11ボッチ疑惑?
ーーーその頃、メイリー孤児院では。
「円華!貴方は来週から、学校なんだから、今週いっぱいはちゃんと施設のお手伝いをしなさい!」
「…分かってるよー!真矢先生!…ちょっと伊織の事が心配でさぁ!…あの子、大丈夫かなぁ」
「あれであの子はしっかりしてるし、結構大丈夫だと思うわよ?」
それでもなぁ、と円華は頭をかく。
「周りに流されたりしないし、嫌なことは嫌ってしっかり言えるけどさぁ、その分敵を作ったりしないかなぁ?ただでさえ、見た目で目立ってるから、気に食わないって思う奴も居そうでさぁ」
…円華の鋭い指摘に、思わず唸る。
見た目や言動の粗暴さとは裏腹に、この子は冷静に物事を考えて行動出来る。
特に、大の親友の伊織の事に対してはその傾向が顕著だ。
…まさか一週間足らずで伊織と同じ学校に編入を決めてしまうとは、ただの勢いだけでは到底不可能な事なのだ。
「大丈夫かなぁ、ただでさえ途中編入なんだし、クラスのリーダーグループとかに目をつけられてないかなぁ」
「…そう、言われると、先生も心配になってきたわ」
窓の外を見る。
日の光を受けて銀色に輝く雲を見て、あの子の愛らしい髪を思い浮かべる。
「大丈夫かなぁ」
「大丈夫かしら」
次の休憩の時に、ちょっとLINEを送ってみよう。
ーーー
拝見、先生達、子供達、そして真矢先生、円華ちゃん。
伊織はいきなりやっちゃったかもしれません。
「………」
一限目が終わり休憩になった。
教科書を片付けて次の授業の準備をして、カバンに入れてた水筒のお茶を飲む。
…うん、後14分も休憩あるな、どうしよう。
どうもHR終わりに絡んできた子達はこのクラスのリーダー的存在で、それに目をつけられたっぽい私には、他の子達も声をかけてこない。
いや、ものすごく視線を全方位から感じるのだが、目が合うと視線をそらされてしまう。
よく読む漫画の主人公達は、転校してきたら、休みの時間は人だかりが出来るというのに。
現実は悲しいなぁ。
…まさかこんな事になってるとは真矢先生も円華ちゃんも想像だにしてないだろう。
「ぎゃははは!B組のあいつだろ?ロクに魔法も使えないくせに特待生のやつ!いつも魔法の実習授業で一人じゃん!?」
「そうよねー!私だって、嫌よ、お荷物の面倒見るの!」
…これ聞こえよがしにさっき絡んできた子達は声を荒げて騒いでる。
…ダメダメ、気にしない。
お茶を飲み干して水筒を直し、窓の外を見る。
「…今日はいい天気ね」
頬杖をついて耳にかかった髪をかき上げてみる。
まぁそんなに長くないから必要ないんだけど、気分でるかなぁーと思って。
瞬間、周囲からため息が漏れる。
「ふぁ…やっぱ可愛い」
「物憂げで、絵になるなぁ…」
「マジ天使過ぎる…」
そこら辺で声が上がる。
猫の動画でも見てるのかな?
「…マジでなんなの!?」
「ちょっと可愛いからって、生意気!」
「明日だよね?魔法の実習授業?」
さっきまで馬鹿騒ぎしてたグループの、特に女子からも更にヒートアップした声がかかる。
私が何をしたっちゅーねーん。
針のむしろの様な休憩が終わり、授業が始まる。
休憩の15分より、授業の45分の方が短く感じるという不思議体験をしていたらやっとお昼の時間。
やったーお昼!今日はお弁当を作ってきたのだ。
カバンから取り出してピンクの巾着を広げて机の上にだす。
「じゃーん」
あ、開ける時に独り言でちゃった!恥ずかしい!
今日は鰹節のかかったご飯に、卵焼き、タコさんウィンナー、ほうれん草のお浸し、そして昨日の残りの…唐揚げである。
そういえば入れちゃってたな、唐揚げ。
「…美味しそうー手作りー?」
隣の姫ちゃんが声をかけてくる。
ちなみ姫ちゃんは授業中もほとんど机に突っ伏して寝てる。
なのに先生も誰も注意しない。
なんでだろ?
「そうだよ。今日は朝バタバタしてたから時間なかったから昨日の残りも使ってるけど、料理好きなんだ」
「へぇーそんなに可愛いのに家庭的とか、理想の嫁じゃんねー」
そういって姫ちゃんはにんまり笑う。
「ふふ、誰かがお嫁に貰ってくれるように、もっと料理のレシピも増やさなきゃね」
そういってにんまり笑顔を返す。
「よ、嫁!?お、俺は今、猛烈にドキドキしている!」
「俺は別に料理が下手でも気にしないぞ!」
「…私が仕事で稼ぐわ。だから家の事はお願いね」
男子はご飯中もうるさいなぁ。
たまに女子の声も聞こえるけど。
「伊織ってさぁー?」
「なぁーにー?」
「無自覚のタラシだよねー」
「タラシって、男タラシとか、そういうの?」
「そうそう、何人もの男を泣かせてそー」
あと女も、っと小言で姫ちゃんが付け加える。
「ないよー!ないない!それより姫ちゃん、一口食べる?」
一番大きい唐揚げを指差して姫ちゃんに差し出す。
すると姫ちゃんは金色の目をまん丸にして喉を鳴らし、
「…美味しそうーだけどいらない、ごめんね」
悲しそうな顔をした姫ちゃんはポケットから何か、カロリーバー?みたいなのを取り出して袋から取り出して口に放り込む。
「私さぁーちょっと事情があってねー、ご飯これしか食べれないんだー」
そういって茶色の、一口サイズのカロリーバーをつかんで言う。
「そ、そうなんだ、ごめんね?何も知らないのに…」
スレンダーと言うには細過ぎる姫ちゃんの身体。
ご飯が食べれない?何か事情があるんだろう。
「いいのいいのー気にしないでねー。でもいつかご飯食べれる時が来たらさー?」
「?」
「伊織のご飯、お腹いっぱい食べさせてねー?」
「いいよー、腕によりをかけて作るね」
にっこりと笑い合う。
そしてまた姫ちゃんが机に突っ伏してしまったので、無言でお昼を再開するのだった。




