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38子供の頃からの夢

10分程、お茶を頂きながら自己紹介の延長で雑談を交わす。



「…さて、ではそろそろ私の研究について見て頂きたいのですが、大丈夫ですか?」



「私達が見ちゃっても良いんですか?」



なんとなく研究とかって秘密にしてないとダメなイメージがあるよね。



「かまいませんよ。百聞は一見にしかずと言いますし、見て貰った方が説明が早いので」



葉山先輩は特に意に介さず淡々と続ける。



「それでは行きましょう。ついてきてください」



そういって葉山先輩が、姫ちゃんとステラちゃんと円華ちゃんも立ち上がる。



私も立ち上がろうとしたその時、スマホがポケットから落ちてソファーの隙間に滑り込む。



「あ、御免なさい、ケータイが、…あれ?何か引っかかって?」



ソファーの座る部分と背もたれの間、スマホが何かに引っかかって下に落ちずにすんでるみたい。



なんだろ?この黒くて柔い…布…かな?



指でつまみ、スマホと一緒に持ち上げる。



…黒のブラジャーでした。




「「「………」」」




「……御免なさい」



友人三人のなんとも言えない表情の無言に思わず謝ってしまった。



肝心の葉山先輩は目を丸くし、自分の胸元に手を突っ込んで何か確かめている。



先輩、何してるんですか?あとこのブラジャー、どうしたらいいでしょうか?



「うん、大丈夫。今日のは着けてる」



葉山先輩がそう言って頷き、つかつかと私の元に歩いてくる。



「すみません。こないだ脱いだやつみたいです。この研究室はお風呂もあるので、たまに着替えたりするのですよ」



そういって手を出す先輩にブラジャーを渡す。



「あ、そうだったんですね。すみませんこれ、はい」



「こちらこそすみません。人の肌着を触らせてしまって」



無表情に見えるが、少し申し訳なさそうに目を細める葉山先輩。



「いえ、気にしてませんし。それに、可愛いデザインのブラですね」



フォローのつもりでにっこり笑顔。



「…どうもありがとうございます。少しお待ちください。直してきます」



一瞬だけ目を見開いて私を見たかと思うとそのままブラを持って歩いて部屋を出て行ってしまった。



「…伊織のスケベー」



「なんでよっ!?めっちゃ事故じゃん!」



姫ちゃんがジト目で訴えかけてくる。



「伊織はああいうデザインが好きなのかにゃ?」



「うーん、ちょっと私には大人っぽ過ぎるかな?似合わないかも」



「…去年一緒に買いに行った時、似たようなやつ買って無かったか?あれの方が大人っぽかった様な…」



「ちょ、ちょっと円華ちゃん!…背伸びしたいときもあるよねっ」



「「…ごくり」」



「誰ですか?ドン引きで唾を飲み込んだのは!?」



姫ちゃんとステラちゃんが少し顔を赤くして私の胸元を見てる。



「じゃああれはもう着けてないのか?せっかく私もお揃いのやつ買ったのに」



え?あの時円華ちゃん何も買って無かった様な?



後で買いに行ったのかな?



円華ちゃんが口をゴニョゴニョとして項垂れる。



「違うの。あれからその、胸が大きくなったみたいで。もう着けられなくなっちゃったの、あれ」



そういって自分の胸を押さえる。




決して太った訳ではない、成長なのだっ。



「そうなのか。じゃあまた今度一緒に買いに行こうぜ」



そういって円華ちゃんが笑う。



「そうだね。もう高校生だし、大人っぽいの買おっか」



そういって少しいたずらっぽく笑う。



「お、大人っぽいって…伊織は普通のでいいよ。エッチな目で見られるかもしれないだろ?」



「エッチな目って、大丈夫だよ普段は服を着てるんだから」



幼馴染みの心配性には苦笑してしまう。



「その時、私も誘ってよねー。絶対行くからー♪」



「私も行くのにゃ。伊織の好みを知りたいのにゃ」



「もちろんいいよ。みんなで行こうね」



「…私は二人がいいのに」



「ん?何か言った?円華ちゃん」



「なんも。みんなで空いてる日を合わせようぜ」



円華ちゃんが何か小さい声で言ったようだけど聞き取れなかった。



「すみません、お待たせしました。改めてこちらへどうぞ」



戻ってきた葉山先輩がそう言って指差すのはリビングのすぐ隣の扉。



そこを開けると中はなんとエレベーターになっていた。



「ここから地下室に行きます。私の研究はそこに」



促されて全員で乗り込む。



葉山先輩が一つしかないボタンを押すと、僅かな浮遊感を覚え、エレベーターが下降していく。



「なんかドキドキするね」



非日常なシーンに思わずテンションが上がってしまう。



「まぁ、普段なら絶対来ることないもんねー。ある意味伊織に感謝かもっ♪」



姫ちゃんもいつものにんまりスマイルだ。



「個人で使っている研究室とは思えないのにゃ」



「葉山先輩ってのは余程優秀なんだな」



ステラちゃんと円華ちゃんの声からも少し上擦った雰囲気を感じる。



やっぱりみんなドキドキするよね。



そしてチンッという共通の音がしてエレベーターが停止する。



どうやら着いたみたいだね。



そして自動ドアがゆっくり開いていき、地下室の全貌が見えていく。



「…すっごっ」



その規模と迫力に姫ちゃんから思わず感嘆の声が溢れる。



部屋の広さは一体どれくらいだろう?



上の部屋の数倍はあるのは間違いない。



なによりも圧巻なのはその部屋を埋め尽くす様に存在している研究機材、そしてゴーレムと思わしき物体。




「本当にここを一人で?」



思わず疑問が口から溢れる。



「人間は一人ですよ。でも助手は何体か居ますので」



そう言うと周囲に待機していたゴーレムの数体の目に光が宿る。



実技講習で見るような大きくてごついのじゃなくて、大きさ1メートルくらいの可愛らしいフォルムだ。



腕や指は人間のより細くて繊細なイメージ。



それが私達の方を見ると一斉にお辞儀をする。



「あ、どうもご丁寧に」



思わずペコリと頭を下げてしまう。



「戦闘用ではなく研究助手用のゴーレムです。細かい作業や繊細な動きに特化しています」




そう言って葉山先輩は部屋の中央へ歩いていく。



いくつもの機材や部品の横を通り過ぎると少しだけひらけた空間が。



鉄で出来た様な台座の上には何かが横たわっている。



あれはゴーレム?にしては部品などがとても細かく複雑で、大きさも私達人間と同じくらいかな?



腕や脚、胴体に頭の様なものも見て取れる。



…これは、まるで。



「これが私のゴーレム研究の先…」

「アンドロイドだっけ?ロボットみたい」



あ、先輩ともろ被っちゃったっ!



「解りますかっ!?」



「ふぇぇ!?」



いきなり目を輝かせた葉山先輩に手をがっしりと掴まれる。



ずっと無表情だった先輩が、今は目を輝かせてまるで子供の様に私の顔を覗き込む。



「そうです、ロボットですっ。正確には魔導ロボット、と呼ぶべきでしょうか?」



少し興奮しているのか、息遣いも荒く、顔をぐっと寄せてくる。



か、顔が近いよぉ。



「でも魔導ゴーレムの技術が発展していく一方で、魔力を使ったロボットの研究はもうほとんどされてないと聞きますよ?」



博識な円華ちゃんの言葉通り、確かに魔力を使ったロボットなんてのは聞いたことがない。



「そうだにゃ。魔導ゴーレムはロボットの上位互換だというのは授業でも習うのにゃ」




「それは大きな間違いですっ!!!」



「にゃあああ!?!?」



突然の葉山先輩の大声にステラちゃんが悲鳴を上げる。



あと私もちょっと心拍数が上がってる。



「魔力をエネルギーにしたロボットというのは世の中ではほぼ不可能と言われています。ゴーレムの比ではない複雑な魔導回路に制御パーツ、それらに耐えうる素材、複雑な命令を可能にする電子パーツの魔導化、そしてそれを動かす膨大な魔力、これらの障害とあまりにも莫大なコストが、ロボットの魔導化を不可能と言わしめ、少ない魔力でも稼働し、ゴーレムマスターさえ居れば動かせる魔導ゴーレムが繁栄したという背景も確かにあります」



葉山先輩がものすごく早口で捲し立てる。



正直何を言ってるか半分以上謎だけど、要はゴーレムは簡単でロボットは難しい、ってことだねっ。



「じゃあ別にゴーレムで良いんじゃないっすかねー?お手軽簡単な方が便利じゃないですかー?」



姫ちゃんもすこし目を回しながらそう言う。



必死についてきているといった感じ。



「一般の人なら、そうでしょう。ですが私は科学者です。不可能と言われる技術を自らの知識で完成させる、これこそが探求者としての姿です。…それに」



葉山先輩が一度言葉を区切り、より一層瞳に熱を込めて断言する。



「自分でロボットを開発するのが子供の頃からの夢だったので」



あ、本音が可愛い。


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