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13実技講習

スマホのアラームの音で起きる。



あれ?なんか用事あったっけ?



…そうだ!学校行くんだった!



見慣れない部屋を見回す。



昨日から香奈お姉ちゃんと一緒に住んでる事を思い出した。


さて、今日も頑張りますかー。



パジャマを脱ぎ、制服に着替え、カバンの中に必要なものを入れて一階に。




「おはよ、伊織ちゃん。よく眠れた?」



「おはようございます。ぐっすり眠れましたよ」



割と早めに起きて来たつもりだったが、香奈お姉ちゃんはもうスーツに着替えていて、コーヒーを飲みながらタブレットを見ていた。



「今日はちょっと会議があるから、夜遅いかもしれないわね。またLINE送るけど、遅くなりそうなら先に食べててね」



「わかりました。お仕事頑張ってくださいね」



「ありがと。それじゃ行ってくるわね」



タブレットを鞄に入れて出かける香奈お姉ちゃんを玄関まで見送る。



「いってらっしゃーい」



ひらひら、と手を振りながら香奈お姉ちゃんが乗るエレベーターが閉まる。



ちなみにこのエレベーターは最上階に住む人専用のエレベーターで、他の人は乗れないらしい。



いったい家賃はいくらなのだろう?



ちょっと怖くて聞けない。



「さて、私も学校行かなきゃ」



リビングに戻り、トーストを食べる。



香奈お姉ちゃんは普段料理をしない様で、冷蔵庫の中にあまり食材は入ってなかった。



「今日は学校の食堂で食べようかな」



ラウル魔術養成学校の学食は美味しいと有名らしい。



香奈お姉ちゃんからお小遣いと食費は貰ってるから、その中でやりくりしなきゃ。



…といっても学生のお小遣いにしては貰いすぎで、よほど無駄遣いをしない限り金欠にはならないだろう。



こんなに受け取れません!

と言っても子供は遠慮しちゃダメよ、と言って聞いてくれない。



しっかり貯金して、働く様になったら少しずつ返せるようになろう。



そのためには、魔力のコントロールを覚えて、ちゃんと学校を卒業するぞ!



決意を新たに、トーストをかじる。



ーーー



「おはよー、姫ちゃん」



「おはよー伊織ー。今日も可愛いし、いい匂いだねー」



「オリーブオイルかな!?昨日いっぱいかけちゃって!」



毎晩毎朝歯磨きしてるよ?



「いや、違うけどー。ところで今日の一限目と二限目は魔法の実技講習だよー、体操服持ってきたー?」



「持って来たよ。でも私、魔法使ったことなくて。授業についていけるかなー?」



総魔力、潜在魔力で特待生になったものの、魔法はロクに使ったことが無い。



国一番の教育機関での授業についていけるのかな?



「大丈夫だよー。みんなそれぞれレベルに応じたグループに分けての授業だからー。伊織みたいに総魔力で今年から編入して来た子もいるしねー」



「そうなんだ。おんなじレベルの子と一緒ならありがたいなぁ」



「まぁ私も一緒に居るよー。特に何か出来る訳じゃないけどさー」



「ほんとーに?やった!嬉しいな。姫ちゃんも魔法、苦手なの?」



「まぁー、私はちょっと事情が特殊なんだけどさー。まぁ魔法はあんましかなー」



「そうなんだ。でも一緒にいれて嬉しい」



安堵からか、自然な笑みが出る。



「…伊織の笑顔は反則だわー。もしかして魅了系のスキル持ってんじゃねー?」



「持ってないってば。なにそれ、そんなのあるの?ずるいなぁ」



まぁスキルで人と仲良くなっても嬉しくないと思うけどね。



「…伊織には必要ないでしょーが。まぁいいや、第一演習場でやるから、とりあえず更衣室行くよー」



「はーい。案内お願いしまーす」



「任せろー」



そういって姫ちゃんは気怠げに立ち上がり、ノロノロと歩き出す。



…本当に実技講習なんて出来るのかな?




何度聞いても「身体丈夫だからー」としか言わないし、心配だなぁ。



ーーー



「…ふぅ。制服って脱ぐのめんどくさいよね。でもシワになっちゃやだしなぁ」



「…伊織ってばー、ナイスバディよねー。外見無敵かよー」



「き、昨日食べすぎちゃって。あんまし見ないで」



ブラ一枚の姿で突然そんな事を言われて、おへその辺りを隠す。



「いや、隠すのそっちかよー。伊織はホント面白いわー」



姫ちゃんがにひひと笑う。



「じょ、女子同士だし、ここでき、着替えてていいのよね!?」

「そ、そうよ。変なこと言わないでよ!」

「で、でもドキドキする!なにこれ…!?」



…女子は着替える時でもうるさいなぁ。



そして奥の方では、



「…ふん、チヤホヤされてるのも今のうちよね」

「その白い肌に傷がつかなきゃいいけど!」



昨日絡んできた、中本春樹君の周りに居た女生徒達がヒソヒソと話している。



…もう無視だ、無視!



はっきりいって初めての魔法の授業で緊張してるから、構ってられないしね。



…それにしても。



隣で着替えている姫ちゃんを見て、改めて痩せているなぁ、と思う。



病的、とまではいかないけど、健康的ではないのは明らか。


白い肌に浮かぶ青白い血管が、より一層心配感を煽る。



昨日、事情があって食事に制限があるって言ってたし、それも原因なんだろう。



訳を聞いて力になってあげたいけど、昨日会ったばかりの関係でそこまで踏み込んでいいのか思案する。



いつか、私に話して欲しいな。



だって私はもう友達だと思ってるし。



ーーー



「さて、それじゃあ今日の実技講習は二年生が作った自律型魔導ゴーレムを相手にした戦闘訓練だ。各自、自分のレベルに応じたゴーレムを相手にするんだぞ」



第一演習場で、担任の先生が生徒を集めて説明している。



今日は私達のD組だけでの演習らしい。



「さて、みんないつものグループに分かれて演習をするように、…と言いたいところだが、御門伊織!」



「え?は、はいっ」



いきなり先生に声をかけられる。



「昨日編入してきた御門の能力をみんなは知らない。実技講習はペアを組んだり時に試合形式で相手をしたりするからお互いにある程度の能力を知ってないと色々と不都合がある」



なるほど。

相性とか、連携とか、実際に魔法を使用する際には重要なことなのかな?



「だから、御門の能力や情報など、皆んなに教えてやって欲しい。簡単な説明で大丈夫だ。出来るか?」



「…そういう事なら」



あんまりみんなの前で自分の事を話すのは得意じゃないけど、授業に必要なら仕方ないかぁ。



「えーと、御門伊織、スキルは無し。得意な魔法、特殊属性は無し。潜在魔力は計測不能です。よろしくお願いします」



先生の横でペコリっと小さく頭を下げる。



「「「…へ?」」」



「…え?」



みんな目を丸くしてる。



説明、分かり難かったかな?



「スキル無し?」

「…魔法も使えないの?」

「潜在魔力も測定不能?なにそれ?」



みんな困惑の表情を浮かべている。



「…御門、真面目に!」



先生が少し険しい顔で促してくる。



「ま、真面目ですよ!スキルも魔法も無いですけど、潜在魔力が多くて、測定不能だって…」



「そんな訳があるかッ!」



突然怒鳴った先生に、思わず肩が震える。



「無尽蔵の魔力をもつ勇者でさえ、潜在魔力Sランクとしっかり計測出来ているんだ。つまり、御門は勇者よりも多くの魔力を持っていると言いたいのか?」



「で、でも本当なんですよ!魔力が多くて測定不能になったって…!」



「…そういえば都内の役所の魔力測定器、数日前から故障で使えないんだったな」



…瞬間、周りの空気が冷たくなるのを感じる。



私を見る、皆んなの目が怖い。



「どーりでおかしいと思ったぜ!それでライセンスカードを見せてくれないんだなっ!」



…中本春樹君が沈黙を破るように大きな声を出す。



「故障中の測定器の結果で、測定不能が出たからって魔力多いって勘違いするとか、恥ずかしいー!」


「てゆーかこの学校の編入基準ガバガバじゃん!ここに一般人が居ますよー!」



ぎゃははは!

と下品な声が演習場に響く。



…むかつくー!!!



その測定器は私の魔力を計ったから壊れたやつなのに!



それを説明したいけどうまく言葉が出てこない。



それどころか、先生まで私を訝しむ目で見ている。



むぅ、どうしよう?

私に味方が居れば…



「うるせーよ。おまえら」



底冷えする様な声音、決して大きくないその声に何故か、あれほど馬鹿騒ぎしていた連中は黙り込む。



「伊織の言う事を信じねーのはおまえらの勝手だろー?つまんねー事で時間使ってんじゃねーよ。なぁ、せんせーよ?まだ授業やんねーの?」



いつのまにか先生の前まで歩いてきてた姫ちゃんが言い放つ。



相変わらずフラフラした足取りだが、その金色の眼光は見るものを射抜くほどに鋭い。



「あ、あぁ、そうだな!御門の能力や魔力は後で編入試験を監督した先生に確認するとして、今日はせっかく第一演習場を借りれたんだ、すぐに授業を始めるぞ!御門、夜咲、戻れ」



「はい」

「はいよー」



そう言って私たちは元の場所に戻る。



「ありがとね、姫ちゃん」



まだ少し怒ってる様に見える姫ちゃんに声をかける。



「別にー」



先生から視線を逸らさずに姫ちゃんが答える。



「友達が信用されてないとこ見たらー、ムカつくのは当たり前じゃん」



そういって口を尖らす。



私の友達は、こんなにフラフラでも友達の為に声を張って守ってくれる素敵な人みたい。






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