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「それじゃあいくよ?…リヴィール!」



お昼ご飯を食べ終わり、まだ休憩時間。



私は手のひら、ではなく人差し指の指先に魔力を集中させる。



昨日使ったリヴィールは緊急事態で魔力の圧縮があまりうまく出来ていなかったせいで波動が溢れ出し、ゴーレムが壊れたり、魔力感知器が壊れたりしちゃったらしい。



だからしっかりと一点に魔力を集めるのをイメージして呪文を唱える。



身体が熱くなり、それを失う喪失感。



そして指先が光り、それが収まるとそこには銀色の魔力球が相変わらず緑色の火の粉をちらして出来ていた。



この前とは違って、その表面は鏡の様に静かさを保っている。



「よしっ。出来たよ姫ちゃん、ステラちゃん」



指先から目を離し、二人を見るとそこには驚愕の表情が。



「…やっぱ凄いわ伊織の魔力はー!昨日よりも高純度だし!しかも周囲への被害も無いし!やったね伊織っ」



「うまくいったのかな?自分ではよくわかんないけど」



指先に出来た魔力球をじーっと眺める。



昨日は肉まんくらいの大きさだったはずだけど、今日はピンポン球くらいの大きさかな?



圧縮っていうのに成功したのか、一回りくらい小さくなっている。



「な、なんなのにゃ!?この魔力は!?伊織は凄いのにゃ!!」



座ってたステラちゃんは立ち上がって驚愕している。



お目目ぱちくり、耳はピクピク、尻尾はぶんぶん。



うん、可愛い。



後で撫でくりまわそう。



「潜在魔力特待生だからね。魔力だけは多いみたい」



「多いとか、そんなレベルじゃないにゃ!これほどの魔力なら超級魔法でも複数回発動出来るかもしれないにゃ!」



ステラちゃんは尚も興奮して続けてくれるけど、肝心の魔法が使えないからなぁ。




「魔力のコントロールと一緒に魔法も覚えたいなぁとは思うけど、そんな凄い魔法は遠慮するよ」



「伊織は本当に欲が無いにゃ。これだけの魔力を使いこなせたら大魔導士だって夢じゃにゃいのに」



魔導士資格を取得すると、ギルドパーティからは派遣要請が来るし、学校の臨時講師も、魔法省への推薦も貰えるといい事尽くめで、去年の今取りたい資格第一位に選ばれていた。



大魔導士というのはその資格の最上位クラスで、日本には数人しかいないらしい。



さすがに昨日魔法を初めて使っただけの人間が慣れると自惚れはしないが、ステラちゃんの熱意は本気のように感じる。



「ねぇー?それよりさー、その、食べていい?お腹空いてきちゃったかもー」



姫ちゃんが口ごもりながら話す。



昨日姫ちゃんに魔力を上げてから丸一日以上経ってるし、今朝もステラちゃんとの戦いで魔力を消費したんじゃ無いかな?と思って聞いてみたのら案の定、そろそろ欲しいかもーと言われたんだった。



「そうだね。はいどうぞ、姫ちゃん」



そういって人差し指先に集まった魔力球を姫ちゃんに向ける。



「ありがとー!…んんー、今日もいい匂いー!いただきまーすっ」



口を近づけてパクリっ。



昨日より小さいとはいえ一口で全部口の中に入れちゃった。



はむはむ、ごくり。



「ごちそうさまっ!やっぱり昨日より凄いよこれっ!この分なら五日くらいは魔力切れにならないんじゃないかなっ?」



昨日ので三日分くらいって言ってたから、今日の方が小さいのにより密度が高いって事なんだろう。



魔力って不思議だね。



「これだけの魔力を五日で使い切っちゃうのかにゃ!?…伊織も凄いけど、姫も大概なのにゃ。まともに戦って勝てる気がしないにゃ」



ステラちゃんがうなだれて肩をがっくり落とす。



ーーー



お昼12時30分。



予定通り午前中の会議を一時間ほど前倒しで終わらせて伊織ちゃんのお弁当を空いている会議室を貸し切って堪能した。



美味しい。



これを自分の分のついでとはいえ、伊織ちゃんが朝早くに起きて作ってくれたと思うと自然と頬が緩む。



するとスマホに最近はすっかり聴き慣れたアラーム音が。



タップし開くとやはりラウル魔法養成学校の敷地が映し出される。



そこにはリヴィールの魔法を圧縮させて唱えている伊織ちゃんの写真が。



正直こんな盗撮まがいの事をしてまで監視する事にかなりの嫌悪感があるが、今は他の組織も伊織ちゃんに注視しており、何より魔法省としての総意である以上、どうする事も出来ない。



せめてもの救いとして、伊織ちゃんの映像は全て私か私が許可した者しか閲覧できないようにしたというところか。



…さて、やはりというか、隣には夜咲姫、そしてその隣には…ミーア・ナーオ・ステラ?獣人で初めて勇者の素質である光と聖属性を発現させたラウル学校の期待の一年生が座っている。



こないだ直接アポを取ってきた桐谷円華といい、夜咲姫、ミーア・ナーオ・ステラといい、どうやら伊織ちゃんには特殊な人を惹き寄せる魅力があるのかも。



そんな事を考えていると、つい笑ってしまう。



「そっか。私もそうよね」



伊織ちゃんを初めて見た時の衝撃、少し話しただけで惹きつけられる魅力、居ないと思っただけで現れる喪失感。



最初は魅了系の強力なスキルかと疑ってしまい、入学前にもスキルの検査をしたが、やはりスキル無しの事実は覆らなかった。



容姿の可愛さ、性格の良さを差し引いても、何か強力な引力を感じる。



やはり溢れ出る魔力が人を惹きつけるのだろうか?



そんな事を考えているとピロンっとケータイにもう一枚の写真が送られてきた。



そこには顔を真っ赤にさせたミーア・ナーオ・ステラが伊織ちゃんに頭を撫で撫でされていて、それを夜咲姫が表現に尽くしがたい表情で眺める写真が。



「ふふっ」



誰もいない会議室で、つい笑ってしまう。



そうよね、伊織ちゃんの周囲に人が集まるのは伊織ちゃんだからだよね。



仕事柄から無駄に邪推してしまうくせに、少し嫌になる。



さて、お弁当を軽く洗い、鞄にしまう。



そして会議室を出る。



「リオン、レオン」



「「はいっ」」



音もなく左右から二人の気配が現れる。



黒髪をポニーテールにした双子の従者であり、信頼できる側近。



「リオン、例の伊織ちゃんを欲しがってた組織、少し洗ってくれる?政治家との癒着が濃厚かしら?」



「はい」



そして音もなく消える。



「レオン、伊織ちゃんの監視だけど、学校外部の人間の接触は特に警戒しなさいと言ったけど、学校内部にも外部組織の息がかかったものが居る可能性もあるわ」



特に今は理事長の姉さんが居ない。



万全の状態とは言い難い。



「教師達の背後関係も洗って。外部組織と接触がありそうなら報告して。…それと」



そう言ってスマホを取り出す。



「…なにか?」



レオンが不思議そうに首を傾げる。



「この二枚目の写真、伊織ちゃんの魔力と関係ないわよね?」



スマホにアップに映し出されたのはミーア・ナーオ・ステラの頭を撫で撫でしている伊織ちゃんの写真。



どうみても伊織ちゃんの魔力の観察とは関係のない写真。



この時間帯の魔力異変を感知した際の伊織ちゃんの監視はレオンが担当している。



「関係ありませんが、お好きかと思いまして」



「………行きなさい」



「はい」



悪びれもせずに即答する部下に、一瞬言葉を失ってしまった。



音もなく消え去り、残されたのは私一人。



「さて、昼からも蹴散らしますか」



声に出して気合いを入れ直す。



そして伊織ちゃんにはLINEで連絡を入れる。



『会議が長引くし、明日早朝から別件が入ってるから今日は帰れないわ』



『ごめんね。先に寝ておいてね』



『あと、お弁当最高だったわ。また今度お願いね』








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