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ソーサラーズ・サーガ~不愛想な魔術師の異世界大戦記~  作者: 相本テイル
第1章「ミツキ・Loneliness」
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第18話「本当の気持ち」

 俺は目の前で起きている悲惨な光景に目を奪われていた。

 十メートルほど離れた位置で、たった今知り合いの少女が息を引き取ったのだ。それも見るに耐えないほど無惨な姿で、ピクリとも動かない。

 腹部に巨大な風穴を空けられ、背中から夥しい量の鮮血が広がり床を赤黒く染めている。

 俺は救えなかった罪悪感と自分の不甲斐なさで、心が張り裂けそうな気分になっていた。

 あの少女が、ユイが殺されたのだ。3年間一緒に住んでいたあの子を見殺しにしてしまったのだ。

 そして俺の脳内に今朝の出来事でユイに対して浴びせた暴言の数々が沸き上がってくるように思い出される。


『俺みたいに戦いたい?みんなを守りたい?正義の味方?寝言は寝て言え!』


『だいたい、あの時1番怯えていたのは誰だよ。そんな奴がまともに戦えるわけねえだろ!』


『それにお前勘違いしてねえか?魔術師は正義のヒーローじゃねえんだよ。ろくに知りもしねえでそんなことほざくな!』


 どれも聞くだけで腹立たしく感じる。

 俺はユイにあんな酷いことを言っておいて、挙げ句の果てに死なせてしまうなんて、最低だ。

 いくら強い力を持っていても、それを誰かのために使って守らなければ意味がない。大切な人が死んだとなれば尚更だ。

 でもそれが叶えようのない理想で、全員を守ることなんて不可能なのはわかっている。

 だからせめて身近にいる人だけでも助けよう、そう決めていた。

 俺が今まで友人を作らなかったのは、これ以上大切なものが増えないようにするためだった。増えればそれを守らなければいけなくなってくる。そして失ったときの悲しみをもう味わいたくないからだ。

 なのに・・・・・・。


「何でこんなに辛いんだよ、悲しいんだよ」


 理由はわからないが俺の瞳から自然と大粒の涙がこぼれ落ちてきた。

 ユイとは同居人以外何者でもない関係のはずなのに、何で。

 すると脳裏からある記憶がフラッシュバックされた。しかし今回はあんな忌々しいものではなかった。

 それは先週の土曜、ユイとショッピングモールに行ったときの記憶だった。

 そこには楽しそう笑顔で買い物をするユイとその後ろを追う俺の姿が見えた。そこにいる俺の顔も、無愛想であるがどこか幸せそうに見える。


「ああ、そうか・・・・・俺、欲しかったんだ。掛け替えのない大切なものが、本当は欲しかったんだ」


 俺はここで初めて自分の本当の望みに気が付くことができた。いや、もしかするとそれを見て見ぬふりをしていただけかもしれない。

 どちらにせよもう後戻りすることはできない。ユイは死んだ、このことは変わることのできない事実だ。

 せめて許してくれるというのなら・・・・・。

 俺は首に巻き付けられているネクタイを乱暴にほどき、ワイシャツの襟をボタンを引きちぎる勢いで開いた。すると中からペンダントが露出される。


「ヘルメス!」


 俺は喉の奥からその名を絞り出し叫んだ。

 すると忽ち着ていた学校の制服は、青白く輝く魔装へと換装した。

 全身からは今までにないほどの闘争心のオーラが放たれ、体内の魔力が活性化されている。

 魔物もそれに気が付いたようで、俺の方に赤黒い眼を光らせ睨んできた。

 しかし俺はそれに目向きも暮れず周囲に何か武器に変換できるものがないか見回した。

 すると入り口の左脇に数本の鉄パイプが散乱しているのが目に入った。

 俺はその鉄パイプから2本の剣を生成し両手に握ると、遠く離れた黒くて巨大な化け物を逆に睨み返した。


「お前を殺したこいつを葬った後で、俺も腹を切ってやる」




 俺は腰を低くし地面が抉れるほど力を脚に込めると、そこから一気に蹴りだし突進した。風を切る勢いで魔物との距離を縮めていく。

 魔物もそれを向かい打つように、右腕の針を構えた。

 そして距離が2メートルくらいのところで急ブレーキをかけ飛び上がると、右腕に握られた剣を振り上げた。


「うらあぁぁぁ」


 絶叫し、頭上のところまで達すると、そのまま勢いに任せて振り落とした。

 すると巨大な針の先端と剣の刀身が直撃したタイミングがほぼ同じだった。耳鳴りがするほどの鈍い金属音が鳴り響き、摩擦による火花が散る。

 魔物も巨大なだけあって、そのパワーも尋常ではなかった。おそらく今まで戦ったなかでもこいつが1番かもしれない。衝撃が剣のグリップを返して、腕から全身にかけてビリビリと伝わってくる。

 それでも俺は押しきろうと剣に力を加えていった。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ」


 奇声をあげ、このまま針をへし折る勢いで剣の刃を押しつけていく。

 すると魔物は少し怯んだような素振りを見せると、俺の剣を受け流すように針を上空に振り上げた。

 俺は力を加えていた対象がなくなったことで、勢いよく空振りしてしまう。それでもなんとか態勢を整え直し、再び2本の剣で魔物に襲いかかった。

 魔物も巨大な針と背中に生えた2本のはさみを使い応戦してくる。

 それからは俺と魔物による激しい攻防戦が繰り広げられた。

 俺は絶叫し、無我夢中になって剣を降り続けた。その度に針とはさみで妨げられるが、何度もそれを振り払い隙ができるのを待ち続ける。

 今視界に映るのは魔物のみ、それ以外は目も暮れていない。

 とにかくこいつを斬る、それだけのことしか頭にない。

 それが火種となったのか、闘争本能が高まり自分の中の魔力がどんどん活性化されピークに達している。

 それにより2本の剣は藍色に輝きだし、その強さは増していく。これは剣の強度が上がっているということになる。

 そしてそれと共に俺も魔物が追い付けないほどの圧倒的なスピードを出すために、剣を振る勢いを上げた。

 藍色の閃光が空気中を縦横無尽に舞っているエフェクトのように見え始める。それはどこまでも速くなり、取り残された光の残像で薄暗い世界を鮮やかに彩っていく。

 しかしその先に見据えるものは魔物、ただそれだけ。

 そいつに最後の1撃を喰らわせるまで止めるつもりはなかった。

 そしてとうとうその時がやって来たようだ。

 針で突き刺そうとしてきたところを左の剣で上空に弾き返したとき、魔物の懐ががら空きになったのだ。

 俺はその一瞬の隙を見逃さずそこに意識を集中させると、急かさず右の剣を突き出した。


「はあぁぁぁ」


 今までにないほど大きな奇声をあげ、ここで止めを指すつもりだ。

 少し気を抜いてしまったが、突き出された剣の加速は落ちることはなかった。

 こいつで終わりだ。

 そう心の中で意気込んだ直後、剣の先端は魔物の胸部を捕らえた。

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