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品川の魚介類は新鮮でうまいな

 さて、まずは自分の目で品川を見て回ることにした。


 目黒川を境に川の北が北品川宿、南が南品川宿となっていて、後に、北品川の北の茶屋町が宿場町として認められ、これを歩行新宿(かちしんじゅく)と言うようになるが、それは享保7年(1722年)のことだ。


 北品川は主に、大名の宿泊する本陣や高級料亭などがあって、南品川がいわゆる庶民が利用する飯盛旅籠や普通の旅籠、木賃宿や茶店などの多い場所だな。


 なので南品川は、宿場町としても岡場所としても賑わっていて、北の吉原、南の新宿と言われるほどに遊女遊びの場所として定着していた。


 東海道は参勤交代で利用する大名も多いためその賑わいは四宿でも別格だ。


 民衆の間でも、伊勢詣や江ノ島詣でのような神社参宮、大山詣りや富士詣といった山岳信仰の詣で、伊豆箱根の湯治などの通り道として使われているしな。


 俺も最近は、東海道をよく使ってる歩いてる気がする。


 もっともあくまでも飯盛女は黙認でしかなく、旅籠側が全く人数制限を守らないので、道中奉行による遊女の摘発も度々行われていたりもする。


「黙認されてるとは言えども、いつ何時行われるかわからない奉行による摘発でここから追放されるよりは、堂々と公許遊郭として営業したほうが良かろうさ」


 品川は風光明媚で、東京湾の向かいには房総半島の山が見え、西側には富士山も見える。


 夜は魚を取る篝火が見えたりもする。


 漁港としても栄えていて、網や一本釣りでとった新鮮な魚の刺身はとてもうまいと評判だ。


 一方で江戸の北の入口である、日光街道沿いに設置されていた、小塚原刑場とともに、南の入口である東海道沿いに設置されている、鈴ヶ森刑場があったりするように、南品川も穢多非人の居住区があり、このあたりの構造は浅草や千住と同様で、吉原遊廓の直ぐ側に非人溜があるように、品川にも非人頭松右衛門の住居や抱非人の居住小屋、罪人を収容した品川溜があった。


 品川の遊女の一部は、吉原と同じように罪を犯し非人となった女が、やらされていたりするわけだな。


 男の場合は目黒川を利用した皮鞣や河川や街道の清掃不浄物の片づけ、門前での乞食や刑場番人などがその仕事になったわけだ。


 これに関しては非人頭松右衛門の管轄なので俺は直接介入できないがな。


「そういえば品川は海苔の主要産地でもあったか」


 海苔というと鮭と同様に日本の朝ごはんの定番だが、戦国時代まで海苔は流木や岩に生えていたものを採り、乾燥させてそのまま食べるだけだったので、割と貴重で高価なものだった。


 それが江戸時代になると、魚の養殖をする生け簀の支柱に海苔が生えているのをみて、木を海中に立てて、そこから採集するという海苔の養殖が行われるようになったんだな。


 無論現代の海苔養殖ほどたくさん取れるわけではないにせよ、海苔が比較的簡単かつ確実に取れるようになったのは大きなことでもあったんだ。


「もともと人の行き来自体は吉原よりずっと多いし観光名所にするのも難しくはなさそうだな」


 しかし問題もある。


 目黒川は周辺に降った雨が集中する地形であるため、少し大きな雨が来るとすぐに溢れ、洪水の被害を受けやすい。


 護岸工事も一部では行われているのだが耕地がせばめられるという理由で水防土手を築くことは許可されなかった。


 結果として水害が度々起こればその復旧費用は幕府も出すんだけどな。


「なんとか洪水対策をしたいとこではあるんだがどうしたものかな」


 それはともかく実際に品川宿の魅力を確認するためにまずは料亭にはいってみた。


「へいいらっしゃい」


「一人だがいいかな」


「へい、おひとりさまですな。

 大丈夫ですよ」


「では、おすすめで頼む」


「わかりやした」


 しばらくしてでてきたのははまず穴子の白焼き。


「ほう穴子か、どれどれ」


 穴子を塩と酒に漬けて、蒸した後で軽く炙ったさっぱりした調理法だな。


「うん、うまいな」


 江戸時代では穴子はどちらかというとうなぎに比べてさっぱりとした魚と考えられてるのだな。


 続いてでてきたのは鯵。


「鯵刺しでございます」


「なるほど次は鯵か」


 からし酢を付けて食べるがこれもなかなかにうまい。


「やはり魚の鮮度が良いとうまいな」


「そりゃ港でとれたての旬魚ですからな。

 そして初鰹の火焼膾です」


 鰹火焼膾いわゆるカツオのたたきだな。


「初鰹とはなかなかに粋だね」


「へえ、ありがといございやす」


 だいぶお高く付きそうではあるがな。


 いわゆるカツオの土佐風たたきだが、三枚におろした鰹を串にさし、藁でまわりを軽く焼いて塩と酢を振りかけて、包丁の背でたたき、それらを染み込ませて厚めの刺身にして、その上におろした生姜、もしくはにんにくなどをのせてまた叩いて食べる。


「うむ、これもうまいな」


 そして最後に運ばれてきたのは……。


栄螺(さざえ)の刺し身でございます」


「最後はちょっとあっさりめというわけか」


 酢味噌で食べればこれもうまい。


「ああ、どれもこれもうまかったな。

 勘定はいくらだ?」


「へい2両(およそ20万円)です」


「ああ、じゃあこれでいいか」


 俺は小判を2枚渡した。


「ありがとうございやした、またご贔屓に」


「ああ、また来ると思うぜ」


 まあ、初鰹の値段が1両ほどするし妥当なとこでもあるだろう。


 三河屋の支店をぜひ出したいところだが、暖簾分けをするには遊女も若い衆も足りないか……どうしたもんだろうか。


 その前に吉原と同じように、堀で囲った地域を作らんと駄目だろうから1年位は余裕はあると思うが。

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