上がってキッチンに近づき、棚からエプロンを取り出して身に付ける。
「エプロン姿の伊織ちゃん、本当可愛いわ」
「めっちゃ似合ってますよねー!家庭的ってゆーか!」
「ね、猫の柄なのにゃー!嬉しいのにゃー!」
「制服の上からエプロンか。…ありだな」
みんながそれぞれ感想を口にする。
「ちょっと聞こえてるよっ?恥ずかしいからもうちょっと声を抑えてくれないかなっ?」
ただでさえ対面キッチンでみんなの方を向いて料理するんだから。
…まぁ結論から言うと4人は雑談なんてほとんどせずに私の料理姿をずっと見ていた。
あとステラちゃんは料理中にスマホのカメラで撮影しまくるのをやめてほしい。
ーーー
「今日は楽しかったわ。みんなまた来てね」
ご飯も食べ終わりもういい時間なのでみんな帰ることに。
「こちらこそありがとうございましたっ!めっちゃ楽しかったです」
すっかり打ち解けた姫ちゃんが元気よく返事をする。
「ホントに楽しかったにゃ。また来てもいいですかにゃー?」
「もちろんよ。私の居ない時でも遠慮なくいらっしゃい」
手のひらをひらひらとさせる香奈お姉ちゃんに見送られてエレベーターの扉が閉まる。
「…ふぅー。ホントに素敵な人だなー。香奈さん」
「最初はびっくりしたにゃ。ぬいぐるみ遊びだなんて」
「あはは!割とよくやるよ、ああいう遊び!」
「なんかああいう人の子供っぽさって一周回って大人っぽいよな」
「ふっふー!どうやら伊織さんの大人っぽさが分かったみたいだね」
「ないなー」
「ないにゃ」
「ないわ」
ぬぅ、納得いかぬ。
1階エントランスから玄関に出ると、香奈お姉ちゃんの用意した運転手が待っていた。
「すみませんけど、よろしくお願いします」
「任せてください」
黒塗りの車に乗って帰っていく友人って凄いシュールな光景をいつまでも手振って眺めていた。
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