17すんすんするは我にあり
なんだ!?
何が起こってるんだ!?
生意気な転入生と特別扱いされてるムカつく同級生、その両方を同時に言いなりにするために、二年生の先輩に頼んで、ゴーレムにほんの少し細工をした。
別に殺すつもりなんか無かった。
ちょっと怖い目を見て、ちょっと痛い目をみたら停止コードを使ってゴーレムの動きを止める手筈だった。
はずだったのに、御門から溢れた桁違いの魔力の波動で全てのゴーレムとの無線リンクがぶっ壊れた。
やばい、暴走する!…と思ったら御門の魔力を文字通り食べて謎の超強化を果たした夜咲が瞬く間に全てのゴーレムを破壊した。
そして今、夜咲が俺の元へゆっくりと歩いて来ている。
大丈夫だ、俺がやった証拠はない。
無線リンクは文字通り、跡形もなく吹き飛んでる。
いつも通り、堂々としてれば問題ない。
ーーー
「おう!やるじゃねぇか、びっくりしたぜ。助けはいらなかっ…」
「うるせーよーっ」
中本君が何か言い切る前に、姫ちゃんが今度は銀色の槍を作り出して、倒れてる中本君の股らへんに投げつけた。
ヴォンッと音がして地面に突き刺さる槍に、中本君は小さくヒィィっと悲鳴を上げる。
「しょーもないことしてくれたねー、中本ー。何かゴーレムに細工したんじゃないのー?」
「し、知らんぞ俺は!故障か何かだろ?それとも俺がやった証拠でもあるのか!?」
「せんせーが離れたタイミングと私らが囲まれた時の態度考えたら、あんた以外に考えられないんだけどー?」
「ふん、それでも証拠が無いだろう!それにあの時はああ言っただけで、隙を見て助けようと思っていたさ」
「…あっそー。めんどくさいし、もういいやー」
そういって今度は右手に銀色の魔力を集めて、そのまま纏う。
「ちょ、ちょっとまて夜咲!冷静になれよっ」
姫ちゃんの右手には緑の火の粉を撒き散らす銀色のガントレットが。
「私はともかくねー、伊織を危険に巻き込んだ事にマジでキレてるからー。さぁー!歯ぁくいしばってー!」
そういって右手をグルングルン振り回している。
「ひ、姫ちゃん、もういいよ。二人無事だったんだし、ほんとに中本君がやったとかわかんないしさ」
「それほんとに言ってるー?伊織の優しさはこいつなんかには勿体ないってー。案外ちょっと痛い目にあった方がこいつの為になったりする…」
「おい!これは一体どうなってるんだー!?」
ちょうどそこで先生が生徒の一人に連れられて演習場まで戻ってきた。
「せ、先生ー!!」
中本君は先生を見るなり、立ち上がって走り寄っていく。
「…ちっ」
姫ちゃんは残念そうに拳に纏っていた魔力を消した。
…良かった、本気で殴るかと思ったよぅ。
「もう、姫ちゃん!ほんとにするつもりじゃ無かったでしょーね?」
「だ、だって!伊織を怖い目に合わせたんだし、一発くらいい別によくない?」
「ダメです!中本君、ホントに歯を食いしばってたら今頃総入れ歯でした。姫ちゃん、中本君の入れ歯代払うのやでしょ?」
「うっ!なんか治療費って言われるよりヤダな、それー」
「姫ちゃんが私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、それで退学とかになったら、離れ離れになっちゃうよ!それでもいいの?」
「ううっ、それはーかなり嫌かもー。てか想像したら無理過ぎるー」
「そうでしょ?姫ちゃん一緒にいよって言ったよね?」
「…うん、…言ったー」
姫ちゃんが金色の瞳を潤ませて俯く。
その頭をポンポンと撫でてあげて、抱きしめてあげる。
「だったら、私から離れないでよ。ねっ?」
「…やばい。マジになっちゃう。…てか私、もう惚れてんじゃね?」
胸の中で姫ちゃんが耳まで真っ赤にしてぶつぶつ言ってる。
子供扱いは嫌かな?
そう思って離してあげると、姫ちゃんは少し残念そうな顔をしていた。
「私は大丈夫だから。それより姫ちゃん、私の魔力?食べてからなんか凄いね。強いし、カッコ良かったよっ」
「そ、そうかなー?カッコ良かったー?スキル使うの久々だったからー、ちょっと心配だったんだけどー、割と場面でどーにかなるよねー!」
「スキル?アレが姫ちゃんのスキルなんだ?」
「そうなんだー。そういえば伊織にまだ見せてなかったねー。…これ、はい」
そういって姫ちゃんはポケットから何かを取り出す。
手のひらに乗るサイズのカード、ライセンスカードだ。
「見てもいいの?」
「当たり前だしっー!伊織なら全然オッケーだよ!」
姫ちゃんが満面の笑みで手でOKを作ってくれる。
それじゃあ遠慮なく。
そういえば人のライセンスカード見るの初めてかも?
そこには、
夜咲姫
スキル SSランク『暴食神の権能』
得意魔法 無し
潜在魔力 Dランク
…と書かれていた。
SSランク?
「SSランクってあるんだね?Sランクが一番上だと思ってた」
「それを言うなら伊織だって計測不能じゃん。おそろじゃんね」
…まぁ確かに何事にも例外はあるよね。
「おい、おまえらー!授業はいったん中止だー!更衣室で着替えて、教室に戻りなさい!そこで話を聞く!」
話し込んでいると、中本君たちに事情を聞いていた先生が、そんな事を叫んだ。
「とりあえず着替えにいこー!久々に動いて汗かいたし!…ってやば!私今くさいかも!?ちょっと伊織、離れて?誰かスプレー持ってないー!?」
「えぇー?大丈夫だよ?姫ちゃんいい匂いするし。すんすん」
「あ。ちょっと!すんすんしないで!ホントだめだってば!」
ふん、普段人の匂いをどうこう言うお返しじゃ!
日頃の仕返しだー!
と意気込んで逃げる姫ちゃんを追いかけたけど、更衣室まで一度も追いつく事は無かった。
…そういえば私、運動苦手だった。
更衣室に着く頃には私のほうが汗だくになっていて、結果姫ちゃんにすんすんされながら追いかけまわされた。




