03勇者様の3倍だってー!?
「伊織ちゃんのその薄銀色の髪綺麗ね?染めてるの?」
「いえ、地毛なんです。変ですよねー」
「地毛なんだ?変じゃないわよ。瞳の色も綺麗だし、もしかしたらハーフなのかもね」
私は自分の、金属を思わせるような色の髪を指先でいじる。
かなりの癖っ毛なので、毛先はクリンクリンだ。
ロングヘアーに憧れるが、手入れが大変なのでいつも肩より下以上に伸ばす勇気がない。
私の瞳は黒目なのだが、小さいエメラルド色の色彩が散らばって見える。
確かにハーフかも知れないが、孤児だし、調べる方法がない。
まぁ私は私だし、それで良いよね。
「私、凄い癖っ毛なんで、沢村さんの、」
「香奈よ、伊織ちゃん?」
ご、ゴリ押しですねっ!
「か、香奈さんみたいな真っ直ぐで綺麗な黒髪、あこがれます」
「ありがと。仕事柄、清潔なイメージが大事なの。だからケアには気を使ってるのよ。でも伊織ちゃんの猫ちゃんみたいな髪の毛見てたら、パーマあてたくなっちゃった。似合いそう?」
「に、似合うと思います」
大人ウェービーな感じなのかな?
ははーん、さては似合うなっ。
「嬉しいわ」
くすっと子供の様な無邪気な笑みに緊張を解される。
無敵なのか香奈さんは。
そうこうしている間に魔法省の所有しているというビルについた。
玄関には警備員も立っているし、私の場違い感が凄い。
早く用事が終わりますよーに。
それとやっぱり弁償して?ってなりませんように。
香奈さんの後を先生とついていき、エントランスの受付で鍵を受け取ると、エレベーターでぐんぐんのぼり、ほぼ最上階じゃないのかな?に到着。
エレベーターを降りると廊下に出て、部屋は奥に1つ、左右に1つずつの合計3部屋、そのうち右の部屋を香奈さんは鍵をつかい開けた。
「どうぞ?伊織ちゃん、先生」
「「失礼します」」
なんか勝手に豪華なゲストルームを期待していたけど、意外と殺風景な部屋だった。
てゆーか大きな机と椅子しかない。
「こんな部屋で御免なさいね?防音、対透視、盗聴などなどセキュリティクラスS級の部屋で外部の人が使えるのは今はここだけなのよ」
うむぅ、急に物々しい。
やはり弁償かもしれない。
今は孤児院見習いで手持ちはほぼ無いので、将来払いにして欲しいかも。
「単刀直入に言いますね」
さっきまでのフレンドリーな雰囲気とは打って変わって、ピシャリとした物持ちになる香奈さん。
柔和な空気は霧散し張り詰める。
ドキドキッ。
「御門伊織様の魔力測定結果ですが、決して計測水晶の故障ではありません。単に御門伊織様の魔力量が多すぎてあの水晶では計りきれなかった、それだけのことです」
え?どういう事?
「あそこの計測機のデータは魔法省のPCにもデータとして送られてくるのですが、水晶が割れる直前の数値は過去に最大魔力量を計測した勇者の3倍ほどありました」
ゆ、勇者様の3倍!?
「当然、御門伊織様は国内外を問わず、おそらく全人類最大の魔力量を有している、ということになります」
なんですってー?
「な、何かの間違いでは無いでしょうか?この子は生まれ持ってスキルを持っておらず、属性はおろか、魔法もろくに使えなくって!」
「正確なデータについてはまだ検証中ですが、途中までのデータになんら異常はありませんでした。なので近くの部署で1番権限の強い私が直接出向いて、こうしてお話しをさせて頂いてます」
ひえー!そういえば先生が貰った名刺をチラッて見たら、局長とか書いてた気がする!
「後日、検査を重ねた結果をお送りいたしますが、私どもの見解では、御門伊織様が膨大な魔力を宿している、という事はほぼ間違いないと思います」
「そ、そんな。この子はとてもいい子ですが、魔法なんて使えなくて…」
「具体的に、どういった魔法が使えなかったのですか?」
「小さい頃、基本魔法のライトを勉強で教えて、この子に実践させてみたんです。そしたらいきなり高熱を出して3日も寝込んでしまって…それからこの子には魔法を覚えるのも使うのも禁止していたのです」
あれは辛かったなー。
熱が出てしんどいのもあったけど、みんなと同じ様に魔法が使えない事に、子供ながらにショックを受けた。
「…恐らくですが、まだ幼い身体では内に宿す膨大な魔力を扱いきれず、魔力が不完全燃焼を起こしたのでは?発動出来なかった魔法の反動で熱を出して倒れてしまったのでは無いかと思われます。稀ではありますが、似たケースもありますよ」
「そ、そんな…」
先生が青い顔をして天井を見つめだした。
先生ー!帰ってきてー!
「じゃ、じゃあ私はこれからどうすれば?別に今まで魔法が使えなくて不便してませんでしたし、これからも魔法を使わなければ…」
「それは難しいかもしれません」
ぴしゃん!と香奈さんに否定された。
えぇー!ダメなのー?
「正直、これほどの魔力量を消費せずに体内に宿したままだと何が起こるかわかりませんし、魔力は感情の起伏で溢れ出す事もあります。その時にコントロールする術を知らないと、取り返しのつかないことも」
私は爆弾ですかっ!?
今まで孤児院で過ごした風景を思い出し、自分という存在がそこにいたという事に少し恐怖を感じてしまう。
みんなを危険にはさらしたくないな。
「…御免なさいね、伊織ちゃん」
目の前の香奈さんは目尻を下げ、申し訳なさそうに私の顔を覗く。
「まだ若い伊織ちゃんに怖い話ばっかりして。でも、まだ若い伊織ちゃんだからこそ自分と向き合って立ち向かっていけると思うの。そのための事を話し合いましょう?ねぇ、先生?伊織ちゃんなら大丈夫よね?」
「…えぇ、この子はとてもいい子なんです。小さい子の面倒もよく見てくれて、私達のお手伝いもしてくれる、優しい子。きっと、全部乗り越えれます!」
いつのまにか復活した先生が目尻の涙を拭い、力強く断言してくれる。
やだ、うるっときちゃう。
でもここで泣いちゃうのは正解じゃない。
拳を握り、天井に向けて突き出す。
「そうですよね。魔力があっても私は私なので。これまで通り、育ててくれた先生達に恥をかかせないよーに頑張りますっ!」
湿っぽい空気を払拭するため、大声を出したら後半声が裏返った。
恥ずかしいし、帰りたい。
「本当に、いい子ですね、先生」
「えぇ、本当に自慢の子なんですよ」
暖かい眼差しにまた耳が真っ赤になる。
なるほど、これが羞恥プレイとやらですかっ!