25猫の勇者様?
「そんでねー。昨日の夜にパパとママに電話したんだー」
「姫ちゃんのお父さんとお母さんて、確か冒険者だったよね?」
「そだよー。私のスキルの飢餓状態を少しでも軽減出来る方法とか、そういう効果のある魔道具とか探して世界中を冒険してるのー」
確か食堂でそんなこと言ってたね。
「まぁ結局はいい方法は見つからなかったんだけどさー、それでも私の為に色々してくれて、ホントに感謝してるんだよねー」
そういって姫ちゃんが目を細める。
その表情には、両親への感謝や尊敬など、色んな感情が含まれている気がする。
「だから、伊織の魔力のおかげで良くなったかも?って電話したらびっくりしててー、最初は信じてくれなかったくらいだよ!それでビデオ通話にして私の姿を見たら二人とも泣き出しちゃって!…まぁーゆーて私もギャン泣きしたんだけどね?」
てへ、っと笑ってみせる姫ちゃん。
「そしたらその伊織って子にお礼言わないとー!!…ってなって、慌てて帰ってくるみたい!急には無理みたいで来週以降になると思うんだけどー、その時は会ってくれるー?」
「えぇー!?もちろん会うのはいいけど、姫ちゃんの両親なら会ってみたいしね?でもお礼なんていらないよぉ」
「まぁまぁいいからさー♪とりあえず好きな食べ物教えてー♪」
「えーと、ラーメンとグラタンと、…って違うよ!ホントに大袈裟なのじゃなくていいからね?私に出来ることをしただけだし」
「違うし!世界中で多分伊織にしか出来ないことだし!伊織は世界一の魔力を持ってるのに謙虚だよねー。…あとやっぱラーメン好きなんだねー♪」
ホントに大袈裟なのじゃ無くていいからね?っと念を押しておいたけど、果たして聞いてるのかな?
そうこうしてたらバスは学校前に到着。
何人かのラウル生徒達と降りて学校まで姫ちゃんと二人で歩く。
…?なんだか今日は周囲が騒がしい様な?
「…おい、あの銀髪のやつって?」
「あぁ、昨日たった二人で二年生の作ったゴーレム三十体を壊したっていう転入生じゃね?」
「じゃああの隣を歩いてる子がもう一人の?」
「…あんなギャルみたいな子居た?」
…なるほど。
昨日の事がさっそく噂になってるみたい。
ゴーレムを倒せたのはほとんど姫ちゃんのおかげだけど、一応その場に居た二人が、ってことになってるみたい。
「伊織ー、気にしなくていぃよー♪なんにも悪いことしてないしねー。人の噂も750日って言うじゃん?」
「長いよ!75日だよ!750日もあったら三年生になっちゃうよぉ」
「そっかそっかー!75日ならちょー余裕じゃんね!夏休みにはみんな忘れてるよ♪」
「…姫ちゃんのポジティブさから学ぶべき事は多いね」
まぁそうだよね、別に悪いことしたわけじゃないし。
ああいうゴーレムの暴走なんていうのも滅多に起こらないはずだし。
うん、平和に学校生活を過ごして、ちゃんと魔力のコントロールを覚える、しっかりしないとねっ。
何度目かの決意を新たに歩き続け、もうすぐ校門というところまで来た。
するとそこにはまぁまぁの人だかりが出来ていて、私と姫ちゃんが近づくと、みんな一斉にこちらを見出した。
…さっそく嫌な予感がするかも。
「おい!そこのお前!昨日授業で三十体のゴーレムを倒したといのはお前で間違いないにゃ?」
…にゃ?変な語尾の声がした方を見るとそこには一人の女生徒が腕を組み、仁王立ちしていた。
茶色の髪に茶色の大きな瞳。
背は低く、小動物を連想させる。
それよりなにより目を引くのはその頭のついている猫の耳。
猫族の獣人さんかな?初めてみた。
犬族の獣人さんは人間社会に広く溶け込んでいるが、それ以外の種族の獣人さんはそれぞれのコミュニティを築いてあまり人と接触せずに暮らしてるらしい。
…教科書で読んだだけの知識だけどね。
「おい、お前だにゃ!そこの銀髪!私は1年B組!ミア・ナーオ・ステラだにゃ!ゴーレムを易々と倒す力があるというのが本当なのか、私と勝負するにゃ!」
「えーと、1年D組の御門伊織です。すみません、お断りしますね。それじゃ」
手をひらひらーとさせて香奈お姉ちゃんをイメージして通り過ぎる。
「あ、どうもですにゃ。…いやいや待つにゃ!?そこは受けて立つところにゃ!」
ダメでしたー!
手首を掴まれて呼び止められる。
勝負とか言われても無理だし。
「…ちょっと、手を離しなよー」
ステラと名乗った獣人の私の手首を掴む手を姫ちゃんがさらに掴む。
「…相当強いにゃ。お前、名前は?」
「1年D組の夜咲姫、伊織の友達。その手を離せっての『猫の勇者』ちゃん」
「…D組の『腹ペコ姫』かにゃ?前見た時と随分様子が…」
私を掴んでいた手をステラさんが離すと、姫ちゃんもその手を離す。
「勝負とかウチら興味ないからー。そういうのは他でやってよー。じゃね?…行こー?伊織♪」
そういって姫ちゃんが私の腕を組んでステラさんの横を通り過ぎる。
「…ふん、結局はかまってちゃんの自作自演かにゃ」
ステラさんがそう呟く。
それを聞いた姫ちゃんの剣幕が険しくなる。
「…今なんてゆったー?」
「寂しがりの自作自演だって言ったにゃ。転入生が人気者になりたくて授業中に起こした傍迷惑な騒ぎだって噂が一部で流れているにゃ。私と戦えないってことは、そういうことだにゃ?」
ふふん、とステラさんが大きな瞳を細めて息を吐く。
…ちょっとむかつくけどちょっと可愛い。
辺りに集まってた人だかりから更にざわつきが。
「なんだ、やっぱそっちの噂が本当か」
「そりゃ無理だよね、ゴーレム三十体だもん」
「あんな可愛い顔して、結構やらしいことするよな…」
どうやら周りはステラさんが言った事が真実だと思い始めたらしい。
うーん、私の事はいいけど、一緒にいる姫ちゃんにも悪評が立つのは嫌だなぁ。
でも勝負なんて無理だし。
どうしよう?話し合いで解決出来れば…
「…上等じゃん。やってやるよニャンコ勇者様」
「にゃ、ニャンコ?…なにをするのかにゃ?夜咲姫?」
「ちょ、ちょっと姫ちゃん?」
姫ちゃんの金色の瞳が爛々と怒りに燃えている様に輝き、その声には冷たい怒気がこもる。
「ごめんねー、伊織。私の事はいいけど、伊織の悪口はマジ許せないわー」
私だけに聞こえる様な声で姫ちゃんがささやく。
そして息を吸い一呼吸置き、
「ゴーレムをぶっ壊したのは私だよー!伊織は巻き込まれただけだからー!疑うってんなら勝負の後にそこのニャンコ勇者様に聞いてねー♪」
そう大きな声で宣言した!
「ふーん。じゃあ私と勝負するにゃね?夜咲姫?」
「やるってーの。ただし私が勝ったらそのくだらない噂の話すんのマジ禁止だからねー?」
「私に勝てるくらいなら、その噂がウソだってわかるにゃ。勝てればだけどにゃ」
ステラさんの手が光り、その腕を虚空に伸ばす。
すると空間が裂ける様にして、中から剣の柄のような物が出てくる。
それを掴み引き抜くと、その手にはステラさんの身長の半分くらいの剣が握られていた。
「ステラソードにゃ」
ステラソード?自分で名付けたのかな!?か、可愛い!
「勇者の剣てわけー?全然可愛くないー。なんかゴツいしー」
「け、剣に可愛さとかいらないにゃ!」
ステラさんが顔を赤くして地団駄を踏む。
「いや、強く可愛く美しく!見せてあげるよー!私のこのー!」
次は姫ちゃんの両手が光る。
銀色の粒子が集まり、それを掴み引き抜くとその両手には緑の火の粉を撒き散らす銀色の剣が。
「…伊織剣をねー!!」
きゃーーー!!!
対抗心から嫌な名前付けちゃったー!?
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