19大人を舐めたらダメ
「そう!異常魔力の正体は伊織ちゃんの使ったリヴィールの魔法で間違いなかったのね!偉いわ」
説明を聞いた香奈お姉ちゃんは私の頭をくしゃくしゃと撫でて満面の笑みを浮かべている。
…え?そこ?
「香奈お姉ちゃん?ゴーレムの暴走を調べに来たんじゃ?」
「そんな訳ないじゃなーい」
手をひらひらとさせて大袈裟におどけてみせる。
「私達魔法省はこの学校の第一演習場で発生した異常魔力を感知して調べに来ただけよ。もう凄いんだから。伊織ちゃんを中心に半径100m以内の高感度魔力センサーが制御不能状態。全部取り替えないとダメね」
「ご、ごめんなさい」
「弁償とか、気にしなくていいからね?」
そういっていたずらっぽくウィンクされる。
そうはいっても最近物を壊すことが多くて、すこしへこむ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
私と香奈お姉ちゃんの会話に割り込む怒声。
もちろん中本君だ。
「…何かしら?」
すぅ…と香奈お姉ちゃんが無表情になる。
あれ?何か怒ってる?
「どうしてそいつの証言を一方的に信じるんだ!俺を含めて、違う事を言ってるやつが大勢いるんだぞ!姉妹だかなんだか知らねーが、身内贔屓かよっ!」
「そ、そうよ!私達は見たんだからね!?」
「春樹君の言う通りだ!そいつの言うことはでデタラメだぞっ」
席を切った様に騒ぎ出す中本一派。
「…うるさいわね」
その喧騒を一言でかき消す、静かで鋭い声音。
「ゴーレムに予備魔力コアを装着、無線リンクを通じて遠隔操作、学生の考えそうなお遊戯なんてネタがあがってんのよ」
「!?」
中本君達の顔が驚愕に満ちている。
え?図星?
「それにね?ほら?」
そういって従者の一人からタブレットを渡される。
タップすると、上空からの映像が映し出される。
…あ、これさっきの姫ちゃんが戦っている時の動画だ。
「魔法省所有の衛星カメラで、この国で起こった異常事態はすぐに監視出来るのよ。…ほら?よく映っているでしょ?何もしない貴方達と、懸命に戦う夜咲姫の姿が」
「…ぐっ!そ、そんなの…!」
中本君が怒りと羞恥で顔を真っ赤にさせている。
「まだ何か言いたいことがあるなら、昨日の放課後から深夜にかけて、ゴーレムを保管していた場所の監視カメラの映像を再生してもいいのよ?…ねぇ、何時くらいが怪しいと思う?」
そういって香奈お姉ちゃんは薄く笑う。
中本君達はさっきまでの激昂が嘘の様に目を泳がせて、顔を真っ青にしている。
冷や汗もすごい!
「言いたいことがあるならどうぞ?ただし、魔法省の取り調べに対して虚偽の発言をした場合は未成年だろうと例外なく処罰の対象になるから。息子さんが一流魔法養成学校を退学したと聞いたら、苦労してようやくAランク冒険者になったお父様はさぞ悲しむでしょうね?」
「な!?なんで親父の事を知って!?」
もう中本君は泣き出す寸前だ。
少し可哀想かも?
「だからさぁ」
そういってコツ…コツ…と香奈お姉ちゃんが中本君の席まで歩いて行く。
静か過ぎる教室に香奈お姉ちゃんのヒールの音が響く。
誰もこの静寂を破ることが出来ず、香奈お姉ちゃんの動きを追うことしか出来ない。
視線は定まらず、冷や汗でぐっしょりになった中本君の顔に近づき、耳元に口を近づける香奈お姉ちゃん。
そして聞いた物を切り裂く様な声音で、
「あんまり大人を舐めるなよ?それと次にうちの妹に手を出したら後悔させるからな?」
…中本君にトドメをさした。
もはや半分白目を向いて首をガクガクと縦に振っている。
「…返事は?」
「は、はい!わかりましたっ!」
「それで?何か言いたい事があったのかしら?」
「い、いえ!!何もありません!!勘違いでしたぁぁ!」
「そう、調査への協力、感謝するわ」
そういって壇上まで戻っていく。
後に残されたのは氷漬けにされたようなクラスメート達。
「あとの調査は先生達とするから、今日はありがとう。突然の訪問、御免なさいね?…教頭先生、いきましょう」
「は、はい!応接間に案内します!!」
そう言って香奈お姉ちゃんは教頭先生の後を歩く。
そして教室を出る前に、
「あ、伊織ちゃん、帰る時間わかったら連絡するから、遅いようなら先に寝といてね?」
「うん、香奈お姉ちゃん」
いつのものように手をひらひらとさせて、教室を出て行った。
「………」
「………」
壮絶な顔で黙り込む中本君一派、後ろめたいことがあるのだろうか、悲壮感に満ち溢れている。
「伊織のねーちゃん、マジかっこいいんですけど?」
「自慢のお姉ちゃんだからね」
一時はピンチに陥ったけど、まさかのお姉ちゃん登場で大逆転出来た。
ちなみに担任の岩井先生は、香奈お姉ちゃんに黙れと言われてから一言も喋らなかった。




