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ソーサラーズ・サーガ~不愛想な魔術師の異世界大戦記~  作者: 相本テイル
第1章「ミツキ・Loneliness」
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第10話「悩めるゲーマー」

 俺の登下校ルートから少し離れたところにアーケード街がある。そこは夕方というのもあって、仕事を終えたサラリーマンや下校中の学生でごった返していた。

 俺はそのアーケード街の入口付近にあるゲームセンターにいる。気が付くともうすでに1時間、同じゲームの筐体で遊んでいた。24勝0敗という驚異の記録をたたき出して。


「おい、あいつスゲーよ。連勝だぞ、連勝」


 近くでその様子を見ていた男性が、隣の男性に話しかけた。


「ああそうだよ。あいつここの常連で、一度も負けたことがない無敗の王だぜ。俺いつもここ来てるからよく見かけるけど」


「まさかプロゲーマーか」


「あり得るな」


 いいえ、普通のゲーム廃人です。

 俺は後ろでそう話している2人の男性に、心の中でそう呼びかけた。まあ、聞こえるはずなどないのだが。

 俺はここに来るのは日ごろの鬱憤を晴らすためである。

いろいろなゲームをやってみたりするのだが、特にこの格闘アーケードゲームはストレス解消に丁度いい。

 そのため、来る度にプレイするようになり、気が付けばこのゲームの上位アンカーに上り詰めていたのである。

 俺は手慣れた手つきでボタンとステッキを操作し、画面に映る相手プレイヤーを容赦なくボコボコにしていった。そして、相手のライフゲージが0になると、『K.O.』と画面に表示され、バトルは終了した。その後『winner』と俺の勝利を讃えてくれた。これで25勝目と連勝記録を更新した。

 本来ならこれでストレス解消できて気分よく帰れるのだが、今日はそうなれなかった。というより、5連勝したところですでにそうなってないとおかしいのだが。

 俺はとうとう飽きてしまい、椅子から立ち上がり、ゲームの筐体から離れた。機嫌が悪いままで。


「なんでこうなっちまったんだ」




 今から1時間以上前、俺は魔術協会に連絡を取った。週末に起きた魔物騒動の被害者の中に記憶処理がされていない人物がいるということで。


「そんなはずはありませんよ。記憶処理をし損ねたことすらあり得ない話なのに、効果がない一般人なんて、そんな事例聞いたことない」


 電話に出たそいつは嘲笑しながらそう答えた。


「現にいるからこうやって連絡してんだろ。用もねえのにこんなバカな話で電話かけたりしねえよ」


「しかしねえ・・・・・・それと口の利き方には気を付けた方がいいんじゃないですか?」


「それはこっちのセリフだ。この件は3年前に起きた事件とつながりがある、つまりあの時の前任者が俺の親父だから、今はその権利は俺にあるはずだろ?」


 俺は真面目に対応しようとしないそいつの態度に腹を立てながらそう吐き捨てた。

 魔術協会から出される任務は、基本的に魔術師の家系のある人間に与えられることになっている。ただし、協会に加盟しているものにしか対象されない。そして前任者はその家の党首が請け負うことになる。 つまり、父親を亡くしたことでその権利は俺に譲渡されるというわけだ。


「確かにあの件に関してはそうかもしれませんが、今回は違う。寧ろ君は命令違反を犯していますよ」


「何?」


 俺はそれを聞いて眉を顰めた。


「君は協会からの指示を待たずに勝手に行動しましたよね?」


「それは」


「まあ、あの時は3年ぶりの出現でドタバタしてたから仕方ないですけどね。上も見逃すことにしましたけど、次はどうでしょうかね」


「!?」


「まあ、発生原因も、正確な座標、時間も全く分かっていませんし、現状対処って指示されるかもしれませんけどね、ハハ」


 またしても嘲笑しながらそう答える。正直、次はどうでしょうかねと言われたとき、一瞬背筋が凍ってしまったので、電話の向こうにいるそいつにさらに怒りが込み上がってきていた。俺はなんとか爆発寸前の感情を抑えて冷静を保とうとした。


「とにかく、そのイレギュラーについて確認してほしいんだが頼めるか?」


「あれ?言いましたよね、忘れましたか?」


「あんた一体何の権限が与えられてんだよ」


「まあ、君のような困ったクレーマーの相手をする仕事ですよ」


「おい、てめーコラ!」


 俺はとうとう怒りが爆発してしまい、怒鳴り散らしてしまった。


「・・・・・・まあまあ冗談はさておき、その人物の名前はなんですか?」


「・・・・・・・・・」


「おや?どうしましたか?」


「・・・・・・そいつ、今俺が世話になっている人の娘なんだ。だから手荒な真似だけはよしてくれねえか」


 正直、こんな生意気な態度をとるような奴に頭を下げるのは癪に障るが、もしユイに何かあったら引き取ってくれたユイの母親に合わせる顔がないので、しぶしぶ頼んだ。仮に喧嘩している最中でもだ。


「んー、それを決めるのは上の方だから何とも言えませんねえ。まあ問い合わせてみますけど」


「よろしく頼む」


「それでお名前は?」




 全く面倒なことになっちまった。

 俺が自動ドアの前に立つと、ウィーンと機械音が鳴り開いた。そしてそこを3歩くらい歩いて外に出た。

 俺は歩きながらストレスの原因となった出来事を1つ1つ思い起こしてみることにした。

 週末、突如出現した黒い穴と魔物の襲来。

 記憶処理が効かないイレギュラーがユイだったこと。

 そしてそのユイとただいま喧嘩中ということ。

 ここまで浮かんだところで、俺はため息をついた。もう考えたくないくらい頭が痛い。

 ただでさえ、魔物出現でイライラしているというのにユイのことまで加わってくるとなると、頭がパンクしそうだ。

 ただ黒い穴と魔物については調査中で結果が出るまで待つしかない。もちろんユイのこともだ。となると残るは喧嘩についてということになる。

 俺はパン屋と床屋の境目のところで足を止めた。

 あれ、なんでそんなこと気にしてんだ。もうあいつと関わることはないんだし別にいいんじゃないのか。

 俺はそのことで悩んでいる自分に違和感を感じた。

 確かに記憶操作が効いていないことでユイのことをイレギュラー対象として認識している、ただそれだけのはずなのに。


「俺は・・・・・どうしたいんだ・・・・・」


 しばらくその場で考え悩んでいた時だった。

 突然、強い突風が吹いたのだ。

 俺は不意に右腕で顔を隠し、1歩後ろに下がってしまったが、なんとか吹き飛ばされそうになるのを踏ん張った。

 そしてすぐさま身構えた。嫌な予感がしたからだ。

 まさかまた魔物が出現したのか。

 そう思い周囲を見渡した。しかし、黒い穴はどこにも見当たらなかった。もうすでに魔物が出現して消えてしまったとも考えられるので、俺は注意を払うのを怠らなかった。

 だがいくら周りを見渡し続けても、それらしき影を見つけることができなかった。

 俺はとうとう職業病になってしまったのかと思い、気を抜いてしまった。とはいえ、仕事をしたのはついこの前だけなのでたぶん違うと思うが。


「気負いすぎか」


 俺は再び歩き出そうとした。

 しかし、突然目の前に何かが飛んできた。俺はそれに驚いて咄嗟に後ずさりしたため、なんとか避けることができた。振り返ると、そこに奴がいた。魔物だ。

 全身は深緑の鱗で覆われていて、見た目は蜥蜴のようだった。鋭い爪と牙を擦り合わせ、威嚇していた。


「今度は蜥蜴人間かよ」


 俺はそう言いながら、その蜥蜴人間を睨みつけた。

 その様子を見て周囲の人々は悲鳴を上げながら、その場から一斉に逃げ出した。

 だが、蜥蜴人間はそれに目も暮れず、鋭い眼光を赤く光らせじっとこちらを睨み続けている。


「狙いは俺ってことか」


 俺は制服の襟からクリスタルを取り出し、首から外すとそれを強く握りしめた。


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