14陰謀
魔導ゴーレム。
術式を施した魔法石をコアにして、物質を動かす技術だそうだ。
ゴーレムの素材は土や木、金属と様々で、ボディに色々回路を通したり、複雑なプログラムを組み込む事で多様性を持たせる事が出来る。
…まぁよーするに魔法で作ったロボットだねっ。
この学校では二年生が授業や部活で作ったゴーレムを一年生の授業で使うことがよくあるらしい。
一年生は擬似的な戦闘訓練になるし、二年生は実際の戦闘データを取れるしとWIN-WINの関係という事だ。
「さて、姫ちゃん。…まずはどーしようか?」
「とりあえずー、他の人がするのを見てようかー。…ほら、あのグループを見て?」
姫ちゃんの指差す方を見る。
そこには人と同じくらいの大きさの岩で出来たゴーレムが、生徒に向かって歩いている。
「ショックウェイブ!」
男子生徒の一人がそう叫んで、手から衝撃波を放つ。
岩ゴーレムの脚、膝あたりをえぐり、土煙が舞う。
体勢が崩れた所に別の男子生徒が近寄る。
ブゥン!と予備動作もなく岩ゴーレムの右拳が男子生徒を狙う。
「リフレクト」
女生徒が障壁魔法を岩ゴーレムと男子生徒の間にはる。
ギャギャギャギッ!と凄まじい音をたてて拳と障壁が衝突する。
その間に懐まで入り込んだ男子生徒が両手を岩ゴーレムの胴体にむけて、
「おらぁっっ!!」
…素手で撃ち込んだ。
物凄い衝撃で岩ゴーレムの胴体に穴があき、動きを止める。
「おい!障壁遅いよ!一瞬びびったじゃねぇか!」
「それをいうなら牽制の一撃が浅かったのよ。普通に反撃してきたもん」
「いや、岩ゴーレム相手によくやった方だから。相性最悪なんだけど」
戦った三人が各々感想を叫んでる。
「確か、風魔法が得意で魔法を連発出来るスキルを持った子と、防御系の魔法が得意で持続時間増加のスキルを持つ女の子、そんでー最後に身体強化魔法が得意で手足の先に魔力を圧縮するスキルをもった男の子だったはずー」
姫ちゃんがすらすらと話す。
よく覚えてるね、凄い。
「あの3人、本来一人一人なら岩ゴーレム相手は厳しいんだけどー、ああやってそれぞれの役割を分担して連携する事で格上相手でも余裕を持って対処する事が出来る訳よー。どうー?分かったー?」
「確かに息ピッタリだね。ああやって実際の戦闘を想定して連携を…」
「フレイムバーストォォッ!!!」
急な轟音に遮られる。
見てみると、中本春樹君が手から炎の魔法を出して木のゴーレムを焼いていた。
「さっすが春樹よねー!全部一撃だもんっ」
「ほんと、魔力だけあっても、何にも出来ない連中とは大違いよね」
「おいおい!一緒にすんなよなっ」
がっはっはー!
と下品な笑い再び。
あの連中はいちいち声を張り上げないと喋れないのかな?
「…一応説明すると中本が威力増強系のスキル持ちで得意魔法は火と風。そんで周りの女どもはサポート魔法が得意で確か味方に魔力を付与する系のスキル持ちだったはずー」
物凄く冷めた目で姫ちゃんが説明する。
「ほんとカスみたいな連中だけどー、中本の魔法とスキルは結構強いしー、いつも魔力サポートに特化した連中ばっかを自分の周りにおいてるから単体での力はこのクラスでトップかもよー。まぁ火属性魔法で木のゴーレム焼いてドヤってる時点で小物だけどねー」
ふーんなるほど。皆んなは一人のために!みたいなパーティもあるのか。
「まぁ大体こんな感じだねー。まぁ私らは今日は皆んなの見てるだけでいいんじゃねー?結構見るだけで学ぶ事ってあるよねー」
姫ちゃんがあくびをしながら周囲をぼんやり見ている。
「…あのね姫ちゃん、これ見て欲しいの」
「?」
姫ちゃんが首を傾げる。
ポケットから取り出したのは私のライセンスカード。
そこには、
スキル無し。得意魔法無し。潜在魔力測定不能と書かれている。
「…いいの?あんまし人に見せたくないんじゃないー?」
「いいの。私のこと助けてくれたし。そ、それにその、私も姫ちゃんの事を友達だと思ってるからっ」
そういってライセンスカードを姫ちゃんに渡す。
「だから、姫ちゃんになら、イィよ」
姫ちゃんは目を丸くして、少し顔を赤らめる。
「あはは、なんかはっずいじゃんねー。てか伊織ってば言い方エロいからー」
「別にエロくないやいっ」
ーーー
「…へらへらしやがって、気に食わねーなぁ」
視界の端に、仲良く話している御門伊織と夜咲姫を見つける。
全く気に食わない。
スキルも魔法も優れている俺が話しかけたら、潜在魔力だけしか取り柄のないやつは泣いて喜ぶはずだろう。
最近増えてきた総魔力量で編入してきた特待生。
いつもは、特に興味もなく、話しかけることもないのだが、今回のヤツは顔が良かった。
この学校は女子のレベルが高いのも有名だが、頭一つ二つ飛び抜けているその美貌に、俺のグループに入れてやってもいいと思ったのに。
そして、夜咲姫。
いつも寝てばっかで歩けばフラフラと、とてもまともな健康状態とは思えないが、
…実は国内最強レベルのスキル保持者らしい。
なんでもかなりの制限付きの能力だが、一度戦闘になると手がつけられない…とか。
だから、普通では許されないあいつの授業態度も学校側が容認してるそうだ。
まぁもちろん俺はそんな噂信じてない。
どうせ政治家か金持ちが名誉あるこの学校の卒業という経歴が欲しくて自分の娘を在籍させている、っていうのが俺の推理だ。
まぁとにかく特に力のないやつが特別扱いされてるのは気に食わない。
この俺でも授業中に居眠りでもすれば叱責されるというのに。
…そんな気に食わない二人がよりにもよって仲が良いのだから、余計にイライラするってもんだ。
フン、まぁいい。
多少手間は掛かったが、仕掛けは済んだ。
あとは開始の合図を待つだけだ。
「ぐぁぁあー!!っくそ!いってぇよ!!」
チッ、あいつ芝居下手だな。
まぁいい。
ショータイムの始まりだ。
目障りな二人には、とっとと退場してもらう事にしよう。
「おい!大丈夫か!?」
笑みを隠して派手に倒れたやつのところに走る。




