33誰かの思惑
…ガシャアンッ!
「一度魔法で発動した魔力を媒介にもう一度魔法をかける…か。高純度で生成された魔力球だからこそ出来る事だな」
…ガシャアンッ!
「そんなの伊織にしか出来なくないー?しかもなんかオリジナルの魔法みたいになってるんだけどー?」
…ガシャアンッ!
「…それについてはわからんな。無理やり曲解するとしたら、高純度に取り出した魔力に直接呪文を唱えることで魔法そのものにも影響を与えてるのか?」
…ガシャアンッ!
「もはやスキルの領域じゃん、それー。まぁやっぱり伊織は凄いって事だよねっ!」
…ガシャアンッ!
「あぁ。伊織は凄いぞ。でも威力もコントロールしないとな!あれじゃあ上級魔法と言ってもおかしくない…」
ガシャアンッ!
「さっきからうっせーなっ!」
「さっきからうるさいんだけどー!?」
ガシャアンッ!
「…おい?あのヤバい形のゴーレム、動いてんぞ?」
「えぇー?あれに誰かちょっかい出したって事ー?ははっ!ヤバいじゃん!ちょー目立ちたがりだしっ」
「あ、あのねぇ!二人ともあれなんだけどねっ!?」
「おい、伊織。危ないから下がってろよ。調子乗りに付き合ってらんねぇからな」
「ふぐうっ!」
「てゆーかこっち向かってきてないー?マジ迷惑なんですけどー?誰なんだろー?」
「…っうぅ。私ですぅ」
「「え?」」
「なんかその、私のさっきの魔法に反応したみたいで、その、ちょーしに乗ってごめんなさぃ…」
「「………」」
「あ、あの、姫ちゃん?円華ちゃん?」
「ふざけやがってあのゴーレム!お前を狙ったんじゃないっつーのっ!伊織、下がってろ!ぶっ壊してやるから」
「マジあり得ないしっー!自意識過剰ってやつじゃね?せっかく伊織が魔法を使えたんだから、空気読めって感じだよねー!」
「…二人とも?ちょっと私と目が合わないんだけど?」
「「ぶっ壊すっ」」
「ねぇってばっ」
ーーー
「姫、吸収出来そうか?」
円華ちゃんに促され、姫ちゃんが右手をゴーレムに向け、手のひらを広げる。
「…無理かもー。魔力抵抗値が高いのと、ジャミングみたいに魔力を放出してるから空間把握がしにくいなぁー。食えないねー」
「なるほど、対策してきてるって訳か」
円華ちゃんが少し思案する。
「見た感じ接近戦はやばそうだし、私がやるか」
そういって円華ちゃんは両手をゴーレムに向けて、魔力を込める。
右の肩口から手の甲の紋様が青白く光る。
それと同時に左の肩口から手の甲の紋様が赤黒く光る。
まるで相反するような対照的な光が円華ちゃんの両手をそれぞれ包む。
そして手のひらが一際光ったと思ったら、右手からは青白い閃光、そして左手からは赤黒い閃光が放たれる。
キイィィンと澄み渡るような音がして、空間を切り裂くように閃光がゴーレムに迫る。
超高速のそれは、光ったと思った直後にはゴーレムの身体に直撃し、貫通していた。
「あれくらいじゃダメか」
ゴーレムの黒い身体、閃光が直撃した部分が赤く変色し煙を放っているが、ゴーレムは動きを止める気配はない。
「…光と闇の魔法ー?どうやって同時に使えるのー?」
「そういうスキルなんだよ。…話はあれを壊してからな」
そう言って円華ちゃんはもう一度魔力を込める。
さっきと同じように閃光を放つが、今度は高速での連射。
右手からは青白い閃光が、左手からは赤黒い閃光が絶え間なく放たれる。
「…うわぁ、エグっ!」
「容赦ないねぇ」
見るも無残にゴーレムが穴だらけになっていき、しばらくすると完全に動きを止めた。
「動きの遅いタイプだと、いい的だな」
円華ちゃんが、両手からのぼる煙をひらひらと払う。
「いや、あんなのゴーレムじゃ避けれないでしょ」
姫ちゃんが嘆息する。
「光と闇の魔法?そんなのありか?」
「光は闇を照らし、闇は光を蝕む、ハズじゃね?」
「同時に使ったら術者が無事に済まないはずでは?」
ーーー
「なるほどですね。今年の一年生は優秀な様です」
目の前のモニターにはゴーレムが起動してから破壊されるまでの映像が繰り返し再生されていた。
ゴーレムに取り付けた記録装置は問題なく起動し、その一部始終を映すことに成功した。
「…しかしまぁ、酷いですね」
思わずため息を吐く。
あまりに一方的な蹂躙である。
中距離からの貫通力に優れた魔法で一方的に破壊されていく我が子同然のゴーレムを思うと愚痴りたくなる。
特にあの背中から伸びる一対の腕に仕組んだギミックにはこだわりがあって、接近戦用だと見せかけたあの鉤爪は開く事で内蔵された砲門が現れるとか、バリアを貼れるとか、実は腕自体が伸びるとか、強烈な光を放って目眩しになるとかあと他にも…
「…はぁ。もう少し腕のギミックを見てから破壊でもいいと思うのですけど。一年生はせっかちですね」
まぁ対象に向けてゆっくり歩いて近づく演出が少し勿体ぶりすぎたのかも知れない。
でもいきなり動いて攻撃したら怪我するといけないし、仕方無かった気もする。
…それにしても。
ゴーレムが最初に移したのは銀色の火球が近くのゴーレムに直撃し燃え盛る映像。
その時の魔力の余波をゴーレムは敵対行動と認知し、起動したのだ。
対象はそう、御門伊織。
噂によると圧倒的な潜在魔力を有していて、夜咲姫とミーア・ナーオ・ステラの二人に懐かれているらしい。
光と闇の魔法を同時に使い、ゴーレムを破壊した桐谷円華にも興味があるけど、やはり私が求めるのは…。
「あの魔力があれば作れるかも知れないですね。理想のゴーレムいえ、理想の…」
飽きる事なく、繰り返されるゴーレムの記録映像を何度も眺める。
もしかしたら、私の夢が叶うかもしれない。
薄暗い部屋で一人、高まる期待を抑えきれずにいた。
ーーー
「…あ、あの、伊織?喉渇いてないか?お茶あるぞ?」
「渇いてないもん」
「い、伊織ー!私ひんやりするスプレー持ってるんだけど、使うー?気持ちいいよー?」
「大丈夫。いらないし」
実技講習が終わり更衣室で三人着替える。
気付いて無かったとはいえ、目立ちたがりとか調子に乗ってるとか言われたので、若干拗ねています、はい。
「ちょっとトイレに行ってるね」
「あ、うん。気をつけてな」
「わ、私達もすぐに着替えるからねー」
一足先に着替え終わり、更衣室外にあるトイレに行く事に。
二人が少し慌てて着替えだす。
…ん?
「ねぇ、ちょっと?」
「うん?え?み、御門さん?どうしたの?」
通り過ぎざまに一人の着替え中の女子生徒をみかけ、声をかける。
「髪の毛、ブラのホックに噛んじゃってるよ?」
「えぇ!?嘘!?…やだ、恥ずかしい」
慌てて着替えてたのか、長い髪の一房が痛々しく挟まっている。
「ありがとう!な、直すねっ」
そういって女子生徒は一旦外そうとするけど、指摘された恥ずかしさからか、うまく手が回っていない。
「私がやってあげる。抑えてて?」
「えぇぇ!?」
「ほら、背中向けて?」
「は、はい」
女子生徒が片手で髪の毛を抑えて、片手で胸元を抑える。
長いと大変だね。
恥ずかしさからか、女子生徒の背中が真っ赤に染まってた。
そういえば人のブラのホック外すのって初めてかも?
そんな事を思いながら外して、噛んでいた髪の毛を解いてあげる。
「外れたよ。このまま付けようか?」
「お、おね、お願いしますぅ!」
声がかなり上ずっている。
ごめんね、恥ずかしいよね。
カチッとしっかりつけてあげる。
「はい、大丈夫だよ。髪の毛長いと大変だね」
「あ、ありがとうございます!髪の毛、長くて良かったです…」
そう言ってへたり、とその場に座ってしまう。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「すみません、大丈夫です。ちょっと体勢がキツかったので」
そう言って女子生徒は顔を真っ赤にさせて俯いている。
「ならいいけど。そういえば人のブラのホック外すのって初めてなんだけど…」
「は、はい?」
「凄く緊張するね。あはは。それじゃトイレ行きたいから、じゃあね」
「は、はいぃ」
更衣室の外に出る。
後ろからバタッと誰かが倒れた様な音が聞こえたような?
気のせいかな?
ーーー
「…やばい。伊織を怒らせちゃった上に他の人といちゃついてるとこ見せられるとか…拷問?マジしんどいかも…」
トイレに行くと言った伊織を見送っていると、衝撃的な映像を見ちゃった。
髪の毛がホックに挟まってるらしい女の子が、伊織にホックを外してもらって、つけてもらうという、ただそれだけ。
なのにそれをみた私と円華はまだ履いてる途中だったスカートを二人して落としてしまい、パンツ姿で硬直してしまっている。
健康的な魅力あふれる伊織の、ほんの少しの魅惑的な動作はそのギャップもあってか、その場にいる全員の鼓動を早くしたに違いない。
現に髪の毛を外してもらった女の子はその場にうつ伏せで倒れてしまっている。
うん、羨まし過ぎるから心配してあげない。
早急に仲直りしないといけない。ほんの数分でこのダメージだと、あ、今日終わる頃には死ぬんじゃないかなー?
「ま、円華っ!はやく伊織と仲直りしないとっ!?こういう時どうすればいいかなー?」
「だ、大丈夫だ!そもそも伊織はそうそう怒ったりしない。あれは恥ずかしさで拗ねているだけだ。こういう事はたまにある」
おぉー!さすが幼馴染みだねっ!頼りになる!
「それでそれでー?こういうときはどうするのー?」
「ほんの少し、時間がたてば回復するよ。伊織は引きずったりしないしな。そ、それよりだ姫」
「うんー?どしたのー?」
「わ、私は髪の毛が短くて、どうやってもブラのホックまで届きそうにないっ!どうすればいいと思うっ!?」
「…伸ばせばいいんじゃないー?」
この幼馴染みは伊織の事になると頼もしく、そして伊織の事になるとポンコツにもなるなー。
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