35久しぶり二人
「いい天気だね姫ちゃん。でももう少ししたら暑くなりそう」
「うーん、確かに夏場は屋上でご飯とか死んじゃうかもねー。ここの食堂はエアコン付いてるから、そうなったらそっちで食べよー」
四限目が終わり、お昼休憩中。
今日は姫ちゃんと屋上にいる。
屋上は校舎毎にいくつかあり、ここは主に一年生向けに開放された場所だ。
簡素なフェンスだが、落下防止用に内から外に対しての魔法防壁が張られている。
さすがは魔導学校だね。
ここには居ない円華ちゃんだが、入学の手続きとかがあるっていって職員室に呼ばれて行った。
私は香奈お姉ちゃんに書類とか色々書いて貰ったりしたけど、円華ちゃんは自分で書いたり提出する必要があるみたい。
一緒に食べたかったっ!…って言いながら不貞腐れて、ポケットに手を突っ込んで大股で歩いて行った。
喧嘩でもしに行くみたい。
そしてステラちゃんも、今日は四、五限目と連続で、少し遠い第五演習場で実技講習があるみたいで、校舎まで戻ってくる時間がないみたい。
一緒のクラスが良かったにゃ!…ってLINEが来た。
今日はクラスの友達と演習場近くの施設で食べるらしい。
というわけで今日は久しぶりに姫ちゃんと二人きりでお昼なのだ。
「今日は二人っきりだねー!ステラと会ってからずっと三人だったから久しぶりじゃん♪」
「そうだね。みんなで賑やかなのも好きだけど、たまには二人もいいね」
「…い、伊織もそう思うー?」
「ん?今なんて?」
「なんでもないしー♪早く食べよー?」
心なしか、いつもより上機嫌な姫ちゃんに促される。
「そうだね、お腹空いたし食べよっか」
「「いただきまーす」」
二人で合唱して、保冷バックを開ける。
今日は色々残っていた具材を使ってサンドイッチを作ってきた。
卵サンドと、ハムチーズに、昨日の晩ご飯をアレンジした照り焼きチキンだ。
姫ちゃんはコンビニ袋からご飯を取り出す。
牛カルビ丼と焼き豚チャーハンとおにぎり2つ。
…その細い身体の何処に入るんだろうか?
「…姫ちゃんてさ?そんだけ食べても太らないの?」
「ふぐっ!…いきなりストレートな質問だねっ」
スプーンで牛カルビ丼を頬張っていた姫ちゃんが少しむせる。
「暴食王の権能のおまけでさー?食べたものを最効率で吸収して、余剰分を魔力に変換するってゆーのがあるわけ。だから食べ続けている限り、私の体型が変わることは無いかなー?」
な、なんと!全女子の理想のようなおまけが!?
「まぁ基本的に魔力の消費が激しいスキルだから、いくら食べても吸収して消費しちゃうんだけどねー。だから伊織の魔力を貰って魔力消費量を上回っているのが前提ってわけ」
「そうだったね。今は魔力足りてる?」
「もちっ!最近の伊織の魔力は更に高密度だから、軽く一週間は持つんじゃないー?」
そう言って姫ちゃんはピースを作り、いつも通りにひひっと笑う。
改めて、姫ちゃんのスキルのデメリットを考えると、それくらいのおまけじゃ釣り合わない気がするけど。
…まぁでも太る心配が無いのを羨ましいと思う気持ちには変わりない。
姫ちゃんは同性から見ても羨ましいプロポーションだしね。
程よくむっちりした太ももと二の腕にも関わらず驚くほど手首と足首が細い。
ウエストも細く、思わず触りたいようなくびれを作っている。
肌も綺麗だし、見ていると吸い込まれそう。
…でもやっぱり気になるのは外された首元のボタンの奥からチラリと見える谷間。
「やっぱり姫ちゃんの……大きくて綺麗で羨ましいなぁ」
「へぇっ!?い、伊織!?何言ってるのっ!?」
あ、やばい声に出てた。
「あ、ごめんね、つい!」
姫ちゃんが食後に飲んでいたペットボトルのお茶を落としそうになっている。
あ、あれ?どうでもいいけどもう食べ終わってる?
「ホントだしっ!急過ぎて変な声でたじゃんっ!…ふぅ、顔めっちゃ熱っ」
そういって姫ちゃんが左の髪を耳にかけて顔を両手でぱたぱた仰ぐ。
少し赤らんだ耳元から銀色の髪がさらりと零れる。
私とお揃いにしたいと言って、左側の内側だけ染めた銀髪。
それを見るとむずがゆいような温かいような、不思議な感覚が胸に宿るのを感じ、思わず手で触れる。
「…あーしはステラとは違うからねー?流石に伊織でも触らせてあげられないからー」
私が自分の胸に置いた手を見て、姫ちゃんが少し気まずそうにそう言う。
変な誤解されちゃったみたい。
…でもダメと言われると触りたくなるのが乙女心なのだ。
「…少しだけでも?」
「ほ、ホントに言ってんのー!?そういうのはもっとムードが大事だしっ!出来ればこんなとこじゃなくてどっちかの部屋とか…って違うからねっ!そういう意味じゃ!」
表情をクルクルと入れ替えて両手を振り回す姫ちゃん。
相当テンパってる。
よし、もう一押しかも?
一年生は食堂をよく使うのか、この屋上は結構穴場なのだ。
周囲には私達以外の生徒の姿は見えない。
…うん、よーしっ。
「じゃ、じゃあ私の…触っていいから、そのかわりに少し触っちゃダメ?」
「ふぇぇぇえ!?」
「ちょ、ちょっと声がおっきいよ姫ちゃんっ!」
姫ちゃんが顔を真っ赤にしてあげた奇声に思わずビクッとなる。
「い、伊織っ!そんな簡単に人に触らせたりしちゃダメだしっ!」
「誰にでも触ってなんて言わないよっ?姫ちゃんだから、触りたいし、触られても良いって思うの」
「あ、頭へんになるっ!やばい今日死んじゃうかも!?」
姫ちゃんがついに顔を抑えてうずくまる。
…
……
………
その様子を見ていると少し冷静になってきた。
…うん、私かなり変なこと言ってるね。
「あ、あの…」
「す、少しだけならっ。お、女の子同士だしねっ!別にこれくらい普通じゃんっ。ね?」
変なこと言ってごめんね?私も恥ずかしくなってきたし辞めよ!
…という言葉を言おうとして、しかし姫ちゃんに遮られた。
あ、あれ?いいの?
見ると姫ちゃんは覚悟を決めた様な顔で自分に言い聞かせる様に頷いている。
顔は真っ赤だが、強い意志を感じる。
ひ、引くに引けない状況になっちゃった。
なんと驚くことに全て私の責任です、はい。
今更やっぱり恥ずかしいからやめよ?とか言えない雰囲気に、私も覚悟を決めるしかない。
「そ、それじゃあ先にどうぞ。…あ、触るのは服の上からだからね?」
「っ!?あ、あ、当たり前じゃん!?へへ、変なこと言わないでよねっ!もうっ!」
姫ちゃんがすーはー、と胸に手を当てて何度か深呼吸をする。
たっぷり10秒くらいかけて呼吸を整えて、よし!と小さく息を吐く。
「じゃ、じゃあいくよー?」
「い、いいよ」
姫ちゃんが恐る恐る、ゆっくりと両手を伸ばす。
りょ、両手ですか!
そぉっと近づき、両手のひらが届く。
軽く押さえるように、添えられるように触れられたかと思うと、むにぃと押し上げられる。
「んんっ」
驚いて思わず変な声が出る。
「あ!?だ、大丈夫!?」
「ごめん、ちょっと驚いただけだよ。…続けて?」
ごくり、と姫ちゃんが喉を鳴らした気がする。
恐る恐る、右に左にと触れられた後に、最後に控えめにむにゅ、と揉まれて手が離れていく。
「…どう?姫ちゃんより小さいでしょ?」
「お、大きさとかわかんないしっ。…柔らかくて弾力もあって、よ、良かったですっ」
「あ、ありがとうございます」
何故か敬語になる二人。
顔が熱い。
女子同士のじゃれあいだと言い聞かせるけど、一度早くなった鼓動は中々元に戻ってくれない。
息を整えなきゃ!
さて、次は私の番…
キンコーン…
…っと意気込んだ所で授業開始の五分前の予鈴がなる。
「あ!もうそんな時間!?」
「ほ、ほんとだねー!ごめんだけど伊織、私の、その触るのは、ま、また今度ねー?」
「うん、仕方ないね。教室に戻ろっか」
そういって保冷バックを持って立ち上がる。
ちょっと変な感じになっちゃいそうだし、丁度良かったかも。
そう思いながら、少し勿体ないなって気もするなぁ。
空いた手のひらを閉じたり開いたりして、教室までの道を歩くことにする。
ーーー
やばやばやばやばーーー!!!
はっずっ!!!顔絶対真っ赤だしー!!
え!?…え!?…えぇ!?
さっき何してたっ!?うそ!?
ホント伊織って急に変なノリでとんでもないことするよねっ!
いや、したのは私だけどもっ!いやいや!私から言ったわけじゃないからっ!伊織の了承取ってるから!
あれ?了承したのは私だっけ!?
へっ!?あれ!?
あのままチャイム鳴らなかったら…
いやいやむりむりむりむり死んじゃうってー!!
てゆーか教室まで遠っ!ちょっと今は伊織の顔見らんないってマジむりー!!
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