43公共の場ではお静かに!
「ほら、そろそろ起きろよ伊織」
「…うーん、…おはようございます」
至近距離にある円華ちゃんの顔を確認して覚醒する。
…そうだ、昨日は孤児院に泊まりに来たんだった。
お風呂入って円華ちゃんの部屋で筋トレして、
…うーん?2人でどうやって寝たっけ?…まぁいっか。
「円華ちゃん、朝早いね」
円華ちゃんはもう既に制服を着ている。
「朝ちょっとランニングしてきて、軽くシャワー浴びてきたんだよ」
「そうなんだ!すごいね!」
「凄くねぇよ。ちょっと煩悩を振り払いたくて…」
「煩悩?」
「なんもねーよ。まぁちょっとスッキリしたかっただけだから、気にすんな」
そう言ってへへ、っと苦笑する円華ちゃん。
「まぁ私も起きよっと。…っ!?うっ!」
「ど、どうした伊織!?」
起き上がろうとして、お腹を抑えて再びベッドに突っ伏す私を見て慌てた風に声をかけられる。
「お、お腹痛っ!き、筋肉痛かもっ!」
「ええー?昨日なんかしたっけ?」
「したよっ!筋トレっ!」
「はは!悪い悪い。はら、掴まれよ。ゆっくり立てるか?」
「うぅ、面目ねぇ」
「武士かよっ」
呆れながらも肩を貸してくれる円華ちゃんに掴まり起き上がる。
こんなに痛いなんて!ははーん、さては今日は地獄だな?
「最初はまず少ない回数でだな?」
「最初はまず少ない回数でやったんだけど?」
「……」
「ちょっと、笑うの我慢してるでしょ?…ねぇってば!」
肩を貸してくれた親友は顔を伏せて肩をプルプル震わせているのだった。
ーーー
制服に着替えて身だしなみを整えて食堂で朝食を済ませる。
子供達は昨日私と遊びたかったみたいだけど、先生達に促されて寝かされていたみたい。
また今度来た時は一緒に遊ぼう。
「それじゃ行ってきます」
「行ってくるよっ」
「行ってらっしゃい。また今度ゆっくり帰ってくるのよ」
「また泊まりにきてねっ」
「行ってらっしゃーい!」
真矢先生と子供達に見送られて孤児院を出る。
よし、今日も1日頑張りますか。
ーーー
「おはよー!伊織っ!やば!相変わらず天使過ぎてしんどいっ」
「おはよーにゃ。伊織、円華」
「おはよ、2人とも」
「お前ら…なんで既にバスに乗ってんだよ。…まぁいっか。おはよ」
メイリー孤児院に一番近いバス停でバスに乗ると既に姫ちゃんとステラちゃんがいつもの席に座っていた。
うん、もはや何をどういう風に乗れば2人がここに居るんだろ?
「昨日寝るの早くないー?初グルチャで結構盛り上がってたのにさー?」
姫ちゃんが少し口を尖らせて言う。
「いやー、昨日ちょっと円華ちゃんに見てもらって筋トレしたら凄い疲れちゃってさ。すぐ寝ちゃったよ」
「どうして急に筋トレなんだにゃ?ダイエットだったら伊織には必要ないと思うにゃ」
ステラちゃんが少し首を傾げる。
「やっぱり魔導学校に通ったなら戦闘もしなきゃだし、体力もつけたいなって思って」
「伊織の敵なら私が根こそぎ食い尽くすよっ♪」
「穴だらけにしてやるな」
「切り裂いてやるにゃ」
3人がそれぞれ少し暗い顔で笑う。
うん、なるべくは穏便にいきたいよね。
「あ、そうだ2人とも見てよ。これ、昨日腹筋したやつなんだけどね?」
スマホを取り出しアルバムからムービーを再生する。
それは昨日円華ちゃんに撮って貰った2セット目の腹筋をしている時の映像。
自分の筋トレしてる姿を見てフォームとか改善すると効率があがったりする、と円華ちゃんに教えて貰ったので撮影して貰ったのだ。
アングルは脚を掴んで押さえてくれてる円華ちゃんからの視点。
『んー!いーちっ!』
映像の中では私が歯を食いしばって必死に上体を起こしている。
そしてゆっくりと体を倒していく。
…倒れていく時に毎回服がめくれてお腹丸出しのおへそ丸出し状態になってる。
すみません、ぷにぷにでお見苦しいものを。
「「……」」
2人はそんなことに構わずに見入るように動画を見ている。
そんなに変なフォームかな?
『んっ!ごーおっ!っはぁ!無理ー!』
バタン、と力尽きて倒れたところでムービーは終わり。
「これね?2回目だから5回しか無理だったけど、最初は7回いけたんだよ?…どうかな?なんかやり方とか変?」
「…んー、真っ白なお腹とおへそがとても綺麗でそこに伊織の頑張っている顔がマジ可愛くて最高くらいしか思いつかないかなー?」
姫ちゃんが凄く真剣な顔で変な感想を言ってくる。
あれ?腹筋の感想は?
「とりあえずこのムービーを送って欲しいにゃ。今日帰ってからじっくり見返すから感想はまだ待って欲しいのにゃ」
「…いいけど、他の人に見せたりしないでよ?」
「絶対誰にも見せないしっ」
「誰にも見せたりしないにゃ」
変なところでハモる2人。
少し恥ずかしいけど、動画を送ってあげる。
2人も普段から基礎トレーニングとかしてるみたいだし、いい意見が聞けたらいいね。
「あ、きたきたっ!こんなエロいの他の人に見せられるわけないじゃんっ」
「筋トレの動画だよっ!?」
たったの5回しか腹筋出来ない女子高生の動画の何処にエロさがあるというのか。
「ま、円華っ!動画のスロー再生ってどうやるにゃ!?出来たら拡大しながら見たいにゃ!」
「…むっつりにゃんこ。教えてやんない」
「ふにゃああ!?なんでにゃー!!」
「ちょ、ちょっとステラちゃん!動画の音おっきいよ!ボリューム下げて!」
『っん!さーんっ!』
帰ってから見ると言ってたのはなんだったんだろ?
ステラちゃんのスマホからはそこそこのボリュームで私の筋トレ、というかもはや痴態が再生されている。
公共の乗り物であまり大声や大きな音で騒ぐのはやめようねっ!
ーーー
私の渾身のツッコミ?で若干テンションの下がったステラちゃんと別れて自分の教室に。
「あれはステラが悪いだろ。少しはしゃぎ過ぎだな」
円華ちゃんはそう言うけど、耳としっぽをしゅんと項垂れさせて、「ごめんにゃ」と謝るステラちゃんを見ると、罪悪感で胸が潰れそうになった。
まぁ元々スマホでムービーを再生したのは私だしね。
あとでステラちゃんの好きなミルクティーを買ってあげよう。
そうしているとチャイムが鳴りHRの時間に。
担任の岩井先生が入ってくる。
「さて、HRをはじめるんだがその前に、御門?」
「…え?はい」
急に先生に名前を呼ばれて半ば惚けて返事をしてしまう。
「…昨日放課後に放送で第四魔導科学研究室に呼ばれてたと思うんだが、その、二年の葉山に呼び出されたのか?」
「そうですよ。私に用事みたいでした。これからも時々会うと思います」
「そ、そうか。あの研究室は学園長先生しか入った事がないらしいのだが。また今度どんな様子か教えてくれないか?」
「うーん、深美先輩、色んな研究してるんで、先輩の許可を貰えた分だけで良いですか?」
「あ、あぁもちろんだ!よろしく頼むぞ!」
先生が少し嬉しそうに声を弾ませる。
確か先生もゴーレムマスターの資格を持ってるんだっけ?
「…いつの間に下の名前で呼ぶ仲になってるのかなー?」
姫ちゃんがジトリと視線を向けてくる。
「ふふ、私と先輩は同志だからね」
同じ趣味を持つ私達が打ち解けるのに時間はかからなかった。
昨日も風呂上がりの時間でロボットアニメトークをLINEでしてたしね。
「葉山先輩って最年少でゴーレムマスターとクリエイターの両方の資格を取ったっていうあの天才か?」
「研究室にずっと篭っているから、二年生ですらほとんど姿を見た事ないらしいよ?」
「…なんでまた御門なんだ?…まぁもうあんまり不思議じゃねぇけど」
少しざわつきながらもHRが終わる。
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