30幼馴染み、再臨
転入し、早くも一週間が経った。
初めのほうこそトラブルが続いたものの徐々に落ち着きを見せ、今ではこの日常に随分慣れた。
まぁ普通の学生だしね。
平穏無事な生活万歳っ!
「さてと、いってきまーす」
玄関を出てエレベーターに乗り込む。
ここ最近は香奈お姉ちゃんは特に忙しいらしく、魔法省が所有しているホテルに寝泊まりしたりして、帰ってこない日も多い。
昨日の夜も日曜日なのに夜には出かけて、今朝も帰ってきていない。
それほど忙しい日々でも、毎日1時間くらいLINEで私の話を聞いてくれる事に、とても心が温まる。
私の心配よりも、香奈お姉ちゃん自身が無理してないか、心配だなぁ。
一階のエントランスに着き、外に出る。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
スーツ姿の女性に声をかける。
ここ最近気付いたのだが、香奈お姉ちゃんの借りているこのマンションには他に香奈お姉ちゃんの部下の人が住んでいるらしく、エントランスや建物の外にはそれらしい人が沢山いる。
なかでも私の護衛を兼任している人も居るらしく、香奈お姉ちゃんに何人か教えて貰った人には、見かけると挨拶するようにしている。
なんだかただの高校生なのに申し訳ないなぁ。
そうこうしている間にバス停に着く。
そこには数人のラウル生徒が。
「あ、御門さん!おはようございますっ」
「「おはようございます」」
「お、おはようございます」
何人かの女生徒と挨拶を交わす。
なんだか転入して目立つことが多かったせいか、いろんな人に声をかけられるようになったみたい。
「やった!御門さんと話せたっ!」
「夜咲さんとミーアさんが居ると近寄りがたいもんね」
しばらく待つとバスが来て乗り込む。
「おはよう、姫ちゃん」
「伊織ー!おっはよー!…うわっ今日も天使過ぎてつらいっ」
バスに乗ってた姫ちゃんに声をかけると姫ちゃんがまるで目眩したような仕草で返してくる。
毎回やるそれ、なんなんだろう?
ちなみに姫ちゃんは毎日家とは逆方向なのに私の乗るバス停までやってくる。
このバスは学校周辺を一周してるので、逆方向に乗ればいずれ私の乗るバス停に着くというわけだ。
嬉しいけど、朝辛くないそれ?
「平気だってばー!少しでも伊織と一緒に居たいじゃんっ!なんだったら伊織の住んでるマンションに引っ越したいっ」
「えぇ!?多分家賃すごいよ?」
「うっ!そうだよねー。こないだマンション見てマジびびったしっ。でもあの香奈さんなら、あれくらいの家に住んでても違和感ないけどー」
「だよね。香奈お姉ちゃん、いつも食後にテラスに出て一緒にコーヒー飲んだりワイン飲んだりするんだけど、すっごく絵になるんだぁ」
「えぇ!?部屋にテラスあるの!?」
「うん、広いバルコニーを改造したみたい。結界もあるから虫も来ないし雑音も届かないよ」
「…ちょっと伊織と同じマンション無理かもー。近場で探してみるー」
姫ちゃんが項垂れる。
学生に払える様な部屋じゃないのは間違いない。
バスが穏やかに減速し、バス停に停まる。
「おはよーにゃ!伊織っ!姫っ!」
「おはよう。ステラちゃん」
「おはよーステラー!今日もフサフサだねー」
次の停留所でステラちゃんが乗ってきて、私達のもとにやってくる。
ステラちゃんが私達と同じ時間帯のバスに乗って登校するのも、すっかり日課になった。
窓際を姫ちゃん、その隣を私、そして一つ前の席にステラちゃんが座る。
「知ってるかにゃ?今日は転入生が入ってくるんだにゃ」
ステラちゃんがふふーん、と自慢げに胸を張る。
「知ってるよ。私の幼馴染みなの」
「えぇ!?そうなのかにゃ!?」
一変、ステラちゃんが驚いた表情に。
ステラちゃんはコロコロと表情が変わって面白いな。
「そうだよ。私の一週間遅れで転入するの。確か同じクラスだよ」
「すごいよねー、確か転入試験で高成績出して、クラス選択する資格ゲットしたんだよねー?マジやるじゃん」
「そうなんだにゃ。伊織、どんな子なのかなにゃ?」
ステラちゃんが前の席から首を出して聞いてくる。
「えっとねー、すごく優しくて、思いやりがあって努力家だよ。不器用なところもあるけど真面目でね?勉強が得意なの」
ステラちゃんがふむふむとうなずく。
「大体想像できたのにゃ。なるほど、伊織の幼馴染みって感じなのにゃ」
「…多分びっくりすると思うよー」
姫ちゃんが少し苦笑いして窓の外を見る。
「あ、写真あるよ?見る?」
昨日孤児院でも会って子供達と写真撮ったしね。
「いいにゃ。せっかくだし会うまでの楽しみにしとくのにゃ」
ステラちゃんがふんふん♪と鼻歌を歌って前に向き直る。
頭の中で想像してるのかな?
多分ステラちゃんとも仲良く出来るはずだし、もっと賑やかで楽しい学校生活になるといいなぁ。
ーーー
「はじめまして。今日からこのクラスに転入する桐谷円華です。よろしくお願いしまーす」
うんうん!やっぱりシンプルイズベストだよねっ!
HRの始め、岩井先生から促されて自己紹介の挨拶をしたのは私の幼馴染みの円華ちゃん。
赤色の綺麗なショートヘアーがトレードマーク。
両耳には沢山のピアスがついているが、学校には魔法具と説明して付ける許可を取ったって言ってたっけ。
…うん、やっぱり目立つのは両手の紋様だね。
半袖だと、その両腕の紋様がよく見える。
「はい!桐谷さん!」
一人の生徒が元気よく手をあげる。
…中本君だ。
ちょっと前まで元気がなかったけど、最近はまた元気が出てきたみたい。
「…なんすか?」
円華ちゃんが面倒くさそうに頭をがしがしとかきながら答える。
すごい余裕だ。
さすが円華ちゃん。
「桐谷さんは何の特待生なんですか?」
「何のって、何が?」
うん、デジャヴ。
毎回聞いてるの?あれ?
「何を評価されて特待生になったのか、って意味ですよ。…まさかまた潜在魔力だったりして」
「…懲りない奴だねー、あいつ」
姫ちゃんの目に怒りの火が宿る。
あの件以来、姫ちゃんを恐れてか、直接的ではないけれど遠回しな嫌味を言うようになった。
もはや最初に感じた爽やか好青年はすっかりメッキが剥がれている。
「桐谷は全項目で平均以上の素質を持つ特待生だ」
岩井先生が口を開く。
「…は?」
中本君が間抜けな声を出して固まる。
「スキルも優秀、希少魔法も使えて潜在魔力も申し分ない。この学校でもトップクラスの素質を持つ生徒だ。このクラスにとっていい影響になると思う。みんなも仲良くするように」
「そ、そんな生徒がどうして正式入学じゃなくて転入なんだ?」
中本君が目を見開いて驚いている。
確かに円華ちゃんがその気だったら、普通に試験を受けて入学していただろうね。
「…せんせー。それプライベートなことじゃないっすか?」
円華ちゃんがギロリと先生を睨む。
「…そうかもしれないが、この学校ではクラス対抗戦や模擬戦など、生徒達が魔法を駆使して協力する場面が多々ある。ある程度の情報共有は必要だろう」
「…まぁいいっすけどね。そういう授業もあるならいずれわかる事だし」
「そういうことだ。さて、それじゃあ桐谷の席だが…」
「あそこがいいっす」
円華ちゃんがすぅと私の隣の席を指差す。
姫ちゃんが窓際だから、その反対側だ。
確かに誰も座ってない。
「ふむ。確かに空いてたか、分かった。では桐谷、席につけ」
「うーっす」
気怠そうに返事をして歩き出す円華ちゃん。
円華ちゃんの歩く姿を誰もが凝視している。
目立つ容姿に成績優秀となれば、みんなの注目を集めるのも当然だね。
緊張のせいか、表情が固い。
ゆっくりと歩いてきて、私の隣に来た。
ちらり、と私の方を見る。
「やっほ、円華ちゃん。改めてよろしくね」
「っ!伊織っ!やっと一緒だなっ」
ガチガチに固まっていた表情がふにゃあと綻び、いきなりがばっと抱きしめたれた。
「えっ!?」
「知り合いなのか!?」
「またあの転入生なのか!?」
クラスがざわつく。
そりゃびっくりするよね。
「も、もう円華ちゃんてば。昨日も会ってたじゃない」
「そうじゃねぇよ。これでやっと私の生活の中に伊織が戻ってきたんだって、そういう意味っ」
「大袈裟だなぁ、円華ちゃんは。私達、離れることはあってもいつも一緒だからね」
抱きついてきた円華ちゃんの頭をよしよし。
「…ふぅ。頑張った甲斐があったな。もうちょっとこのまま…」
「やっほやっほー、円華ー!久々だねー。…HR中なんだしそろそろ座りなよー」
「…ん?姫か。久しぶりだな。同じクラスとは聞いてたけど、まさか隣の席とは。…やるな」
「何がやるな、よ!?私のはたまたまだからねー!やるのは円華の方だしー!…てゆーか座れってばー!」
「いやだねっ!控えめに言っても最高な制服姿の伊織の頭なでなでを自分から断る勇気が姫にあるのか!?」
「ふん!そんなの無理に決まってんじゃーん!…って違うしっ!だから羨ましいっての!離れてってばっー!」
うん、二人とも落ち着いて欲しい。
まだHR中なんだしね。
「…もうなんでもありだな、御門伊織」
「夜咲さん、ミーアさん、桐谷さんと中良くて、姉があの香奈さん?」
「じ、実はとんでもない奴なんじゃないか、御門伊織?」
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