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39実は同志?

「そもそもゴーレムってなんなのにゃ?」



ステラちゃんがシンプルな疑問に首を傾げる。



まぁ確かに、ゴーレムもある意味ロボットみたいだし。




「ゴーレムってのは術式を施した魔石に魔力を込めたものを核に使って、本来動かない物を動かす技法だな。当然、ボディになるゴーレム本体にも魔導回路を施すんだが、それが複雑になるほど細かい動きが出来るが、その分出力として多くの魔力が必要になる」



それに答えたのは円華ちゃんだ。



なるほど。



より難しい動きをするようになるほど、沢山の魔力が必要になるんだね。



「だからゴーレムの魔導回路はシンプルになりがちだ。そして魔導回路がシンプルだと消費魔力は少なくて済むが、その分可動域が少なく、動きも単調で鈍重になる。術者のゴーレムマスターが近くで操ることで少しマシにはなるが人間には程遠い。実際に授業で見ただろ?」



確かに授業で見たゴーレムは歩くのと、腕で殴りかかる以外の動きをしたことが無い気がする。



「それに本来魔力の宿らないものに魔導回路を施すのはとても難しい。木や石や鉄に血管を通すようなものだ。一般的なゴーレムクリエイターなら魔力を使った腕時計を造るのすら至難の技だと思う」



「…よくご存知で」



葉山先輩が感心した様に頷く。



「だからもし先輩の言う複雑な魔導回路を施した人型ゴーレム、つまり魔導ロボットが完成すれば前代未聞の偉業になるな。例えるなら、ゴーレムが電卓で、ロボットがスマホみたいなもんだ」



「出たっ!円華のインテリモードっ!」



「円華すごいのにゃ!半分以上よくわからないのにゃ!」



姫ちゃんとステラちゃんが狐に摘まれたような顔で円華ちゃんを見る。



そう、円華ちゃんは運動も勉強も出来る優等生なのだ。





「その通りです。ですので魔導ロボットというのは殆ど空想に近いです。なにせ、前例がありませんので」




「先輩がそれを作れる程の天才なのはわかる。この部屋で動いているゴーレムに、あの黒い四本腕のゴーレムが証拠だな」



円華ちゃんがそう言うと周囲の助手ゴーレム達が一同に礼をする。



円華ちゃんの説明の後だと、この光景の凄さが少し分かる。



一礼をしたゴーレム達は、授業で見た様な無骨なのとは明らかに違う、細やかで繊細な動きを見せている。



これが魔導回路の複雑さのなせる技なのね。



「スキルの助けもありますが、長年の研究の末に、プロトタイプと呼ばれるものが完成しました。まだフレームだけですが、全身に複雑な魔導回路が施された、ロボットと言っても差し支えの無いものが」



そう言って葉山先輩が台座の上のロボットに穏やかな視線を送る。



その目には色んな思いが宿ってそう。



「…だけど、肝心な問題が解決してない」



「その通りですね。その複雑な魔導回路を全て機能させる為の、膨大な魔力が足りません。試しに私の魔力を込めた魔石では指一本満足に動きませんでした」



葉山先輩が自分の手を握ったり、開いたり、余程悔しい思いをしたみたい。



「色々考えましたが解決法が見つからず、途方に暮れているところにある噂が聞こえてきたのです。『一年D組の潜在魔力特待生が授業用に提供した二年生のゴーレムを全て壊した』というのを」



「…私と姫ちゃんの事だね」



「…中本のせいだけどねー」



姫ちゃんが恨みがましく言う。



何かと尾を引くね、中本君の悪行。



「半信半疑でしたが藁にもすがる思いで記録機材を搭載したゴーレムを一年D組の授業に合わせて提供しました。…結果はこの通り」



そういって葉山先輩がスマホを取り出すと何かのムービーが流れる。



それはあの黒いゴーレム視点の映像。



銀色の炎が目の前を染めて、私をロックオンして歩き出してから、円華ちゃんに蜂の巣にされるまでだ。



うわ、すごい痛そうっ!



「この時に私のゴーレムが探知した魔力量は測定可能な領域でも私の数十倍でした。通常のゴーレムなら数ヶ月は動き続けれますね」



…なるほど、話が見えてきたぞっ!



「あとは有り余る好奇心を抑えきれず、映像に映った三人の生徒の写真を元に学校のサーバーをハッキングして身元を調べました。正直やりすぎましたすみません」



「「「「………」」」」



四人とも絶句である。



反省している様だけど、ちょっと暴走しがちな先輩さんみたいだね。



「そして学校の放送室もハッキングして、機械音声で御門伊織さんを呼び出したという訳です。あ、大丈夫です、この件で迷惑はかけませんので」



「で、でしたら大丈夫ですけど」



何が大丈夫なんだろ?ちょっと今は思考がまとまらないかも。



「これが、ここに至るまでの経緯の全てです。…改めてお願いします、御門伊織さん。貴女の魔力を、私の研究の為に欲しいのです。もちろん御門さんの無理のない範囲で構いませんので」



そういって葉山先輩が深く頭を下げる。



「私に出来る事なら、その、お手伝いしたいとは…」



「もちろんお礼はしますよ」



葉山先輩が台座の上のロボットに視線を移す。



「もしも魔導ロボットが完成したら、その魔導ロボットは御門さんに差し上げます」




「ええぇぇ!?」



驚いた。



そこまでして研究して作り上げたものをどうして!?



「創ったものは使ってこそ価値があります。…それに魔石は定期的に魔力を補充しなければいけません。つまり、この魔導ロボットはおそらく世界で御門さんにしか使えないのですよ」



いや、そうだとしても!別に魔力くらいならいつでも補充してあげるしね?



「定期的なメンテナンスや修理に、良ければ改造などは私に任せて欲しいのですが、あくまで御門さんのものとして扱ってくれて構いません。どうですか?」



「も、もしも断ったら?」



「現状、魔導ロボットを動かす手段を無くすことになりますね。もちろん、別の手段でも諦めませんが」



先輩の瞳には強い決意と覚悟が見て取れる。



きっとこの人は私の魔力が無くても、いつか必ず自分の夢を叶えるんだろうな。



…だけど。



「…わかりました、葉山先輩。私の魔力で良ければ先輩の為に使ってください」



「本当に!?良いんですか!?」



先輩の瞳が、輝き揺れる。



「私の魔力が、先輩の夢の為になるなら、嬉しいなって思って」



「ーっ!嬉しいですっ!ありがとう御門さん!やった、やったわ!はやく完成させなきゃ!」



私の手を再び握り小さくジャンプする先輩。



先輩の無邪気な笑顔を見ていると、私まで嬉しくなってくる。



「そうなると思ったにゃ」




「お人好しだからねー伊織はー♪まぁそんなところがアレなんだけどねー♪」




「まぁ最初からわかってたけどな。無理だけはすんなよ」



成り行きを見守っていた三人がやれやれとため息を吐く。



仕方ないじゃない、夢に向かって…ちょっと犯罪ギリの情熱を持ってる先輩を見たら、応援しないわけにいかないよ。



…それに。



「…先輩、実は私、黙ってた事がありまして」



「…?なんでしょう?」



私の手を握って小躍りしていた先輩がピタリと動きを止めて私の顔を覗き込む。



「その、実は私、ロボットアニメとか大好きなんですよっ!魔導戦士マンダムとかマドーガーZとかっ!」



「ッ!!…OVAのマドーカイザーは見ましたかっ!?」



瞳の色を違う種類のものに変えてさらに力強く握る葉山先輩。



それはそう、同志を見つけた喜びの眼差し。




「…いい雰囲気台無しじゃね?」



「…普通にロボット欲しかったにゃ?」



「…そういえばたまに部屋にこもってなんか見てたな」



このタイミングのロボット好きカミングアウトは決して卑怯では無いはずだ、うん。

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