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ソーサラーズ・サーガ~不愛想な魔術師の異世界大戦記~  作者: 相本テイル
第1章「ミツキ・Loneliness」
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第16話「憤怒の刃」

 気がつくと空は真っ暗になり、夜空が広がっていた。

 街灯がポツポツと灯し始め、道を照らしてくれる。

 俺はそれに沿って全速力で住宅街を走っていた。

 本来ならそんな街灯がつく前に、家の前に着いているはずだった。

 しかし、アーケード街の魔物騒動で交通規制がかかり、いつも使っている近道を通ることができず遠回りするはめになってしまった。

 普段通らない道なので途中迷いそうになりながらも、なんとか住宅街に辿り着き、今自宅に向かっている最中だ。

 先程まで立派なリムジンの中で紅茶を飲んでいて、多少体力は回復しているもののやはり体に溜まった疲労を除去することはできなかったらしい。

 体中のあちらこちらが筋肉痛で痛み、さらに言うなら足が重い。

 しかしそれでも、ここまで来るのに1度も立ち止まっていない。いや、そもそもそれが許される状況ではなかった。

 もし一瞬でも前に進むのを止めてしまったら、ユイを救えずに手遅れになってしまう可能性があるからだ。

 それだけは避けたい。もう自分のせいで誰かが危険な目に遭うのは嫌なんだ。

 そうしているうちに、目の前に突き当たりが見えてきた。そこを曲がればいよいよ自宅、ユイの家の前に到着する。

 やっとついたという達成感で一瞬気を抜いてしまった。しかし本題はここからだということをすぐに気づき、警戒心を怠らないように自分に言い聞かせた。

 問題はユイがまだ無事であるかだ。

 俺は突き当たりに近づくにつれて、徐々にスピードを落としていき、曲がり角から5メートルくらいのところで歩きだした。

 息も絶え絶えで、今にも吐きそうな気分だ。胸に手を当てると心臓がばくんばくんと鼓動を感じ、本当に口から飛び出してきそうだ。

 呼吸をなんとか落ち着かせ、コンクリートの塀に寄りかかった。曲がり角の方に意識を集中させ、短い歩幅で1歩、2歩と横に歩いていく。

 まるで刑事ドラマでよく見る張り込みのようなことをしているが、生憎それで胸を踊らせる余裕はない。

 俺はこっそりと塀の陰から頭を出して覗いた。

 そこには何もなかった。視覚で認識できる限りでは。

 しかし、微弱ではあるが魔力を感じる。家の前に結界魔法を張っている可能性が高い。となると、あの中にユイも。

 俺は近くにある素行のブロックの1つから短剣を生成させ、感じた方向へ1歩、2歩とゆっくり歩み寄った。

 3メートルくらい進んだところでそよ風が吹き、その風向きに違和感を感じたことでその場に止まった。

 おそらくここが結界の境目。

 そう思った俺は短剣を構え、刃先に魔力を収束させた。刀身が藍色に薄く光りだす。

 ある程度溜まったところで、勢いよく短剣を上空に振り上げた。そして大きく1歩前へ踏み出すと、そのまま勢いに任せて振り落とした。


「せいっ!」


 藍色の閃光のラインが空中に描かれる。その終点部分で何か固い物がぶつかり、甲高い衝撃音が鳴り響いた。

 直後、そのぶつかった部分に亀裂が入り、瞬く間にそれが奥の方まで広がっていく。そして円柱状のドームが形成されると、硝子の割れるような音と共に粉々に崩れていった。

 空中に散乱している破片は地面に接触をすると粒子となって消えていく。

 すると先程までいなかった人の姿が見えるようになった。フードを被った黒ずくめ3人と、塀に寄りかかってぐったりとしている女性1人が確認できる。そのうち黒ずくめの3人組は口を開けて呆気に取られたような顔をしていた。

 しかしそんなことよりも肝心なものの姿が見当たらなかった。

 ユイがいない。

 俺は何度も目の前にあるものを確認していった。しかしやはり見当たらない。

 焦った俺は黒ずくめの3人組の方に歩み寄り、真ん中にいる奴の胸ぐらを乱暴に掴んだ。


「おい、ユイはどこだ」


「はい?」


 黒ずくめのそいつは突然胸ぐらを掴まれたことで激しく動揺している。当然な反応だと思うが、今の俺にそんなことまで気を使っているほど余裕がなく、頭に血が上っていた。


「答えろ早く!」


 俺は今にも殴りかかりそうな勢いで、そいつに怒鳴り散らした。

 しかし尚も怯えるそいつは何も答えようとしない。俺は余計に腹が立ち、手が出てしまいそうになった時だった。


「時島ユイなら私が逃がした」


 少し離れたところから女性の苦しそうな声が聞こえ、それにより俺の動きを静止させられた。

 それから殴ろうとしている方の手を見て、自分が短剣を持っていることを思い出した。危うくそれで斬ってしまいそうになっていた。

 俺はそれで一瞬冷や汗をかき、胸ぐらから手を離した。

 そして声の聞こえた方向つまり塀に寄りかかっている女性に視線を向けた。質問の相手をその女性に変えて。


「どこにいるんだ?」


「残念だけど、それはわからない。魔物との戦闘でそこまでは見てなかった」


「魔物?」


 俺は周囲の状況を見回した。

 地面や塀には所々に青紫色のどろどろとした液体が古部りついており、何か尖ったような物が突き刺さった跡で抉れている。

 先程まで人だけしか注目しておらず背景のことなど見向きもしなかったが、改めて見るとさらに重要なことがあったことに気がついた。


「それで魔物は倒したのか?」


「いえ、倒していないわ。消えたのよ」


「消えた?」


 俺は女性のその発言に眉を潜めた。

 詳しく聞こうと質問しようとした時だった。


 ズドーーーンッ!


 ここからかなり遠く離れたところから、激しい爆発音が聞こえた。

 俺を含めてその場にいた人間は驚き、その方向へと視線を向けた。

 黒ずくめの3人組はざわついていたが、俺は冷静に対応し何となくだが魔物がそこにいると判断した。

 おそらくあの方向にいる。どうやら聞く必要は無さそうだ。

 そう思った矢先、地面を勢いよく蹴り走り出した。

 正直ユイのことは気になるが、魔物のことは放っておくことはできない。それに逃げたユイが魔物と遭遇してしまう可能性もある。手がかりがないので一か八か賭けてみることにした。

 取り敢えず、行くだけ行ってみるか。

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