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16姫ちゃん無双

「気をつけてねっ。姫ちゃん」



「わかってるってー!伊織こそ、あんまし離れないでよー?」



「うんっ」



そういって姫ちゃんは自然な足取りでゆっくり歩き出す。



当然、正面から来ていたウッドゴーレムがその腕を横一文字に振り抜く。



風を切る音と共にそれが姫ちゃんに迫る!…が、



…ガシィ!と姫ちゃんが片手で掴み取る。



「うげー!手触りざらざらで最悪ー!…よっとっ!!」



メキメキと掴んだ腕をそのまま握り潰した!?



そのまま掴んだ腕を手前にぐんと引っ張り、体勢が崩れたウッドゴーレムの膝を今度は蹴り潰す。



それも凄い音がして、片脚を無くしたウッドゴーレムが前のめりに倒れる。



「まず一体目ー!!」



そしてあいてる方の腕で拳を握り、ゴーレムの顔目掛けて叩き込んだ。



…もうなんか耳を覆いたくなるような音がして、ウッドゴーレムの頭は吹き飛び、完全にその動きを止めた。



…え?姫ちゃんめちゃくちゃ強いんですけど?



今日、ずっと授業でいろんな生徒の戦いを見ていたが、誰よりも早く、誰よりも圧倒的で、尚且つ一人でゴーレムを倒している。



「さてさてー!伊織が怪我しちゃ萎えだし、早く片付けちゃわないとねー!」



そういって姫ちゃんは両手を前に突き出し、手のひらを開く。



すると一瞬姫ちゃんの身体が光り、その光は流れるように姫ちゃんの開いた手のひらに集まる。



それをグッと掴み、真横に腕を振り抜くと、姫ちゃんの両手には銀色の剣のようなモノが、緑色の火の粉を撒き散らしながら握られていた。



…なにそれカッコいい!!



「やばやばー!!超綺麗なんですけど!伊織の魔力使ってるからかなー!?」



姫ちゃんが目をキラキラさせながら両腕をブンブン振り回している。



あ、危ないよっ。



「そうなの?確かにさっきリヴィールで出した玉と似てるかも?」



「ねぇー!写メ撮ってよー!?」



「うぇぇ!?今スマホ持ってないよ!?」



「…ゆーて私も持ってなかったー。ぴえん。後でもっかいやろーっと」



しゅん、と肩を落とした姫ちゃん。



その背後にストーンゴーレムが!



危ないっ!…って叫ぼうとしたけど、姫ちゃんは振り返りざまに片手の剣を縦に振り抜いた。



腕の動きに一瞬遅れるようにしなる、その光の軌跡はストーンゴーレムの頭から胴体を抜けて、股下まで貫通しても勢い衰えず、ドォンと地面をえぐる。



…うん。写メ撮るくらいで使うの禁止だねっ。



そこからは姫ちゃん無双だった。



近寄ってくるゴーレムを両手の剣で一閃。



めちゃくちゃに振り回してるようだけど、不思議と銀色の剣は姫ちゃんの身体を傷付ける事はないみたい。



「これでー、最後ー!っと!」



両手の剣を離れたアイアンゴーレムに投げつける。



それは深々と胴体に突き刺さり、アイアンゴーレムは火花を散らしながら動きを止める。



…あれだけ居たゴーレムはものの数分で壊滅してた。



あまりの光景に言葉を失う。



…ガシャン、ガシャン!



ん?倒れたゴーレムの後ろから、もう一体アイアンゴーレムが歩いてきてた。



まだ居たんだ。



「もぉー!空気読んでってばー!終わりムードでキメたんだから動くなっつーのっ」



両手を腰に当ててぷくっと頬を膨らませる姫ちゃん。



可愛い仕草に、さっきまで暴れてた姿を忘れそうになる。



「まぁいっかー。運動後のデザートね」



運動後のデザート?どういう状況?



そんな事を思ってると、姫ちゃんは今度は片手を前に突き出し、手を開く。



また剣を出すのかな?と思ってると今度は金色の光が姫ちゃんの手のひらの中に集まる。



金色の光は姫ちゃん自身の魔力なのかな?



そのまま手のひらをかざすと今度はアイアンゴーレムの頭を中心に、金色の球状の光が現れる。



「いっただっきまーすー」



そういって手のひらをぐっと掴むと、金色の球状と一緒に、アイアンゴーレムの身体が消え去った。



ぼとぼと、っと光の球状部分からはみ出していたアイアンゴーレムだった部品が地面に落ちる。



「うげー!まずいっ!けどごちそうさまでしたっ」



…もうツッコミどころ満載で、なにがなにやら。



とりあえず、姫ちゃんのお陰で助かったみたい。



「姫ちゃん、ありがとう!おかげで助かったよ」



そう言うと姫ちゃんはバッと振り返ってまた抱きついてきた。



むにゅっ。



ははーん、さては姫ちゃん巨乳だな?



「何言ってんのー!ありがとうとかこっちのセリフだしー!もうホント嬉しいんだからー!」



改めて姫ちゃんの顔を覗き込む。



ホントに、昨日までの姿と比べるとまるで別人の様にお肌つやつやすべすべ。



まぁ痩せ過ぎてただけで、これが本来の姫ちゃんなんだろうな。



ついでに饒舌で明るくて口調も、なんだか…



「姫ちゃんって、いわゆる、ギャル…みたいな?」



「そーだねー、こーなる前はバリバリのギャルだったよー。ゆーて中学二年生くらい?まぁ、これが元々の私みたいなー」



こうなる、とは痩せる前かな?



自分でギャルとかはっずー!とか言いながら頭をかいてる姫ちゃん。



「あー、えーとさー、なんてゆーかー、伊織的にはさー?」



急に声が小さくなる姫ちゃん。



「うん?」



「そのー、ギャルとか、…苦手だったりするのかなー?って」



そういって、不安そうにこっちを伺っている。



さっきまでゴーレムの大群相手に仁王立ちしてた姿がウソみたい。



「別に苦手じゃないよ。周りに居ないタイプだったけど、姫ちゃんは姫ちゃんじゃない」



「そ、そっかなー。あ、ありがとう」



「そうだよ。言ったじゃない?白い肌も、綺麗な瞳も、姫ちゃんだって。ギャルでもヤンキーでも変わらないよ」



「!?」



「…?どうしたの?姫ちゃん?」



いきなり動きをとめて、大きな瞳をいっぱい見開き、私を写す。



「うえーん!嬉しいよー!伊織大好きー!!」



そういって今日何度目かのハグをされる。



「わ、私も好きだよ!…ちょっと、力強いってばっ」



「あ、ごめんごめん!」



慌てて姫ちゃんが離れる。



…ちょっと力加減を覚えて貰わないと。



そう思ってると足元に腕を握り潰されたウッドゴーレムが転がっていて、無いはずの目が合った気がした。



…あなたは自業自得だからねっ。



動かないウッドゴーレムに心の中で怒声を放つ。



「…さーてとー。伊織ー。私中本に話があるからちょっと行ってくるねー。先生が来たら保健室に空きのベッドあるか聞いといてよー?」



さっきまでの表情とは一変。



姫ちゃんの綺麗な顔が憤怒に染まっている。



金色の瞳には怒りの炎が透けて見える様に。



「ひ、姫ちゃん、あんまし手荒なのはダメだよ?」



「大丈夫だってー。くそ不味そうだから頼まれたって食べないしー」



「食べ!?い、いや真っ二つも、へし折るのもダメだからね?ちょっと聞いてるっ!?」



遠くで腰を抜かしている中本君に一直線に向かっていく姫ちゃんを慌てて追いかける。




急なバトル展開!?

中本君の運命やいかに!?

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