処刑された悪役令嬢が思ったよりも冒涜的だった件
フローラはごく慎ましい家の娘だった。
世間のことは何も解らぬ。ただ善良な幼子だった。
しかしある日、騎士達が踏み入り彼女を捕えた。王都で革命が起った日である。
「王の妾とはお前か!娘はどこだ!」
「ああ、どこまであの人は私たちを……どうか放っておいてください」
「ならん!革命が成った以上王の血は絶やさねばならんのだ」
恐ろしい言い争いの後、自分と母は捕えられ、それはむごい拷問にかけられた。
母が死んだ時、自分の中の何かが切れて、そしてはっきりと思い出した。
「あ、これあのゲームじゃん」
ぼんやりとした前世の記憶は、しかし確かにフローラの糧となった。
痛めつけられた体の内に、何か力が無いかと探す。
見つけたのは「生命を操る力」だった。それがよくなかった。
「ああ、拷問吏っていうのは悲しい職業だ……
残虐であることを求められるんだから。おまけに足抜けできない。
善良であってはならないなんて……あまりにも苦しいだろう?
でも大丈夫だ。私が君を救うよ」
フローラはその力によって体を麻痺させ、少々「いじった」拷問吏を眺める。
彼は幸福だった。涙と涎を流して光悦の表情で少女を見ている。
「ああ、ああ……」
「何が見える?」
妖しく拷問吏のデブに囁くフローラ。
「かみがみえます……はい、わたしはひとのはなしをきちんときいてかんがえます。
はい、わたしはひとのはなしをきちんときいてかんがえます。
はい、わたしはひとのはなしをきちんときいてかんがえます。
おお、おお……!この世の真理がみえっる……!うつくしい……」
フローラは慈母の表情でうなずいた。
「そうだね。うつくしいもの、真実、そして善はなにより尊ぶべきモノだ。
そして、それができるのは人間だけだ。それこそが人間である喜びなんだ。
もちろん、人間は同時に獣でもあるから、いろいろと仕方ない部分が多かった」
フローラは優しくデブの頭を撫でる。デブは「おぶっ」と鳴いて白目をむき出した。
「でもこれからは違うんだよ。僕がいる。
獣の愚かさを克服できるようになるんだ。
それは真に人間らしい暖かい生活となるだろう。
そのために協力してくれるね?」
拷問吏のデブは涙を流しながらうなずいた。
「あーああーいー。は……い……すべてはかみのために、てんしさま」
「うん、少し解りやすく説明しすぎたね……まあいいや」
フローラは残り数日となった自身の公開処刑を楽しみにしていた。
■
フローラの公開処刑の日、広場に集まった群衆はまずいくつかのグループに分けられた。
「そういうわけで、私は君たちの思っているような豪華な暮らしなどしていないし、そもそも政治に関わっていない。
この主張をまずは聞いて欲しい。どうだろう、あなたは信じるだろうか?
あなたたちが殺そうとしていたのは、あなたと同じただの普通の市民だと」
フローラは処刑広場に並べられた首ひとつひとつに話しかける。
おぞましいことにそれはまだ生きていた。
「うん、なるほど。うん……そうだね。
とりあえず話を聞く気もないのは処置が必要だ。
それは人間にしてあげなくては」
彼女の手には暖かいへその緒のようなものが握られている。
それは、うずたかく積まれた「群衆の首から下」に繋がっていた。
そして、張り巡らされた神経や血管は個々の首に繋がり、生命維持をしている。
「それから、証拠がなければなんとも言えないってとりあえず話し合いには応じたい層。
これこそ人間だ!人間はこうでなくては!これはこっちに分けて……
あーこっちは、何でも良いから助けてって層か。うーん、もう少し調整がいるな」
首が転がっていくつものグループに分けられ、時には人面樹のようなツリー形にぶら下げられたり。
時にはカボチャ畑のように並べられたり。
分類され「だめ」と分けられたモノには「処置」がされる。
「さあ、獣の愚かさを克服しようじゃあないか。
無辜の子供を処刑するような生き物は人間にふさわしくない。
かわいそうに、ちゃんと人間にしてあげなくては」
王都のおぞましい実験は一晩続き、それから逃れられたものは誰もいなかった。
「ちょっと、その過程で苦労をかけるけど……それでも、成し遂げられたらそれはきっとステキなことだ」
■
それから300年。ドルロンド国の王都は何かがおかしい。
来た旅人はそこの住民の気持ち悪いほどの民度の高さに異常さを感じつつも、
確たる証拠をつかめず首をかしげて去る。
そう、何かがおかしいが、何がおかしいかは誰も解らずにただ平穏な日常が続く。
そこにはフローラという処刑された王女の名前はない。
ただ密かに、夜の闇に、あるいは地底のどこかに……
彼女は今だ潜み「救済」のための研究を続けているだろう。
いわばこれはプロローグだけのパイロット版です。
もう少し練ってまたちゃんとしたの書き直します。