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24オソロにしたくて

朝、スマホのアラームが鳴る。



さて、今日も一日頑張ろう!



すぅー、すぅー。



…?気合とは裏腹に規則正しい寝息が聞こえる。



その音はとても近く、というか隣から?



そう思って目を擦り、横に顔を向けると…



「…うわ!香奈お姉ちゃん!?」



そこには香奈お姉ちゃんが、何故か下着姿で同じベットで寝ていた!



長い黒髪は絹のように香奈お姉ちゃんの身体を包み、その間から覗く白い肌に、思わず赤面する。



芸術めいた綺麗さに、何かの絵画を連想させる。



「んんー、ふぅ…あら?おはよう伊織ちゃん。いい朝ね」



私の気配に気づき目を覚ました香奈お姉ちゃんは、両手を天井に伸ばして大きく伸びをする。



その動作で、身体に纏わりついていた黒髪がほどけるように離れていき、そのグラマラスな身体つきをあらわにしていく。



ははーん、下着はやっぱり黒ですか。



…じゃなくて!



「な、なんで香奈お姉ちゃんが同じベッドで寝てるの!?」



朝から渾身のつっこみ?が炸裂する。



「昨日シャワー浴びた後寝ようと思ったんだけど、伊織ちゃんの顔が見たくなっちゃって。勝手に部屋に入って御免ね?」



「や、それはいいんですけど」



「それで伊織ちゃんの顔を見てたらなんだか一緒に寝たくなったの。びっくりした?」



「びっくりしますよぉ。それになんでパジャマ着てないんですか?」



「私は寝るときは大体こうなのよ。それに伊織ちゃんの体が温かくて。おかげでよく眠れたわ」



そういってウィンクされちゃったら、もう何も言うことは思いつかなくなった。



「あ、それとオムライス美味しかったわ。ありがとうね」



頭をくしゃくしゃされる。



「美味しかったですか?良かったです!得意なんですよっ」



「そうなのね、また食べたいわ」



「任してくださいっ」



ーーー



顔を洗い、歯を磨き、お弁当を作る。



「あの、香奈お姉ちゃん?」



「なーに?伊織ちゃん」



香奈お姉ちゃんはリビングでコーヒーを飲みながらタブレットを見ていた。



ちなみにもう服は着ている。



「今日はお弁当作っていくんだけど、良かったら香奈お姉ちゃんのも作ろっか?」



「あら!いいの!伊織ちゃん!」



私の提案に香奈お姉ちゃんが声を明るくして返事する。



「一人分も二人分もあんまり手間は変わらないんですよね。それに、その…香奈お姉ちゃんが喜んでくれるなら私も作りたいので」



お料理好きにとっては、喜んで食べてくれるのが何よりの報酬だったりするのだ。



「嬉しいわ。ありがとう伊織ちゃん。憂鬱な会議だらけのスケジュールに楽しみが増えたわね」



そういって香奈お姉ちゃんはタブレットのスケジュール表を開く。



そこにはびっしりと会議のスケジュールが埋まっていたが、12時〜13時の予定を空白にして『伊織ちゃんのお弁当』

と上書きしていた。



「え!?そんな簡単に会議の予定を変更して大丈夫なんですか!?」




「大丈夫よ。潰すのが一時間くらい前倒しになるだけだから」



「え?会議の話ですよね?」



「えぇ。会議の話よ?」



香奈お姉ちゃんが薄く笑う。



なんかあんまり聞いちゃダメっぽいな。



「じゃあその分、頑張って美味しいの作るねっ」



「ありがと。楽しみだわ」




ーーー



「それじゃあ行ってきまーす」



「行ってらっしゃい。気をつけてね」



今日は香奈お姉ちゃんに見送られて登校する。




なんでもトップに立つ人間が毎回早く出社すると、部下はプレッシャーを感じたり恐縮したりするらしい。



だから時々は家で仕事の資料を整理したりしてわざと遅く出社するんだとか。



偉いさんていうのは大変なんだなぁ。



エレベーターを降りて一階のエントランスを出る。



うん、今日もいい天気だな。



バス停まで数分歩く。



「伊織ー!おっはよー!今日も天使過ぎてエグっ」




「あれ?姫ちゃん?なんでここに?」



バス停に到着すると、なんと姫ちゃんが手を振って待っててくれていた。



でも姫ちゃんの家からこっちは逆方向だよね?



「伊織と一緒に学校行きたいからこっちまで来たみたいなー!あ、大丈夫だよー!バスは定期券持ってるからー」



そういってにひひと笑う姫ちゃん。



「もう。嬉しいけどLINEしてよね。待たせちゃったら嫌だし」



「いやーそうなんだけどさー!今日はちょっとサプライズ的なノリでやってみたかったの!どうだった?」



「びっくりしたよ。朝起きたら香奈お姉ちゃんが同じベッドで寝ててさ、今日はもうびっくりするの二回目だよ」



まぁ嫌なびっくりじゃないからいいけどね。



「………」



「…あれ?姫ちゃんどうしたの?」



「…うぅー!負けたー!やっぱスケール違うわー!伊織のお姉ちゃんー!」



なんの勝ち負けなんだろ?



なんだか姫ちゃんは悔しそうにしている。



「ほら、バス来たよ?早く乗ろう?」



少し項垂れる姫ちゃんを引っ張りバスに乗る。



この時間はバス内は混んでないので、楽々と二人並んで座る。



「あ、そうそう見てよー!…じゃーん!」



そういって姫ちゃんが左側の髪を手で持ち上げてみせる。



するとその内側は綺麗な銀色になっていた!



「ひ、姫ちゃんその髪!私そっくり!もしかして私の魔力のせいで!?」



ウソ!?まさかそんな影響が!?



「いや違うしー!これは自分で染めたのっ」



どや&ピース!



自分で染めたんかーいっ!



「昨日ちょっとコンビニ行ってカラー液買ってきたしー!自分でやったんだけど、どーかな?やっぱ伊織みたいに綺麗にはなんなかったけどー!」



「…いや、私的には今のが一番びっくりしたけど」



思わずバスの中でおっきい声出しちゃったし。




「あははっ!基本ノリと勢いだしねー!美容室予約しよーと思ったんだけどー、どうしても昨日にしたかったんだー!…それでー?どうこれ?」



「私より似合ってるよ。でもいいの?元々綺麗な黒髪だったのに」



ツヤのある黒髪には憧れるから、少しもったいない気がする。



「いいのいいのー!私がこの世界で一番好きな色だからねー」



「…もう、飽きたって言ったら怒るからね」



自分のクリンクリンの銀髪をいじいじ。



この髪のことを言われると一番照れる。



「大丈夫。絶対飽きないから」



自分の銀色に染まった髪を見ながら、姫ちゃんは満足そうにそう呟く。



「…そんなに気に入ったなら、全部染めようとは思わなかったの?」



ノリと勢いの姫ちゃんならやりそうだけど。




「…いや、伊織のその髪を見た後でそれをする勇気のあるやつ居ないと思うわー」



「?そうかな?割と銀色に染めてる人居ると思うけど?」



「その人達は伊織を知らないから出来るのー!これでも結構勇気いったんだからねー!しかも伊織の横を歩くんだから余計だしっ」



そういうもんかな?



地毛と染めた色とじゃ、そういう感覚が違うのかもね。




「まぁとにかくオソロに出来たし満足満足ー!」




「それなら私も黒色に染めてみよーかな?イメチェンてやつ?」



「絶対だーめ!可愛いとは思うけど今の方がいいに決まってるしっ」



「えぇー?わかんないよ?姫ちゃんや香奈お姉ちゃんみたいなのにも憧れるし」



「…ちょっと待っててねー?」



そういって姫ちゃんがスマホを取り出し、LINEを起動する。



「もしもし円華ー?いきなりゴメンねー!…うん、伊織の事なんだけどー?なんかいきなり黒髪に染めるとか言い出してー。…え?伊織と代われってー?りょーかーい」



そういって、はいっとスマホを渡される。



てゆーかいつの間にLINEを交換してたんだろ?



「はいもしもし伊織だよ。円華ちゃんいきな…」

『絶対ダメだからなっ!伊織の銀髪はホントに特別だっていつも言ってるだろ!?もしケチつけてくる奴が居たら教えてくれ、平和的に話つけるからっ!』



…電話に出た瞬間に捲し立てられた。



そんなに銀色以外似合いそうに無いかな?ちょっとへこむ。



「はい、代わってねー。あ、円華ー?うん、大丈夫させないからー。…うん、私からも言っとくしー。…うん、またなんかあったらよろしくねー!はーい…」



そういって姫ちゃんが通話を切る。



「さてとー、それでねー伊織ー。黒髪に染めたいって話なんだけどー?」



「もぅわかったってばぁ!染めないよ!ずっとありのままの伊織で居ますっ」



友達二人からそこまで言われてやろうとは思わない。



…まぁ帰ってこそっと香奈お姉ちゃんにも相談してみようかな?



「…あと多分香奈さんに相談しても一緒だと思うよー?」



「姫ちゃんはエスパーなのかな?」



「いや誰でもわかるんじゃないー?」



そういってジト目で見られる。



ピロンッ



スマホにLINEの通知が。



相手は円華ちゃんで、内容は、



『香奈さんに相談しても多分一緒だぞ』



みんなエスパーなのかな?







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