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27耳と目と尻尾

一限目が終わり、休憩時間に入る。



しばらくすると、教室のドアが勢いよく開くとそこには今朝見た人物が。



「………あ!居たにゃ!御門伊織!夜咲姫っ!」



その人物、ステラさんはこちらを見つけると目を輝かせて近づいてきた。



「今朝は本当にごめんにゃ!噂に振り回されて、自分が恥ずかしいにゃ」



照れ笑いの表情を浮かべて頬をかいている仕草を見てると、なんかこう、庇護欲?のようなものが溢れてくるのを感じる。



「あ、ステラさんやっほー♪まぁあんまし気にしてないよー。誤解が解けたんならおけまるっ」




お、おけまる?

そういって姫ちゃんは指でOKの形を作ってニヒッっと笑う。



「私の事はステラ、でいいにゃ」



「ステラね、りょーかい。じゃあうちらも下の名前でいいよねー?伊織ー?」



「そうだね。改めてよろしくね。ステラちゃん」



「わかったにゃ。伊織に、姫、にゃね」



「よろしくねー、ステラー」



なんだか誤解も解けて距離も縮まったみたい。



初対面だけど、トラブルのおかげでお互いの事を知ることが出来たのは良かったかも。




まぁああいうファーストコンタクトは二度とごめんだけどね。



「おい、B組の勇者候補生じゃねーか?」

「どうしてあの二人と知り合いなの?」

「お前ら知らねーのか?朝から夜咲と勇者候補生がグラウンドで互角に戦ってたんだよ!」

「…まだ転入して3日目だぞ?どこまでいくんだ…」



…うん、今日もざわつくクラスメート達。



ステラさんは耳が良いのか、頭の上の猫耳がぴくぴくっと動いている。



「ステラちゃんは猫族の獣人さんなんだね。私は獣人さん自体初めて見たよ」



「そうなのかにゃ?まぁ確かに人間社会で暮らす猫族はあまり多くないにゃ。猫族はあまり群れたがらないのにゃ」



「そうなんだ。手触り良さそうな耳に、ふわふわの髪に大きな瞳、猫族ってみんなステラちゃんみたいに可愛いの?」



「ふにゃ!?か、可愛くないにゃ!別に普通にゃ!普通っ!」



「あ、そういえば尻尾は?」



獣人さんの特徴は大体耳と尻尾だと聞いた気がする。



「あ、そうだったにゃ。戦うときは弱点になるから隠しておいたんだにゃ。…ほらにゃ」



ステラちゃんがそう言うと、スカートの下から茶色い毛並みのフンワリした尻尾がくるんっと伸びてくる。



「わぁ!可愛いっ」



「そ、そうかにゃ?私は少し尻尾が短いのがコンプレックスなのにゃ。やっぱり長くてすらっとした方が大人の猫族なのにゃ」



言われてみればステラちゃんの尻尾は短くて、あんまり細くはないかも?



でも控え目にお尻から伸びるそのフサフサな尻尾は右に左にとゆらゆら揺れて、思わず触りたい衝動に駆られるほどに魅力的だ。



「そうなの?でも私はその尻尾、好きだなぁ。ふわふわしてそうで、さらさらしてそうで。ずっと見てられるよ」



そういって頬杖をついてお尻から伸びる尻尾を思わず凝視。



じーーーー。




「や、やめるにゃ。尻尾を褒めるのも見つめるのも、嬉しいけど恥ずかしいにゃ」



気づくとステラちゃんは顔を真っ赤にしてスカートの端をぎゅっと握っている。



はっ!いけないいけないっ。




「あ、ごめんね、ジロジロと見ちゃって!いきなり失礼だよねっ」



「…大丈夫にゃ。…伊織は、その、触ってみたいなぁとか思うかにゃ?」



そういって少し俯き、消え入りそうな声を出すステラちゃん。



触りたい?猫耳かな?




「いいの?良かったら触ってみたいな」



「そ、そうなのかにゃ?…じゃあその、二人っきりの時に…とくべつなのにゃ」



「本当に?わぁ嬉しいな!手を綺麗にしとかなくちゃだね」



「べ、別に誰にでも触らしている訳じゃないのにゃ!伊織はその、褒めてくれて、嬉しいから、…特別なのにゃ」



そういって少しはにかむステラちゃん。



なんだかこっちも少し恥ずかしくなってきた。



「………じゃあ、あーしも触っていーい?」



気付けばじとーっとした表情で、会話に入らず私達を見ていた姫ちゃんも、触りたいって言い出した。



「え?ふつうに嫌にゃ」



「なんでよ!?」



「なんか乱暴そうにゃ。デリケートな部分だから、遠慮しとくのにゃ」



すぱっ!と断るステラちゃん。



朝激しく戦った後だし、姫ちゃんの力強さを知ってるから余計に触らせにくいのかな?



「はい、出ましたよー!伊織の悪い癖ー!ほんと魔性のタラシなんだからー!」



「えぇ!?私の話なの!?」



いきなり話題を振られてびっくり!



「なんで会う人会う人、全員落としちゃうかなー?この子はー!それも可愛い子ばっかりー!…いやまぁ、そりゃ落ちるけどねー!私もとっくに落ちてるっぽいしっ」



…なんかよくわかんないことを矢継ぎ早にはやし立てる姫ちゃん。



姫ちゃんはたまにこんなことになる。



いつか理解できる日が来ると私は信じてる。



「私よりも、伊織の髪と瞳の方が珍しいのにゃ」



頭を抱えて、うぅー!ライバル増えるじゃん!とか言ってる姫ちゃんを無視して、ステラちゃんが机に両手を乗せ、頬杖をついて私の顔を覗き込む。



「よく言われるけど、猫族とかじゃいないの?この髪色とか?」



「いないにゃ。もし居たら、大騒ぎになるにゃ」



「?そうなの?どうして?」



そこまで珍しいかな?




「銀の翼を持ち、翡翠色の瞳を持つ大天使が、かつて弱者を救う為にその姿を銀色の猫に変えて下界に降り立ち、世界の混乱を治めた。そしてその者は天界に帰らずに下界に留まり、いつまでもこの世界を見守っている、と言う話を知ってるかにゃ?」



「知ってるよ、その話。でも子供向けの童話だったような?」



小さい時に孤児院で聞かしてもらった事がある。



確か絵本だった気がする。




「人間達は、そうみたいにゃね。だけど私達猫族は違うにゃ。少し続きがあって、その銀猫に姿を変えた大天使は猫族の祖先となり、もう一度くる世界の混乱を防ぐために、今は自分の名前すらも忘れてこの世界に存在している、というものにゃ」



「そうなんだ。猫族のみんなにとっては凄く大事な話なんだね」



「そうなのにゃ。そして実際に、猫族は白や黒、赤や黄色、桃色から果ては金色と様々な毛色の種族が居るのに、何故か銀色の毛色の種族は居ないのにゃ」



「今までに一人も?」



「長い歴史の中でも、一人も、にゃ」



そうなんだ。



猫族にとっては特に珍しい色なんだね。



「しかもその瞳の色。黒目にチラチラと散って見える緑色は翡翠の様にも見えるにゃ。もし猫族からこの特徴を持つ者が生まれたら、先祖様の再来だと大騒ぎになるにゃ」



そういって更に顔を覗き込んでくるステラちゃん。



無意識なのだろうか?顔が近い!



「…くっつき過ぎー!ちゅーでもする気かよっー!」



いつの間にか復活した姫ちゃんの手がステラちゃんの頭をガシィと掴み、引き離す。



「え!?あ、ごめんにゃ!!つい夢中になって」



あわあわと顔を真っ赤にさせるステラちゃん。



「いいよ。それともちゅーしたかったの?」



気まずい空気をどうにかしようと、わざとイタズラっぽく笑ってみせる。



「ふにゃ!?い、いや、そんなこと!いや!したくないわけじゃ」



あれ?逆効果かな?

余計にステラちゃんの目が泳いで、両手もブンブン振り回している。



「もういいってばー!あと伊織も!今度円華と一緒にそういうところお説教だからー!」



「…なんで円華ちゃんがここで出てくるの?」



「本人に聞いてみたら一番良く分かるんじゃないかなー?」




頭の中はてなマークだらけの私とは違って、姫ちゃんはそう断言した。



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