40お泊りの日
「大地にー♪降り立つー♪白銀のしーろー♪」
「伊織、ご機嫌みたいだけどー、それなんの歌ー?」
「マドーガーZのオープニングだよっ!」
「ごめん知らないわー」
「知らないにゃ」
「全く知らん」
ロボット製作の協力を先輩と約束して、LINEのIDを交換して第四魔導科学研究室を後にした。
とりあえず先輩は私の魔力を受け止められるくらいの高純度な魔石を見つけるのと同時進行でロボットの製作を進めるらしい。
初めて見つけたロボ好き同志との話はいつまでも尽きることはないのだけど、今日は用事があるから仕方ないね。
「最後に借りたブルーレイはなんだっけー?」
「『劇場版!暗黒軍曹VSグレートマドーガー』だよっ!しかも初回限定盤っ」
「ごめんやっぱ知らないわー」
「聞いたことないにゃ」
「伊織にこんな一面があったなんて」
三人共視線が明後日の方向に向かっている。
いつか分かり合えるといいとは思うけど、私は趣味を人に押し付けるタイプじゃないからなぁ。
「なんか今日は円華の転入から先輩の呼び出しと、濃厚な一日だったなー」
「ホントにゃ。伊織と一緒だと退屈しないにゃ」
そういって姫ちゃんとステラちゃんが笑い合う。
「なんかいつも騒動にみんなを巻き込んでる気がするけど、そう言ってくれると嬉しいなぁ」
「…おーい、伊織ー?私の転入も騒動って言いたいのかぁー!!」
そう言って円華ちゃんが後ろから脇腹をガッと掴んでくる!?
「ひいっ!あ、ちょっと!ご、ごめんてばっ!あははっ!言葉のあ、あやだって…あははっ!…もう!」
ふー、ふー!
苦しいっ!
どうにか振り払い逃げる事に成功する。
「ははは!伊織は相変わらず脇腹弱いよな!」
「円華ちゃんの触り方がやらしいだけだからっ」
「や、やらしくねぇよ!普通だから!」
「普通じゃないもん。他の人なら平気だもん」
…あ、やばい。
妙な視線を感じて振り返ると。
「…へぇー♪他の人ならー?」
「平気って言ったかにゃ?」
失言に気付いた瞬間、身を翻し走るっ!
振り向いてはいけない!捕まればどんな地獄が待ってる事か!
「はい、捕まえたー♪」
「覚悟はいいかにゃ?」
左右の肩を愛すべき友人達に捕まれる。
きゃああああー!?
しまった!そういえば私運動苦手だったー!!!
ーーー
午後4時30分頃、停留所で四人、バスを待っている。
「今度の実技講習で、私は足が速くなる魔法を覚えようと思います」
「身体強化系の魔法は体内で魔力を制御する必要があるから、さすがにリヴィールで取り出した魔力だと無理だと思うぞ?」
「ずーん。じゃあ脇腹を触られても平気になる魔法は?」
「く、くだらない目的の割に高難易度だな。感覚遮断系の魔法かな?絶対身体強化より難しい」
「ずーん。じゃあ腰にコルセット巻く」
「…それがいいと思う」
姫ちゃんとステラちゃんの魔手から逃れながら中庭を走り回り、見かねた円華ちゃんが止めに入る頃にはもう私のライフはゼロだった。
肩で息を切る私とは対照的に姫ちゃんとステラちゃんは満足そうな笑みを浮かべ、心なしかお肌もつやつやしてたような気がする。
そうやってじゃれあいながら帰路に着く為にバス停まで歩き、今に至る。
「ふぅー。美少女の脇腹は絶品ですなー♪」
「指が横腹に埋もれる感覚が素敵にゃ♪」
「ちょっとおじさんくさくない!?二人とも!?」
私の渾身のツッコミも意に介さずペットポトルのお茶をずずずーっと飲んでいる。
その内、香奈お姉ちゃんの部屋とは反対方面、メイリー孤児院方面のバスが来る。
「てゆーか、今日は孤児院に寄るのー?いつもと逆方向じゃん」
今日はいつも乗るバス停と、道路を挟んで逆側のバス停に居ることに今更姫ちゃんが気付いたみたい。
「あ、ほんとにゃ!私こっちじゃないにゃ!」
あ、ステラちゃんも今気付いたみたい。
「言ってなかったっけ?今日用事あるって先輩に言ったでしょ?」
二人が頷く。
「今日は私と伊織は孤児院に泊まって行くんだよ。そんで明日はそのまま学校行くから」
私の言葉の続きを円華ちゃんが話してくれる。
「そうなんだー。伊織が行ってあげたら子供達も喜ぶじゃん」
「円華はまだ住んでるんだにゃ?」
「そうだよ。勢いで転入決めたから、そういう所がまだふわふわしてんだよ。その内決めていかないとな。…さ、伊織、乗るぞ。じゃあな、姫、ステラ」
そういって円華ちゃんがバスに乗り込もうとする。
「うん、じゃあまた明日ね。姫ちゃん、ステラちゃん」
「また明日ねー、伊織、円華♪」
「バイバイにゃ!」
二人に手を振って乗り込む。
あれ?そういえば?
「あ、円華ちゃん、私の部屋ってもう無いよね?」
香奈お姉ちゃんの部屋に引っ越すときに、確か空き家になったはず。
「…今日は伊織は私の部屋に泊まる事になってるから」
「そうなんだ。一緒に寝るの久々だね」
懐かしいな。
子供の時はよく一緒に寝てたっけ。
「「えっ!?」」
振り向くと話を聞いていた姫ちゃんとステラちゃんが驚愕の表情を浮かべて目を見開いている。
どうしたの?っと聞こうとした瞬間、ぷしゅーとバスの扉が閉まった。
「ほら、座るぞ伊織」
「あ、うん」
バスが動き出す前に慌てて窓際の席に円華ちゃんと座る。
窓の外を見ると二人がまだ同じ顔で固まってる。
とりあえずばいばーい、と手を振るけど無反応。
「??二人ともどうしたんだろう?」
「さぁ?変な奴らだな」
そう言って円華ちゃんがふふっと笑う。上機嫌みたい。
私とは違って円華ちゃんの転入初日は大成功みたいだね。
良かった良かった。
ーーー
しばらくバスに揺られながら、円華ちゃんと他愛のない話に花を咲かせていると、メイリー孤児院近くのバス停の、一つ前で降りる。
今日は子供達と先生達の為に、ケーキ屋さんでデザートを予約していたのだ。
一口ケーキとかプリンとか色々。
少し多めに30個ほどの予約していたデザートを受け取る。
喜んでくれるかな?
二人で半分ずつ持って、そのままメイリー孤児院まで歩く。
時刻は夕方5時頃、ようやくメイリー孤児院前に着いた。
特徴的な天使の羽みたいなレリーフをあしらった門を過ぎて広い庭に入る。
「あ!伊織おねーちゃんだ!」
「ほんとだ!おせーよっ」
「円華おねーちゃんもお帰り!」
すると庭で遊んでいた孤児院の中でも特に小さい子達が駆け寄って足元に抱きついてくる。
「ただいま!こんな時間までお外で待ってくれてたの?」
「そうだよ!遅いじゃん!」
「道に迷ってたの?」
「あはは、ごめんごめん!みんなのデザート選んでたら時間かかっちゃったの。晩ご飯の後に一緒に食べよ?」
「!?わーい!伊織おねーちゃん大好きっ」
「じゃあ晩ご飯まで一緒にあそぼうぜ!」
「伊織おねーちゃん、あっちに綺麗な花が咲いてるのっ」
「はいはい、デザートを冷蔵庫に入れて先生にも挨拶するから、また後でな」
円華ちゃんが慣れた手つきで、私にじゃれつく子供達を引き離す。
「けちー!」
「絶対後で来てねっ!」
不満の声を漏らす子供達と一旦別れて、先生達の居る教員室を目指す。
「ホントにあいつらは。伊織の事になると歯止めが効かなくなるんだからよ」
「まぁああやって懐いてくれるのは嬉しいよ。精神年齢が近いのかもね?」
「ははっ。そういうとこもあるかも知れないな」
「うわ、円華ちゃんひどいっ」
「自分で言ったんだろ?」
笑いながら歩いていると教員室の前に人影を見つける。
「真矢先生っ。ただいまです」
声をかけられて振り返った私のもう一人の親代わり、真矢先生は顔をぱぁっと明るくさせて歩いてくる。
「伊織も、円華もおかえりなさい。学校が終わる時間よりずいぶん遅いから心配しましたよ?」
確かにまっすぐ帰るよりは40分程遅いかも。
「ごめんなさい。学校で用事があったのと、みんなにデザートを買って来たんです。先生達のもありますよ」
そういって円華ちゃんと私で持っている二つの箱を先生に見せる。
「もう、あなた達はまだ子供なんだからそんなに気を遣っちゃダメよ?でもありがとう。とても嬉しいわ」
そういって先生が持ってきたデザートを受け取る。
「まだ晩ご飯まで時間があるから、みんなと遊んであげて。凄く喜ぶと思うわ」
「昨日も沢山遊んだんですけどね。みんなよく飽きないなぁ」
「ふふ。それは貴方だからじゃない?ねぇ、円華?」
「…もぉ、うるさいな先生、早く冷蔵庫に入れてきてくれよ」
「はいはい、また後でね」
そういって先生は教員室に入っていく。
「さて、先にカバンとか置きに行こっか?円華ちゃんの部屋でいい?」
「あぁ、ついでに私の部屋着を貸すから着替えろよ。制服洗濯に出しとくから」
「そうだね。明日も着ていかなきゃだしね」
円華ちゃんとこうして歩いているとつい一週間前の事なのに懐かしく感じる。
…転入してから色々あったもんね。
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