15食べていい?
「ぐぁぁあー!!っくそ!いってぇよ!!」
突然聞こえた叫び声に私と姫ちゃんは視線を写す。
「おい!大丈夫か!?」
真っ先に反応した中本春樹君が倒れた男の元に駆けつける。
…この人こんなキャラだっけ?
「おい、どうした?怪我でもしたのか!?」
担任の先生も走って倒れた生徒の元へ。
「すみません、先生…ちょっとゴーレム強すぎて、やられちゃいました!」
そういう生徒の背後には腕を振りかざした状態のゴーレムが。
「アイアンゴーレムか。十分な対策を取らないと危険だと言っただろ?」
「ははっ、やっぱ春樹君みたいにはいかないや」
「おいおい、カッコつけるなよ!俺に言えばいつでも手伝ってやるんだからよ」
…なんだろ?
ベタな青春漫画みたいな展開になってるよ?
「先生、一応こいつの怪我は俺が回復魔法をかけましたが、もしかしたらアイアンゴーレム相手だと骨が折れてるかも。保健室に行かしてもいいですかね?」
「あぁ、もちろんだ中本。流石は模範生だなっ!それじゃあ中本がこいつを保健室に…いや、ちょっと待てよ。保健室の先生は今日は二年生の授業に付随してるんだったな…」
一瞬だけ、中本君がニヤリっと笑った気がする。
「よし、先生が連れて行くから、その間お前たちは自習してろ。すぐに戻ってくるからな!下手な事をしないように!」
そういって倒れた生徒の肩を持って先生が行ってしまった。
「…大丈夫かな?あの人」
ポツリと漏らす。
「…いや、なんつーか芝居臭いよねー?普通1人でアイアンゴーレム相手にしようとか思わないってー」
「そうなの?」
「特に中本周辺の奴らは格上の相手は嫌がるからねー。やって岩ゴーレムくらいっしょー」
なんか嫌な予感するなー、と姫ちゃんが呟く。
「嫌な予感って…」
どんな?と聞こうとしたら。
「あれ?このゴーレム勝手に動いてない?」
「誰か魔力注入したのか?」
生徒の一人がウッドゴーレムの一体を指差す。
…うん、確かに歩いてる。
授業で使うゴーレムは確か魔力を供給しないと動かない、安心安全設計だよー、とか姫ちゃん言ってたのに。
ウッドゴーレムは自然な動きで私の前まで歩いて来ている。
…うん?私の前まで?
気づけばほんの数メートルの距離までウッドゴーレムが迫ってた。
「あ、えーとこんにちは。何か用ですか?」
私が声をかけるとウッドゴーレムは右手を上にあげる。
「あ、どうも」
つられて私も右手をあげる。
その瞬間、姫ちゃんに半ば突進されるように突き飛ばされた。
「なにやってんのさー!逃げるよー!?」
倒れたまま見ると、私の元居た場所には拳を振り下ろしたウッドゴーレムの姿が。
え?なんで?私を狙ったの?
「あのゴーレムー!壊れてんじゃないのー?とにかく伊織ー!一旦この場から離れて…」
姫ちゃんが言葉に詰まる。
どうしたんだろ?
そう思って起き上がり周囲を見ると、
「…うそぉ」
いつのまにか私たちを取り囲むようにウッド、ストーン、アイアンの大小様々なゴーレムが集まってきている。
「なになに?姫ちゃん、どゆこと?」
「…わかんないー。魔力が入ってないはずのゴーレムも一斉にこっち向かってくるしー!ちょっと!誰かー!」
姫ちゃんの声が響く。
「どうしたんだ?夜咲、御門?」
中本君がゴーレムの円の外から声をかける。
「どーしたじゃねーし!見てわかんでしょー?助けなさいよー!」
「ふん、なるほどな」
中本君が顎に手を当てて周囲を見る。
「御門。自分の潜在魔力を証明したかったんだろうが、こんなに沢山のゴーレムを一度に起動すると、こうなる。次からは気をつけるんだな」
「はあぁぁぁぁー!?」
姫ちゃんが絶叫する。
「え?違いますよ、私!ずっとみんなの事見学してたから、何もして無いし!」
「まぁそれはともかくだ。御門、お前が俺のものになるなら、助けてやってもいいぞ」
「…ほんとおまえってクズだわー。なんか細工したんだろー?」
「夜咲、おまえはいらんから、そこでゴーレムの相手でもしてろ」
姫ちゃんの顔が怒りに染まる。
ギリッ…と奥歯を噛む音が聞こえるようだ。
「…私が中本君の言うことを聞けば、姫ちゃんも助けてくれる?」
「伊織!ダメ!」
「残念ながら、助けてやれるのは一人だけだな。この数だと俺たちでもきついしな」
「…そっか。ならいいや。姫ちゃんと一緒じゃないと意味ないから。…誰かー!助けてー!それが無理なら先生を呼びに行ってー!」
私の声を聞いてハッとなったように、何人かの生徒が校舎に走っていく。
良かった、まともな人もいるんだね。
「…ほんと、馬鹿な奴ら。言ったろ?後悔するってな」
担任の先生も居ないこの状況。
間違いなくはめられたみたい。
「…ごめんね、姫ちゃん。私のせいで」
「いいから!今そーゆーのは!伊織だけでも助けて貰ってもよかったのにー!」
「はは、中本君のものになるくらいなら、今の状況の方がまだ救いがあるかも」
「…ぷっははー!言えてる!やっぱ伊織最高だわー!」
姫ちゃんが堪えきれないという風に笑う。
「ほんと、最高の友達じゃんねー。…ねぇ、伊織。お願いがあるんだけど」
「なぁに?今なら大体のこと聞いちゃうよ」
グッと親指を立てて笑って見せる。
そうしているうちにどんどんとゴーレム達が迫ってくる。
動きは遅いが、質量が凄い。
合間をぬって逃げるのも無理っぽい。
「…あのさー、伊織の魔力をさぁー。…ちょっと食べさせて?」
「…へ?」
どゆことだろ?今は冗談を言ってる場合じゃないと思うけど!
「説明は後でするからー!なんでもいいから魔法使って!」
切羽詰まった様子の姫ちゃん。
「ま、魔法なんて使ったことなくて…」
「リヴィール!!」
「り…ゔぃー?」
「自分の体内から魔力を取り出す、超基礎魔法!ほら、手を前に出して、やってみてー!」
見ると最初に、私達を襲ってきたウッドゴーレムが目の前まで迫っている。
目の無い顔は私を捉えている気がした。
やってやる!
胸の前に両手を突き出す。
「リヴィールッ!!」
その瞬間、今まで感じたことない感覚が身体を駆け抜ける。
一瞬、燃える様な熱を感じたと思ったら、何かが身体から抜ける様な喪失感。
掌から光が漏れる。
物凄い光なのに、不思議と眩しくない。
光が収まっていくと、銀色の光の球体が緑色の火の粉を散らしながら掌に収まっていた。
…出来た…のかな?
「ひ、姫ちゃん、出来たかな!?これをどうするの?」
「………」
さっきまで必死だった姫ちゃんが目を見開いて呆然としてる。
「姫ちゃん?姫ちゃんってばー!?」
こんな時に惚けないで!
「…いやいや、マジで?伊織の魔力、凄すぎないー?」
そう言って姫ちゃんが周囲を見渡すと。
「…へ?」
そこには火花を散らしながら動きを止めてるゴーレム達が。
何があったの!?
「伊織の魔力があまりにも強すぎてー、近くに居たゴーレムはその波動で壊れちゃった…のかな?…いやはじめて見るし知らんけどー!」
そんなことあるのー!?
姫ちゃんも初めて見た様で困惑気味。
「何っ!?今の?超級魔法!?」
「うっ、気持ち悪い。魔力の波動モロに受けた…」
「やだー!私の武器の魔石壊れてるんだけどー!?」
…なんかゴーレムの円の外も騒がしい。
いけないいけない。
確かに近くに居たゴーレム達は壊れてるけど、
それでもまだ2〜30体ほどのゴーレムがまだ私達を囲んでいる。
倒れたゴーレムを踏みつぶしながら歩いて来る姿にはゾッとするものがある。
この後どうしたら?
そう思って姫ちゃんを見ると、
「…いい匂いー。ねぇ、我慢出来ない。食べていいー?」
私の目の前までフラフラと歩いてきていた。
「へっ!?な、なにを?」
「こーれ、食べていいー?」
姫ちゃんが私の掌に収まっている魔力の塊を指差して言う。
「い、いいけど、お腹壊さない?」
「大丈夫ー。伊織のだからー、いただきます」
そういって姫ちゃんは小さな口で魔力の玉をはむり。
…なんか肉まん食べてるみたい。
はむっ、はむはむっ、はむりはむりはむり!
一心不乱に食べる姫ちゃん。
姫ちゃんが口を動かす度に、姫ちゃんに変化が!
姫ちゃんの身体が、大っきくなってる!!
成長してるっていうのかな?ガリガリだった手足は程よいお肉が付き、お肌もボサボサだった黒髪も艶々に。
ぱくん、ごくり。
私の魔力を食べ終わった時、目の前には美少女が居た。
肉付きがいいけど引き締まった身体、意志の強さを感じる、黄金色の瞳。
そこに居たのはまるで別人みたいになった姫ちゃんだった。
「ひ、姫ちゃん?大丈夫?…なんかすごい成長したね?」
恐る恐る声をかけると、
「…ふふ」
「…?」
「あは、マジかよー!お腹いっぱいなんですけどー!!ヤバイまじ最高ー!マジで泣けるー!」
急な大声にびっくりする。
そして私の両手をガシィと掴む。
「伊織ー!!ほんとマジでありがとうー!お腹いっぱいなれるなんて思ってもなかってっ!マジ天使ー!ほんと愛してるー!」
ぎゅうー!と抱きしめられる。
歩くだけでフラフラだったとは思えない程の力強さだ。
「ねぇー!伊織ー!」
「なぁに?」
「私とずっと一緒に居ようー!絶対楽しいよ、ウチら二人だったらさー!そんでさー!伊織さえ良かったらさ!また食べさしてよー!」
「い、いいけど。友達だしね、でもそれより先に、これ?」
周囲のゴーレムを指差す。
「…あー、忘れてたわー。マジ空気読めよなこいつらー。今は私と伊織のターンだしねー。まぁとりあえず、全部ぶっ壊すかなー?」
割とピンチだと思うけど、忘れてたの?
抱きついていた姫ちゃんは私を守る様に前に出て、両腕を組み仁王立ちする。
…た、頼もしい。
そこにさっきまでの姫ちゃんの面影は無かった。
ようやく、食べました!
はむっ!




