02大人の女性はずるい
それからは騒然とした半日だった。
個人の魔力量は魔法省で管理する事になっているそうで、測定してライセンスカードを貰って20分程した頃、役所の表玄関に黒塗りの高級車が止まって、中からスーツを着込んだ長身の美女が降りてきた。
凄く綺麗な女の人。
キャリアウーマンて感じ?
20代後半くらいかな?
「えーと、貴方がもしかして?」
見惚れていると声をかけられた。
「あ、はい。御門伊織と言います」
「…可愛わね!お人形さんみたい。あ、御免なさいね?私の名前は沢村香奈。魔法省に勤めているわ。隣の貴方が保護者かしら?」
そういって隣に立っている先生に名刺を渡した。
優しい笑みが特徴の先生だが、まだ先ほどのショックを引きずっているのか、すこし口の端がピクピクしている。
「あ、はい、はじめまして。この子が住むメイリー孤児院で先生をしています。宮木真矢と言います」
「存じております。ここへ来るまでの間、車の中で簡単にですが調べさせて頂きました。聖女ユイ様の寄付で建てられた孤児院ですね?」
「その通りです。孤児院の設立だけでは無く時々聖女様から美味しいご馳走や子供達へのプレゼントも届きます。本当に、ユイ様は聖女の中の聖女様です」
「我が国が世界へ誇れる聖女様ですからね、あの方は」
2人の大人がなんとも誇らしい顔で語っている。
この国に住む女性で聖女ユイ様に憧れを持たない人は居ないだろう。
強く、正しく、美しく、その上慈悲深く優しい。
私も結構なファンである。帰ったら新約聖女伝を読もう。早く新刊出ないかなー?
「すみません、脱線しました」
「いえ、こちらこそ!そ、それで魔法省の方がどういった用件でしょうか?」
「もちろん、御門伊織様の魔力計測結果についてです。ここではあれなので、少し移動してもよろしいでしょうか?魔法省にて使用してない会議室を押さえております。もちろん、先生もご一緒に」
「えーと、伊織?大丈夫?すこしお話しを聞きに行きましょう?」
「魔力計測器の故障の事でしょう?あの、弁償とか、そーゆーのですかねー?」
私の言葉に沢村さんはすこし目を丸くし、堪えきれないといった様子で吹き出した。
「ご、御免なさいねっ、あ、あんまりにも可愛い事を言われたからつい。あははっ弁償とかは無いから安心してね?」
むぅ。
ふつーあんな壊れ方したら弁償かなーって思うし。
「わかりましたーじゃあお話しを聞かせて頂きますー。行こう、先生?」
「こ、こら、伊織!すみません沢村さん!」
「いえ、今のは私が悪かったですし。御免なさい、拗ねないで?伊織ちゃん」
…いつのまにかちゃん付けですよー。
仕事の出来る風キャリアウーマンが気さくに距離をつめてくると不快感よりも親近感が勝っちゃう。
ずるい!大人の女はずるい!
足早に表玄関を出ると黒塗りの車の前には運転手が待っており、私がちかずくとうやうやしく礼をしてくれた。
「どうぞ、お乗りください」
「あ、ありがとうございます」
ぷりぷりしていたけど、改めて高級車を前にしてたじろぐ。
弁償じゃなかったらなんなんだろー?
すこし緊張する。
高級車の椅子は車のものとは思えないほどのクッション性で、沈み過ぎてふんぞり返りそうになるのを堪える。
隣に先生が乗り込み、助手席に沢村さん、それから運転手さんが乗り込んで車が走り出す。
「魔法省はここから30分程で着きます。だから伊織ちゃん?」
「…はい?」
「楽にして頂戴ね?」
「お気遣いありがとうございますっ」
にまーっと妖艶な笑みである。
…良いでしょう。目的地に着くのが先か、私の足腰が立たなくなるのが先か、目に物見せてあげるっ。
…
……
………8分後、私は車のソファに腰を深く沈め、腕を組んでふんぞり返っていた。
「沢村さん、何でしょうか?」
「いえ、特に何もありませんわ。私の事は香奈って呼んで頂戴ね?先生、伊織ちゃん、可愛いですね」
「そうですね、うちの自慢の子ですよ」
2人の会話に耳まで熱くなるのを感じて俯く。
…そういえば私、運動全般苦手でしたー。
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