10隣の姫ちゃん
「はじめまして!今日から途中編入してきた御門伊織ですっ!みんなと一緒に勉強して、仲良くなっていきたいと思いますので、これからよろしくお願いしますっ」
シンプルイズベスト!
行きのバスの中で色々考えた結果、ベタベタの挨拶になった。
担任の先生に促されて、HRの最初に自己紹介させて貰ったのだ。
「うわぁ、マジかよ」
「髪色キレイー!外人!?」
所々から声があがる。
やっぱりこの髪色、初対面じゃ目立つよねー。
「はい!御門さん!」
「え?あ、なんでしょうか?」
筋肉質の、いかにも好青年といった生徒に声をかけられる。
「御門さんは、何の特待生なんですか?」
「…何のって、何でしょう?」
よく分からなくて首を傾げる。
ま、まさか!?
いや、決して裏◯なんかじゃないよ!?
「あー、御門は総魔力の特待生だ」
すると担任の先生が口を開く。
なるほど、何の項目において特待生として入ってきたのか、って意味ね。
「そうなんです。総魔力の事で…この…学校…を…」
言葉が詰まる。
…あれ?急に空気が変だな。
さっきまでは一応歓迎ムードだった気がするんだけどー。
「…なーんだ。また総魔力かー」
「途中編入って最近そればっかだよね」
「クラス対抗戦のお荷物増えちゃったねー?」
「ねー?」
…うーん、なるほど。
総魔力で編入してきた特待生はお呼びじゃない、って感じかな?
「こらこら、御門もお前たちと同じこの学校の生徒なんだ。そんかあからさまな文句は言うなよ」
…あからさまじゃなければいいのですか!?
一応はみんなを叱る様な事を言っているが、担任の先生のその言葉に、表情に感情はこもってない。
まだまだ世の中はスキルや希少魔法持ち至上主義。
エリートの通う場所はその縮図。
なるほど、香奈さんの言ってた事の意味がわかってきた。
「じゃあ御門、空いてる席ににつけ。それじゃHRをはじめるぞ」
「わかりました」
空いてる席は最後尾の窓際の一つ隣。
なんだかさっきとは違う視線の中を歩く。
やっと自分の席に着く頃にはちょっと疲れていた。
「ふぅー、これから大丈夫かなー」
思わず小さい小言が漏れる。
「…ねぇーあんた?」
「?」
僅かに聞き覚えのある声が聞こえる。
つられて窓際を見る。
「やっほー。いい匂いの…御門さん?」
「あ、今朝の!大丈夫だったの?」
そこには今朝ぶつかった女の子が、より一層気怠そうに机に突っ伏して、こちらに顔だけを向けて手をひらひらと振っている。
「大丈夫大丈夫、身体丈夫だから」
…だからそうはみえない。
「見ない子だし、嗅いだことない匂いだと思ってたら、新しい特待生だったんだねー」
「嗅いだことない匂い!?唐揚げ三個しか食べてないのに!?」
ちなみにブレスケアも飲んでいる。
「…唐揚げ?なにそれ?変なのー」
「…あなたに言われたくないよー」
「あは、そうかもねー。あたし、夜咲姫、お隣同士よろしくー」
「姫ちゃん?可愛い名前だね。よろしく」
「あはー、似合わないって思ったでしょー?よく言われるのー」
「そっかなー?白い肌も綺麗な瞳も、まさに姫ちゃんって感じだけど?」
言われた姫ちゃんは目をハッと見開く。
「…いい子だね、伊織ちゃん。伊織ちゃんて、スキルとか得意な魔法とかあるのー?」
「あはー。スキルは無いし、特に使える魔法もないのー」
てへっと手を頭に置いて笑う。
ちょっと古いかもしんない。
「…そっかー。この学校で可愛いのに自分を守る力がないと、凄く苦労するよー」
「どういう意味ー?」
「…すぐにわかるよー。私が守ってあげたいけど、ごめんね、お腹ぺこぺこなんだー」
そういって再び机に突っ伏してしまった。
一瞬、泣きそうな顔に見えたのは気のせいかな?
HRが終わり担任の先生が教室から出て行く。
するとさっき質問してきた生徒が私の席までやってきた。
何人かクラスメートも後ろについて来ている。
「なぁ、ライセンスカード持ってるだろ?見せろよ」
…いきなり何なのだろう?その言い方は?
「…その前に、貴方はだーれ?」
そう言うと後ろについて来ているクラスメート達が少し怒ったような顔になる。
「ああ、そっか。俺の名前は中本春樹だ。自己紹介は終わりだ。さぁ、ライセンスカードを見せな」
言葉の端には人を馬鹿にする様な気配を滲ませている。
特に中本君を怒らせる様な事をした覚えはない。
唐揚げの匂いだってしないのに。
「中本君ね、ライセンスカード?ふつーにやだよ。見せない」
すると周囲のクラスメート達が激昂する。
「おい、誰に口聞いてるんだ!?」
「そっちこそ、初対面の人にする言葉遣いじゃないよね?」
「春樹さんはイィんだよ!」
「それはそっちの都合じゃない?私は知らないかなー」
「いいからライセンスカードを見せろよ?」
「お姉ちゃんに、むやみに人に見せるなって言われてるの」
「いい年してお姉ちゃんの言いなりとか、ださくなーい?」
「貴方達の言葉に従うより、お姉ちゃんの言う事の方が正しいって思ってるだけだよ」
「こいつ、生意気よ、ねぇみんな!?そう思う…」
「ねぇ、ちょっと!」
エキサイトしているクラスの女の子を遮って少し大きい声を出す。
「私とお話ししたいなら、一人づつにして欲しいんだけど?もうすぐ授業始まっちゃうよ」
そう言った瞬間、チャイムがなる。
「もーう、授業始まったじゃない!お茶飲みたかったのにー!」
ブレスケアが少し辛くて喉がヒリヒリするのだ。
周りに集まってた生徒達は顔を真っ赤にしてプルプルと小刻みに震えている。
友達は欲しいけど、誰でも良いわけじゃない。
集団で集まって、新参者を取り囲む様なグループなんて願い下げだ。
「…ほんとに、後悔するからな」
中本君がそう言って席に戻って行く。
…うーん、こんな事でやってけるのかな?
てゆーか、私ももうちょっと穏便にすませれたんじゃないかなー?
「…ぷ、あっははー、伊織ってば最高ー!久々に笑ったわー、だけどあんまし無茶しちゃダメだよー?」
隣で寝ていた姫ちゃんが堪えきれないと言った感じで吹き出す。
「…ちょっとやっちゃったかも。でも姫ちゃんが笑ったなら、良かったかもね」
「…ほんと、変なやつー」
なるようになるかな?
私は私だしなー。




