34優しく触れて
「伊織ー!なんだか上機嫌にゃ。何かあったかにゃ?」
実技講習も終わり、教室で休憩しているとステラちゃんがやってきた。
この子、ほとんど私達と一緒に居るけど、同じクラスの友達とかほっといて良いのかなぁ?
「あのね、ステラちゃん。実は…」
そして私は魔法を初めて使った経緯を話した。
あと、ついでに変なゴーレムにちょっかい出しちゃった事も。
「なるほどにゃ!そんな方法が!確かに伊織のリヴィールの精度は完璧だったし、試す価値はあったにゃ」
ステラちゃんが私の手をとって小さく万歳をして喜んでくれる。
…うん、可愛い。
「ほんとーに、円華マジでナイスアイディアだよねー!ふつー思いつかないしっ」
姫ちゃんがイチゴミルクをストローで飲みながら話している。
ちょっとお行儀悪いよー?
「思いつきだけど、成功して良かったな。…なんか普通のファイアじゃないけど、魔法は魔法だしな」
円華ちゃんがピアスを指でいじりながら話している。
円華ちゃんが言うには、ピアスが付いてると触るのがクセになるらしい。
「…それにしても」
気がつくと、ステラちゃんも同じく、円華ちゃんの耳を凝視していた。
「…円華のピアスは凄いのにゃ」
あ、ステラちゃんも同じ様なこと考えてたっぽい。
「あぁ、なんか気に入ったピアス見つけるたびに開けてたら、いつの間にかって感じだな」
「いくつ開いてるのー?」
「右が四つで左が六つだな」
「すごー!ちょっと見せてー!」
姫ちゃんがテンション高めに円華ちゃんの耳元を見る。
「円華ってオシャレだよねー。こんだけ付けててもちゃんと纏まってるしさー!」
「まぁあんまし派手な奴は付けてないからな。そう言ってくれると嬉しいよ」
ピアスのついた耳がほんのりと赤くなっている。
ははーん、さては照れてるな?
「…よく見ると、ほぼ全部シルバーじゃない?」
姫ちゃんに指摘された円華ちゃんが少し肩を震わせる。
「あ、あぁ。シルバーアクセ好きなんだよ。私みたいな女らしくない奴でも似合うの多いしな」
「…よく見ると全部使ってる宝石は緑色じゃん?何かこだわりとかー?」
「ひぅっ」
もう一度円華ちゃんの肩が震えたかと余ったら聞いたことない悲鳴が漏れた。
可愛いけど、カエルっぽいって思ったのは内緒だね。
「す、鋭いな、じゃなかった。たまたまだよ。デザインで選んでるからな!今日つけて無いやつとかで違う色もあるからなっ」
円華ちゃんが少し目を逸らして姫ちゃんに答える。
「ちっ、見た目ヤンキーなのに気付かれないよーなところでめちゃ乙女じゃん!可愛すぎかよっ」
「褒めるんなら舌打ちやめろよなっ!てゆーか褒めて無いだろっ?」
時々姫ちゃんと円華ちゃんは二人だけの世界に行っちゃう時がある。
今度行くときは誘って欲しいもんだね。
「ピアスかにゃー。ちょっと私は怖いかにゃー」
ステラちゃんが自分の猫耳をふにふにと触っている。
私達の耳の付いてる場所よりは少し上に付いている耳は、今はピンとたっていた。
「私達の耳より大きいもんね」
「そうなのにゃ。それに私達は人間より聴力が優れているのにゃ」
「耳が良すぎて不便することとかって無い?」
「私達獣人は動物の能力を持ってるけど、産まれた時からそれを魔力で制御出来るのにゃ。だから普段は人間より少し聴力がいい、くらいにゃ」
「そうなんだ。と言う事は魔力なしで元々耳はいいんだね」
普段はそれを制御して人間と同じくらいの感度にしているということかな。
「そ、そうなのにゃ。元々耳がいいから、それが問題なのにゃ」
そういってステラちゃんが少し恥ずかしそうに俯く。
どうしたんだろ?
「耳がいいと言う事は空気の振動を感知する能力が高いということにゃ。感知する力が強いというのは、そ、その…あの…び、敏感ということなのにゃ」
なるほど。
つまりちょっとの刺激でもくすぐったいということか。
それじゃあピアスなんて無理だよね。
「うぅ。は、恥ずかしいにゃ」
「あ、ごめんね?無理に聞いちゃったみたいで」
「大丈夫にゃ。それでも伊織には知っておいて欲しかったにゃ」
そう言ってステラちゃんが照れ隠しに笑う。
「ちょ、ちょっとだけなら触ってみるかにゃ?」
「えぇ?いいの?くすぐったいんじゃ?」
「…い、伊織がいつも私の耳をよく見てるから、もしかしたら触りたいのかなって。だから話しておかないとって思ったにゃ。か、勘違いならいいのにゃ!気にしないで欲しいのにゃ!」
そういって照れ隠しに早口に捲し立てるステラちゃん。
「ううん、ありがとう。じゃあちょっとだけ触らせて欲しいな」
せっかく友達が勇気を出してくれたのに、ここで触らないなんて事は逆に失礼だよね。
「い、今かにゃ!?…わ、わかったにゃ」
…ていうか私、そんなに触りたそうな視線を送ってたのか。
しかもバレバレという、一歩間違えばセクハラだね。
少し反省しつつ、ステラちゃんの耳を見る。
薄い茶色い毛に覆われた耳は、真っ赤になった地肌が見えていて、恥ずかしいのが伝わる。
「じゃあ触るよ?」
「いつでもこいにゃ!」
目をきゅっと閉じて武士みたいな事を言うステラちゃん。
そぉっと右手を伸ばす。
まだ触れていないのに、私の手が耳に近付くにつれピクピクと動く。
そしてゆっくりと私の指が、ステラちゃんの左耳の先端に届く。
「…ふにゅっ!」
声を上げかけて、ステラちゃんが自分の口を手で押さえる。
あんまり長く触ってちゃダメだね。
先端から上の部分を指の腹でなぞる。
敏感みたいだから、力を込めず、優しくゆっくりと。
ステラちゃんの肩がビクビクと震える。
つ、強いかな?もう少しゆっくりと!
人間で言うと、耳の裏?になるのかな?ゆっくり触っていき、耳の生え際に到着。
ステラちゃんの髪にも触れる。
そして耳の生え際をむに、と指で摘む。
「んむぅっ!」
あ、あれ?ステラちゃんがくすぐったそうに身をよじる。
ここは特にくすぐったいのかな?
「い、伊織ー?い、いつまでイチャついてるのかなー?」
「ちょっと姫と話している隙にな、なんでそんな事になってるんだ!?」
気付くと姫ちゃんと円華ちゃんが私達を囲う様にして立ち、外を向き睨み付けている。
「二人とも?何してるの?」
「いやいやー!こんなの他の人に見せらんないってばー!そろそろ目立ってる自覚して貰わないとー!」
「もう十分触っただろ?その辺にしたらどうだ!?」
へ?、そ、そんなに変かな?確かにステラちゃんは目をかたく瞑って片手で口を押さえて、片手で机を掴み、踏ん張る様にして立っている。
顔は赤く、膝はガクガクと震えて少し内股になっており…
…あ、なんかエロい事になってるかも。
意識しだすと急に恥ずかしくなり、ぱっと手を離す。
「…ふーっ、ふーっ」
だけどステラちゃんは目を瞑って力を入れているせいか、全く気づかない。
なので仕方なく、ステラちゃんの耳に口を近づける。
「終わったよ?ステラちゃん」
控えめに、小さな声でささやく。
「ーーーーっ!?」
目を見開いて必死に声を押し殺したステラちゃんが、一際大きくピクンと跳ねて、膝を崩してその場にへたり込んでしまう。
…なにゆえ?
「だっ!大丈夫!?ステラちゃん!?」
「…はぁ、はぁ、大丈夫なのにゃ。…まさかそんな触り方をするとは思わなかったにゃ…」
「えぇ!?目一杯優しく触ったつもりだよ!?」
事前に言われていたんだから、尚更だし。
「や、優しすぎにゃ!優しすきで、その、変になってしまう…なんでもないにゃ!もう忘れるにゃ!」
回復したステラちゃんが頭を振りながら立ち上がる。
や、やってしまった。
「ごめんね、ステラちゃん。もう触らないから許して?」
「………」
「ん?ステラちゃん?」
「そ、その、今度は静かで、二人っきりの時なら、また触らしてやってもいいにゃ!そのかわり、次も優しくするにゃ」
「え?それって…」
言いかける前に二人がステラちゃんの両隣に立ち、肩をがっしりと掴む。
そう、姫ちゃんと円華ちゃんだ。
「ステラちゃんてば構ってちゃんだねー♪そんなに触って欲しいなら私らがいるよー?」
「そうだ。遠慮するなよ。伊織程じゃないが優しく触らして貰おうか」
「間に合ってるんで、お断りだにゃ」
しれっと応えたかと思ったら二人の間からするりと抜け出す。
「じゃあそろそろ授業が始まるから戻るにゃ。伊織、また今度魔法を見せてにゃ」
そういって手を振って歩いていく。
その姿は元の天真爛漫なステラちゃんそのものだ。
「…強敵だなー。さすがは勇者見習いじゃんー」
「油断も隙もないな。…私だってあんなに優しく耳を触って貰った事なんて…」
「ピアスいっぱいだから触れないんじゃないー?」
「…初めて姫の指摘に説得力を感じた」
「なにげ酷くないっ!?」
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