37天才の研究
一度下駄箱で靴を履き替え、中庭を横切って歩く。
そして一番奥、一年と二年の校舎を繋ぐ渡り廊下の先に、目的の建物がある。
真新しいその建物は清潔感のある白を基調として、大きさは外から見ただけでも私たちの教室より大きい。
ここが第四魔導科学研究室らしい。
「着いたよー。まぁ私も場所知ってるだけで中に入った事ないんだけどねー」
先頭を歩いていた姫ちゃんが建物を見上げながら声をあげる。
「こんな場所にあるんだね。案内してくれてありがと」
正直、第四ってくらいだからもうちょっと学校の敷地の端にあるのかと思ったけど、割と近くで良かった。
「私も名前くらいは聞いたことあるにゃ。確か去年新しく建ったばかりなのにゃ」
ステラちゃんがうんうん、と頷く。
「そうなんだ。道理で凄く綺麗な訳だね」
この学校は創立は結構古い割に新しい施設が多い。
どうやら学校の方針でそういった増改築には積極的らしい。
割と柔軟な考えみたいだね。
「それにしてもわざわざ校内放送で呼び出すような用事ってなんだろ?」
「ここの担当の先生とかじゃねえの?部活みたいに、こういう研究室みたいな場所には顧問の先生がいるんだろ?」
円華ちゃんの言う通り、校内にある研究室や部活、訓練所などはそれぞれ学校の先生か、外部からの講師が担当しているらしい。
と言う事は私を呼び出したのはこの第四魔導科学研究室の顧問の先生になるね。
「うーん、顧問の先生かぁー。居るのかなぁー?」
「ん?どういう意味?」
姫ちゃんは首を傾げ、歯切れ悪く言葉を繋ぐ。
「いやー、私も噂程度しかしらないし、なんにせよあんまし待たせんのも悪いしとりま中入っちゃおーぜ♪」
「それはそうと、私達は呼ばれてないけど入っていいのかにゃ?」
「別にいいだろ?これくらいの建物なら中で待つ場所くらいあるだろうし」
確かに呼ばれたのは私だけど、外で待って貰うのは申し訳ない。
「どれくらい時間かかるかわかんないし、先に帰ってくれても大丈夫だよ?帰りの道も分かるし」
そういって親指をグッと立ててみせる。
「いやそれはないわー。遅くなりそうなら余計に待つしっ」
「姫の言う通りにゃ。むしろ伊織が入って十分経っても出て来なかったら、こっちから突撃するにゃ!」
「つーか一緒に入れないならもう帰っちゃおうぜ?なんか適当に置き手紙とか書いといてだな…」
…言いたい放題だ!
どうして呼ばれた私じゃなくてみんなの方がアグレッシブなんだろう?
「突撃されても帰られても困ります。一方的に呼び出したのは申し訳ないと思ってこうやって出て来ましたので、そのへんにして貰えますか?」
うんうん、こうやって先輩が丁寧に迎えてくれてるんだから、ちゃんとまずは挨拶を…うん?
知らない誰かの声で振り向く。
すると研究室の自動ドアが開いていて、中から女の子が歩いてくる。
身長140センチくらいかな?髪は金髪で、腰のあたりまで伸びている。
お人形さんみたいに整った顔立ちで、瞳の色は青色、明らかに外国人か、ハーフみたい。
学校規定の制服の上から明らかにサイズの大きい白衣を着込んでいる。
「はじめまして。二年A組、葉山深美です。御門伊織さん、今日は急な呼び出しですみません。それとお連れの夜咲姫さん、ミーア・ナーオ・ステラさん、桐谷円華さんも、ようこそ」
そう言って葉山先輩が自己紹介をしてくれる。
「あ、どうも、御門伊織です。すみません場所が分からなくて友達も一緒に来てくれたんです」
「先輩こんちゃーっす!」
「はじめましてにゃ」
「…なんで今日転入してきた私の名前を?」
三者三様の反応。
確かに姫ちゃんとステラちゃんはちょっとした有名人らしいけど、どうして円華ちゃんのことまで知ってるんだろ?
「まぁ、立ち話もなんですし、中に入ってはどうですか?もちろん友人の皆さんも。あまり時間はとらせませんので」
葉山先輩が丁寧に促してくれる。
言葉は丁寧だけど、事務的で少し冷たい印象を受けるかな。
「それじゃあ少し、失礼します」
まぁ時間はとらせませんと言ってくれてるし、このままドアの前でこの人数での立ち話もつらいのでお邪魔することに。
振り返り、研究室に入っていく先輩を追いかける。
「少し変わった先輩さんだにゃ」
ステラちゃんが小声でささやく。
「そっかなー?なんか科学者って感じじゃん。それに華奢でお人形さんみたいで可愛いーし♪」
「姫は惚れっぽいな。可愛い女の子なら誰でも良いのか?」
「惚れてねーしっ!あーしは一途だからねっ!身も心も全部捧げてるんだからっ」
「えぇ!?姫ちゃん好きな人居るのっ!?私の知ってる人?」
うそ!?初耳なんだけど!?
「伊織にはぜーったい教えないからっ!このにぶちんっ!」
「に、にぶちん?にぶちんて何なの?ねぇってばっ!」
姫ちゃんは顔を真っ赤にさせてそっぽをむいちゃった。
「…まぁライバルだし同情はしないにゃ」
「…まぁライバルだから応援はするけど負けないから」
ステラちゃんと円華ちゃんはなんとも言えない表情でしたり顔で頷いている。
もしかして姫ちゃんの好きな人に心当たりあるのかも!?
…後でこっそり聞いてみよう。
そんな事を思いながら四人で歩き、自動ドアを過ぎる。
玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替えて進むと中は大きなリビングになっていた。
テレビ、冷蔵庫、キッチン。
大きなL字型のソファーには大きなブランケットが置いてあって、誰かが寝てたような痕跡がある。
あれ?研究室は?
「すみません、ここは居住可能スペースで、すぐ片付けますね」
そう言って葉山先輩がブランケットをすぽーんっと放り投げる。
片付けって何でしょうね?
そしてソファーの表面を手でささっと払う。
どうやら座ってくれという意味らしい。
せっかくなのでL字型ソファーの端に座る。
程よい弾力でお尻が沈む。
ふわりと、良い匂いが鼻をくすぐる。
…シャンプーなのか、柔軟剤なのか、普段誰かが寝てるからかな?
「お茶です。どうぞ」
「あ、どうもありがとうございます」
気付くと葉山先輩がトレイにお茶を乗せて運び、目の前のテーブルに置いてくれていた。
ふとキッチンを見ると『わーいお茶』の2リットルペットボトルが空けられている。
別に沸かしたわけじゃないみたい。
そして葉山先輩が『人をダメっぽくするソファー』の名前で大ヒットした一人用ソファーをずるずるーと引っ張ってきて私達とテーブルを挟んで座る。
…本人にその気はないんだろうけど、小柄な先輩がソファーに埋もれるように座った結果、物凄く尊大に踏ん反り返った様な姿勢になっている。
なんとなく香奈お姉ちゃんと乗った黒塗りの高級車のソファーを思い出す。
私もこんな感じだったのかな?少し恥ずかしい。
「すみません、大勢で押しかけて。他の人の迷惑になりませんか?」
「あぁ、ご心配無く。ここには私しか居ませんので」
え?今日は先輩しか居ないのかな?
「やっぱり噂は本当だったんですねー。第四魔導科学研究室はとある天才生徒一人のために作られた、葉山先輩だけの研究室だってー」
姫ちゃんが頷き呟く。
「じゃあこの部屋全部、葉山先輩が一人で使ってるって事ですか!?」
「まぁそういう学校側との約束でしたので、甘えさせて貰ってますね」
かなり凄い事だと思うけど、葉山先輩は当たり前のことの様に淡々と話す。
という事はここで普段生活してるのは先輩一人なのかな?
「さてと、改めて今日は来てくれてありがとうございます。遠回しなのは嫌いなので、単刀直入に話させて貰いますね」
葉山先輩が踏ん反り返ったまま、少し背筋を正す。
「御門伊織さん、貴女のその強大な魔力を私の研究に使わせて貰えませんか?もちろんお礼はします」
「えーと、私の魔力、ですか?」
葉山先輩が私の目を真っ直ぐ見て頷く。
「葉山先輩ってー、確か魔導ゴーレムの専門じゃ無かったですかー?」
「まぁそう知られているでしょう。事実、ゴーレムの研究はしてますからね」
姫ちゃんの言葉に、少し含みのある言葉を返す葉山先輩。
「でも私の研究はゴーレム研究のその先にあります。そのためには御門さん、貴女の力が必要なんです。是非お願いします」
「…研究内容にもよりますね。危ない事はもちろん、伊織にとっても負担になる様な事なら、幼馴染みとして反対させてもらいますんで」
「私もにゃ!伊織はお人好しだから断れないかもしれないにゃ。だから私達もその話を聞いて判断したいにゃ」
「あーしもです先輩。私も伊織に魔力貰ってるんでえらそーなこと言えないんすけど、友達として伊織と一緒に考えても良いですかー?」
三人とも私の事を考えて真摯に先輩と向き合ってくれている。
本当に友達思いのいい友人に囲まれてるね。
「勿論ですよ。それに御門さんにとっても利点のある話のはずです。…それにしても御門さんはモテモテですね。美女三人に囲まれて」
「そうですね。私には勿体無いような友達で、みんな大好きなんです」
「…ふーん、友達、ですか」
そういって葉山先輩は姫ちゃんとステラちゃんと円華ちゃんを順に見ていく。
何故か三人は少し視線を逸らして別々の所を見ている。
何か見透かされたくないみたいな仕草に見えるね。
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