第2話「孤独な少年と」
少し書き方を変えてみました(^_^)
俺が市立法間学園に着いたのは、『7:40』くらいだっただろうか。
正直、結構曖昧である。
俺は黒板の上に掛けられた時計になんとなく視線を向けてみた。
『7:54』
思った以上にそうでもなかった。
やはり何もしないでボーとしていると、時間感覚が鈍ってしまうのかもしれない。
周りを見ると、クラスメイトたちが仲の良い友だち同士と他愛もない会話をしている。
入学式が終わって一週間が経つのに、もうクラスと馴染みだしている人が現れるようになっている。そんな彼らにとってこの時間は、あっという間なのだろう。
俺は椅子に座って、机に頬杖をつき、時間が過ぎ去るのをただ呆然と待っている。誰とも会話をせず、況してやそうしたいとも考えずだ。
つまり、俺は高校三年間、ずっとボッチでいるということだ。
まあ、その方が良いのかもしれない。
仮に友だちができたとしても、会話が苦手であまり大したネタもないから会話も弾まないと思う。それにいつか縁を切らなきゃいけなくなる時だって来るかもしれない。
俺は今のうちにトイレを済ませようと席を立ち、教室を出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、その様子を見ていた3人の女子のグループがいた。
その中にはユイもいる。
ミツキが教室から出たところでそのうちの一人、メガネを掛けた女子生徒、マルコが口を開いた。
「ねえ、あれ光剣寺くんだよね?」
「あー確かユイのところの」
とポニーテールの女子生徒、カオルが呟く。
「いつも一人だけど、誰とも話さないのかな?」
マルコがユイに視線を向けながら、話しかけてきた。
「んー家じゃ割と話す方だけど、自分からはあまり話さないし、口数も少ないほうかな・・・・・・」
ユイは首を傾げながら正直に答える。
「一緒に住んでてもそのレベルか・・・・」
カオルが唸りだすと、マルコも唸りだした。
因みにユイとミツキが同居していることは、中学時代の同級生を含めて知っている人はかなりいる。
きっかけは中学2年の時、ユイが友だちを家に招き入れたときだった。
その時ミツキに外出するように念押しし、しばらくはユイと友だちとで楽しい時間を過ごしていた。
しかし帰り際に、ミツキがタイミング悪く帰ってきてしまう。その日を境に二人は同居していることが周囲に知れ渡り、変な噂も流れるようになった。
ミツキ自身はあまり気にしてはいなかったが、当時のユイはそれでからかわれ、しばらく彼と口が利けなかった。
最近はあまり気にしなくなっているのだが、特にこの二人からは『どこまで進んだの?』とか、『もう付き合ってんの?』とか、言われてからかわれている。
そして今日もまた、同じことを言われると思っていた。
「ねえユイ、光剣寺くんと買い物したことある?」
カオルが真面目な顔で、ユイに質問する。
「え?あったような、なかったような・・・」
「つまり、記憶に無いくらいだから、なかったのも同然ね・・・・」
「なになに?」
グイグイ迫ってくるカオルの顔に、仰け反ってしまうユイ。
「あんた明日光剣寺くんとデートしたら」
「は!?」
思いもよらない発言に、ユイは一瞬で頭の中がパニック状態に陥ってしまった。
「なるほど」
と指を鳴らし納得するマルコ。
「いやいや、無理無理、絶対無理!」
「大丈夫、デートしよって言わなければ、なんとでもなるでしょ」
「そうそう、例えば買い物に付き合ってとでも言っておけば」
「いやそうじゃなくて・・・・・・なんというか、いざ誘うとなると恥ずかしいというか」
ユイは白い頬を朱色に染めて、もじもじし始める。
その様子を見たカオルは、ため息混じりに話し出した。
「いい、これはあんたのためでもあって、光剣寺くんのためでもあるんだからね。同居人として彼が高校三年間ボッチのままでも良いの?」
「それは・・・・・・良くないと思うけど・・・・」
「大丈夫、ちゃんと後ろからフォローしてあげるから、ね」
そう言うとカオルは、マルコに顔を向けた。
「うん、なにかあったらアドバイスしてあげる」
マルコはスカートのポケットの中に手を入れ、スマホを取り出してみせた。
「よし、それじゃあ明日10時、みらいフォレストパークで!」
そう言い、勝手に時間帯まで決めてしまう二人。ユイはそれに振り回され、段々面倒臭くなってしまっていた。
「もうわかったから、誘えば良いんでしょ、誘えば」
ユイは思わずため息をついてしまった。