28手作りの味は?
「正直、姫の銀色の魔法剣を見たときは本当にびっくりしたのにゃ」
お昼休み、今日はお弁当なので外で食べようって話になり、今三人で廊下を歩いている。
ちなみにあれからステラちゃんは毎休み時間、D組の教室まで遊びに来て、お昼もいっしょにすることになり今一緒に歩いている。
「ふふん。あれでしょー?伊織剣の事でしょー?」
「その名前やめてってばぁ!」
姫ちゃんが得意げに胸をそらす。
「最初は姫の魔力なのかと思ったけど、纏う魔力を見れば、伊織のだと気づいたにゃ。しかも自分で伊織剣って言ってたのにゃ」
「あーね、そーいえば伊織の魔力貰ってるし、今思えばちょっとフェアな戦いじゃなかったかもー。ごめんねステラー」
姫ちゃんが両手を合わせてぺこりと謝る。
「別に構わないにゃ。私がしかけた戦いだし、特にルールも決めてなかったにゃ。持てる手段を使うのはむしろ相手への誠意にゃ」
「ステラは真面目だねー。ちょー優等生じゃん」
「勇者見習いなんだにゃ。当たり前の精神にゃ」
今度はステラちゃんが胸を得意げにそらす。
一階に降りて、渡り廊下を歩く。
「うん?纏う魔力って言った?ステラちゃん?」
さっきステラちゃんからそんなワードを聞いたような?
「言ったにゃ。伊織の纏う魔力を見たら、姫の使った魔法剣は伊織の魔力を使ってるのだと気づいたにゃ」
私の纏う魔力?魔力測定器を使うまで誰にも、自分自身でもわからなかった自分の魔力が、ステラちゃんは見ただけで分かったのかな?
「あー、伊織さー?昨日リヴィールの魔法を使ったじゃん?あれってまともに初めて使った魔法だっていってたよねー?」
「うん、そうだよ。子供の頃に魔法に挑戦した事はあったんだけど、ちゃんと発動したのは昨日が初めて」
「多分それがきっかけなのかなー?魔力感知とか使うとさー?伊織を中心に銀色の雲みたいに、魔力が渦巻いてるんだー。それもかなり高密度のやつー」
「正直ビビるくらいの高密度な魔力にゃ。低ランクの魔物なら見ただけで逃げ出すんじゃないかにゃ?」
え!?そうなの?自分では全くわからないってどういう事!?
「その髪色に纏う魔力、どれも猫族の神官たちが見たら卒倒するにゃ。下手したら生き神として崇められかねないにゃ」
「それは遠慮したいなぁ」
ただの偶然なのに、恐れ多いよそれは。
渡り廊下を抜けて校内の中庭に着く。
中庭はとても整備されており、適度に緑の木々もある。
掃除もまめにしているのか、校内指定のスリッパでもそのまま歩ける。
少し歩き、空いている木の下のベンチに着く。
周りにもいくつかベンチが配置されていて、生徒達が各々休憩したり、お昼を食べたりしている。
「…おい、今朝戦っていた二人と例の転入生だぜ?」
「どういう事だ?なんであの三人が仲良くしてるんだ?」
「…レベル高いグループだなぁ。美人ぞろいだし」
何処に行っても周囲から噂話が聞こえる。
まぁそれなりにやらかしてるから仕方ない気がするけど。
「お腹すいたー!はやくご飯にしよー!」
姫ちゃんがベンチに座り、お腹を抑えて足をバタバタさせる。
まるで子供みたい。
「そうだね、食べよっか」
「食べるにゃ」
「「「いただきまーす」」」
三人仲良く合唱する。
姫ちゃんはコンビニの袋から焼肉弁当と唐揚げ弁当とおにぎりを三つ取り出す。
フードファイトかな?
ステラちゃんは一階の購買コーナーで買ったカレーパンとメロンパンをカバンから取り出す。
ちなみにステラちゃんは猫の肉球が描かれたトートバッグを持っていて、なんだかとても愛おしい気持ちになる。
「さてとー、お弁当お弁当ー♪」
そういって私も保冷剤入りの保温バックから朝作ってきた弁当を取り出す。
二段目がおかずで一段目はご飯。
今日のメニューはアスパラの肉巻きに卵焼き、きんぴらごぼうと彩りにプチトマト、ご飯はおにぎりになっている。
卵焼きを一口。
うん、出汁が効いていて美味しい。
少し甘めの味付けだけど、香奈お姉ちゃんの口に合うといいなぁ。
ふと隣を見ると、焼肉弁当を食べ終わった姫ちゃんがこちらをチラチラと見ている。
…いや、食べるの早いよ。
「…ねぇー、伊織のそのお弁当って、伊織の手作りなんだよねー?」
「うん、そうだよー。昨日買った材料で作ったんだー」
姫ちゃんが私の手元をじーっと見てる。
「私のこの唐揚げ一個あげるからさー?その肉巻き一個ちょーだい?」
少しもじもじとして見える姫ちゃん。
別に食いしん坊だなんて、…うん、思わないよ。
「うん、いいよ。じゃあ交換ね」
「ほんとー!?やったー!じゃあ、これ唐揚げねー?」
そういって唐揚げを箸で掴んで私に持ってくる。
あ、あーんかな?恥ずかしいけど、姫ちゃんらしいね。
目を瞑り、口を控えめに開く。
「ふぇぇぇえ!?」
姫ちゃんからびっくりするくらい高い声が聞こえた。
どうしたんだろ?唐揚げ落としそうになったのかな?
目を瞑ってしばらく待ってると、控えめにちょん、と唇に唐揚げの衣が触れる感触が。
口が小さいから遠慮してるっぽい。
心なしか箸が震えてる気がするし。
そう思って頑張って口を開いて唐揚げをかじる。
「あーーむっ」
「「っ!?」」
目を開けるとそこには顔を真っ赤にした二人が。
何かあったのかな?
もぐもぐ、ごくん。
コンビニの唐揚げもジューシーで美味しい。
少し味付けが濃いとは思うけどね。
「ありがとう。美味しいよ。はい、姫ちゃんも」
肉巻きを箸で掴んで姫ちゃんの口元に運んであげる。
「ふぇぇぇえ!?」
「ん?やっぱりいらないの?」
「い、いるしっ!ちょーいるし!でも今はちょっと胸が苦しいー!きゅんきゅんするー!」
姫ちゃんが胸を押さえて顔を真っ赤にさせている。
「だ、大丈夫?やっぱり食べるのやめたほうが」
「絶対食べるしっ!…もう大丈夫!…はい!」
そういって姫ちゃんが目を瞑って口を開ける。
姫ちゃんはこういうの平気かもしれないけど、やっぱり少し恥ずかしい。
「はい、あーーん」
「…あーむっ」
姫ちゃんが私の肉巻きをぱくり。
呑み込んだのを確認して声をかける。
「どう?美味しかった?」
「…最高だし、もう胸いっぱい」
姫ちゃんが大袈裟に褒めてくれる。
料理好きとしては、食べてくれるだけで嬉しかったりするけどね。
「い、伊織っ!私のカレーパンも一口あげるから、私にも欲しいのにゃ!」
「いいの?嬉しいな。私カレーパン好きなんだ」
「そ、そうなのかにゃ。お、お先に一口どうぞにゃ。そっちの方はまだ私が口をつけてない…」
ステラちゃんが私にカレーパンを渡そうとすると、ステラちゃんのかじった所からカレーのルーが垂れて落ちそうに!
「わぁ、垂れちゃう!…あーーむっ」
「っ!?」
危ない!制服に落ちる前にお口でキャッチ&そのままパンにガブリ。
…ちょっとはしたなかったかな?
でも制服汚れるよりはいいよね。
もぐもぐ、ごくん。
「ちょっと辛いけど、美味しいね。ステラちゃんは辛いの好きなの?」
見るとステラちゃんは顔を更に真っ赤にしている。
「か、辛いのは好きだけど、今は甘々にゃ。もうなんか味わかんないにゃ」
「?そうなの?じゃあ肉巻きやめとく?」
「食べるにゃ!絶対に食べたいのにゃ!…でも今は胸が苦しいのにゃ!」
ステラちゃんまで胸を押さえている。
どういう現象?これ?
「すーはー、すーはー…覚悟は出来たにゃ。いつでもお願いにゃっ!」
そういってステラちゃんも目を閉じて口を開く。
…今更だけどどうして二人とも目を閉じるのだろう?
あ、最初にそうしたの私か!
そんな事を考えながら、ステラちゃんの口に肉巻きを運んであげる。
「あーーん」
「あーーむっ」
ぱくり、もぐもぐ、ごくん。
呑み込んだのを確認して声をかける。
「どう?美味しい?」
「…一口で胸いっぱいなのにゃ」
ふにゃ、となんだか蕩けそうな表情のステラちゃん。
そんなに気に入ってくれるとは、作った甲斐があるっ!
…そういえばたまに円華ちゃんにも手作り料理を食べさせてあげた時にも同じ表情を見た気がする。
「み、見てもよかったんだよな?あれ?」
「今話しかけるな!動悸が早くて死にそうだっ」
「あれは勇者候補生とはいえ、落ちるわけだ」
まだ5月とはいえ今日は天気もよく気温も高い。
周囲のみんなも顔を真っ赤にしていた。
水分補給はしないとね。
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